互の見解
「おはよー、相変わらず早いな」
「二人ともおはよう、今日も暑いね」
ある程度案をまとめたところで静希と明利が二人一緒に登校してくる
早朝にランニングをしているためにもはやこの二人は完全にセットのようなものだ
「おはよ、おんなじセリフでもいう人間によってこんなに変わるのね」
陽太と明利、似たようなセリフを言っているのに対してこの印象の違いは何だろうか
そんなことを考えながら鏡花はノートを閉じる
「あれ?今日って宿題あったっけか?」
「陽太と同じようなこと言わないでよ・・・ちょうどいいわ、ちょっと意見が聞きたかったところだから」
不思議そうに授業の準備を整える静希に鏡花は先程の研究ノートを渡して見せる
最初それがなんであるかわからなかった静希は何ページか読み進めることで徐々に真剣な目つきになっていく
「・・・よくもまぁここまで・・・本当に頭が下がるな」
「そりゃどうも、それで?どう思う?」
彼らが陽太の能力に対して頼りにならなくとも、鏡花の思考に新しい何かを与える発言が得られるかもしれない
人間一人で考える内容には必ず限界がある、手っ取り早く新しい発想を得るには自分以外の誰かに意見を聞くのが一番なのだ
「能力の見解に対しては俺とほとんど一致してる、訓練の案についても納得できるしあってるとも思う・・・」
「別に同意を得たいわけじゃないのよ、どうすればこいつの能力を完全に制御できるか、何か新しい意見はないかってことを聞きたいの」
鏡花のその言葉に静希は考え込んでしまう
ここに書かれている内容は一度は静希が考えた内容でそれ以上のことを考えようがないのだ
唯一陽太の炎に形を持たせることができることに気づかなかったくらいだろうか
陽太の能力の最高出力を出そうとすることに関しては静希も何度か考えたことはある
だがそれはことごとく失敗してきている
何せ本人次第なのだ
静希が見た青い炎だって一度きり、意識して能力を使用した段階では一度として顕現したことはない
「少なくとも、陽太のあの炎を出すには内的要因じゃなくて外的要因が必要なんだと思う」
「どうしてそう思うの?」
「俺たちが一度見たあの時の状況がそうだったらしい・・・実月さんいわくだけどな」
ノートを返しながら告げられた静希の言葉に、外的要因ねぇと鏡花はため息をつきながら自分の書いたノートを見つめる
能力を操るのは本人の精神だ
成長するにあたってその操作法を精神感覚にするか肉体感覚にするかは分かれるところではあるが、結局は当人の選択次第
そんな能力のことなのに外的要因で解決するなどよい訓練とは言えない
自身ではなく外部からの影響でしか全力を出せないような能力者にしてはいけない
それは実力が安定しないということでもあるし、前衛として安定した出力が求められる陽太にはふさわしくない
どうしたものかと悩みながら鏡花はノートに幾つかの単語を書き込んでいく
外的要因
静希はそのように言ったが、当時の状況を詳しく知っているのは実姉である実月だけのようだ
これから訓練するにあたって彼女に詳しい話を聞く必要があるのかもしれないと、鏡花はため息をついた
「あんたらのほうはどうなの?ちょっとは上達したわけ?」
「俺のほうは相変わらずだけどな、明利の成長は目覚ましいぞ」
褒められたことで明利は少しだけ恥ずかしそうにしながら照れてしまっている
この中で一番自信のない彼女からしたら褒められることはくすぐったくもあり、うれしくもあるのだ
「確か医師免許取るんだっけ?取れるの?」
「えっと・・・基礎知識は大体・・・でもまだ実施項目が数回くらいしかやったことなくて・・・」
「実施って・・・え?手術とか?」
鏡花の問いかけに明利は首を縦に振る
鏡花は耳を疑っていた
確かに明利の医学や生物学に対する知識は多い
だが手術とは人の命に係わる事例がほとんどだ
実際に執刀したわけではないだろうが、それでもその現場に立ち会ったことがあるとなるとその経験はすでに高校生のものとは思えないほどの実力に達しているということだろう
もとより鏡花の明利に対する評価はかなり高いものではあったが、さらにその評価は現在進行形で上がっている
実際の技術は数回とはいえ、明利の口ぶりからおそらく必要な知識はほとんど得ていると思っていいだろう
これは自分たちが一年のうちに医師免許を取ってしまうのではないかと割と本気で思ってしまう現状だった
「でも夏休みにずっと教えてもらってたくらいなのよね?よくそんな暇あったわね」
「うん、教えてくれてる軍医さんが病院に知り合いがいるらしくて交渉してくれたんだ、最初はちょっと怖かったけど、今では平気だよ」
これだ、鏡花が明利を高く評価する理由がこのいざという時の度胸の強さだ
普段は臆病なのにいざという時に正常でいられる、これは自分も見習うべき点なのだろう




