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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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本質と向き不向き

翌日、新たな週の始まりでもある月曜日が訪れる中、鏡花は悩んでいた


ノートには幾つもの項目とそれに対する考察が記されているが、どれも具体案と対抗策に欠けるものばかり


その内容はすべて陽太の強化案に関してだった


毎日のように陽太の訓練に付き合って彼の能力の性質はほぼ正しく理解できた


そしてそのおかげで陽太は新しい力である『槍』を得た


今もなお訓練を続けることでその練度は日々向上している


実戦への投入はまだ難しいがそれでも近い日にそれも可能となるだろう


だが問題はその後だ


確かに槍を扱うことで陽太の戦術は幅を作ることができるだろう


だが鏡花が悩んでいるのはもっと根本的なものなのだ


それは陽太の全力


藍炎鬼炎の名の通り、陽太の全力状態では藍色の炎を出すと静希から聞いている


そして雪奈からも同じ証言が得られた


なのに、今まで陽太が全力を出して能力を発現しても青い炎が顕現したところを鏡花は見たことがなかった


彼は全力を出しているというが、それは全力ではない


陽太の性格から手を抜いているなどと言うことは考えにくい


そして問題なくある程度の操作は可能となっている、部分展開やある程度の出力操作もできるのになぜか最高出力だけが出せない


原理は理解できているのに原因が不明


何か欠落している情報があるのではと何度も頭をひねったのだが、どうにも思いつかない


できるのなら陽太が槍の扱いを完璧にするより早く打開策を見つけたいところだ


何せこの班で陽太の力は主力級と言ってもいい、そんな存在の全力を出せないような状況からは早めに脱却するべきなのだ


戦力を遊ばせておく余裕がない以上、早めに何とかしなくては


かといって静希や明利達に頼っていてはそれほどの成果は得られないだろう

なにせ彼らが長年悩んだ結果が今までの陽太だ


新しい指導者である自分が何か思いつかなくてはならないのにどうにもピースが足りない


「おーっす、今日も暑いな」


「・・・おはよ・・・相変わらず暑苦しいわね」


自分がこれほどまでに悩んでいるのもお構いなしに、何の悩みもなさそうな陽太が朝の挨拶とともに自分の席にやってくる


口では暑いなと言いながら本人は汗ひとつ流していない


気楽なものだなと思いながら鏡花はため息をつきながらノートを閉じる


「なんだそのノート、今日宿題あったっけ?」


「ないわよ、これは私の個人的なノートだから気にしないで」


それは陽太の能力訓練をするうえで自分で作った研究ノートだ


約半分近くまで陽太の能力の特徴や性質、その考察まで書きこまれている


同級生からの頼みだからそこまで気負う必要はないのだろうが、一度引き受けたからには完璧にこなしたい


少なくとも陽太の実力が円熟期になるまでは指導しようと鏡花は決めていた


もし鏡花の教えが必要なくなれば、その時は陽太が前衛として、いや能力者として確固たる実力を有した証でもある


それまでは目が離せないと再認識しながら、今日の授業の準備を進める陽太の姿を横目で観察する


六回目の校外実習の日取りも近いというのに未だ原因がつかめていないあたり、自分もまだ未熟だと思い鏡花はため息をついてしまう


「ん?どうしたよ、なんかあったか?」


「なんでもないわ、自分の情けなさを実感しただけ」


鏡花の返答に興味なさそうにふぅんと呟いて陽太はさっさと準備を終えて鏡花の課した訓練の一環であるイメージトレーニングを始める


陽太の能力は精神状態に大きく左右される


身体能力は申し分ない陽太にとって一番問題なのはその精神状態だ


槍を維持するのにも使用するのにも高い集中力が必要であり、この訓練は欠かせない


物を形にするという工程でイメージするというのは非常に重要な意味を持つ


そのイメージが鮮明であればあるほどに具現化は容易く、逆にイメージがおろそかであれば形にするのも難しい


何よりそれを実現できるという明確なビジョンを浮かべることができるというのは大切なことでもある


できると確信できないならどんなにやってもできるようにはならない


まずは頭の中で技術を容易に行使している自分をイメージさせる


そしてその姿に現実の自分を近づけていく


少しずつ洗練し、少しずつ矯正し、少しずつ強くしていく


そして最後には自分の中にある最高のイメージを超えるのが目標なのだ


この鍛錬は今もなお鏡花が行っているものでもある


「ふぁ・・・ふぇあっきし!」


集中が途切れたのか、唐突にくしゃみをする陽太の頭に丸めたノートで一撃を与える


陽太はもとより体で覚え、体を動かすほうが得意ということがあってか、イメージトレーニングというのはあまり得意ではないようだ


頭の中で浮かべていてもどうしても曖昧になってしまうとは本人の談である


もう少し訓練方法を改善したほうがいいのかなと思い、ノートに新しい項目を書き記し始める鏡花であった


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