射撃訓練と銃の実情
九月も半ばへと移り、少しずつ気温が下がっていくのが実感できてきた頃、静希は自分の所有する銃とにらめっこしていた
三丁の銃、使用条件と使用法はすでに考えてある、そしてそれを実行することも可能な状況はすでに整っている
だが問題がある
もし静希が銃を使用した場合、その弾丸から所有者を特定されることがあるのだ
施条痕と呼ばれるものが、弾丸には必ず残る
それは弾丸を純螺旋回転させるために必要なライフリングと呼ばれる技術の残す痕跡のことだ
いくらエドモンドが手配した銃とはいえ、銃としての基本性能を保持している以上ライフリングは施されているだろう
緊急事態以外で銃を使ったことがばれれば間違いなく資格剥奪の上、刑務所入りも考えられる
無論、戦闘時や実習時以外で銃を使用するつもりなどないが、主に証拠が残るような行為はしたくない
釘などははっきり言えばどこにでもあるために偽装も簡単だし、そこまで意識することのないただの日用品だ
証拠の特定も難しくなるし、何よりどこで買ったのか、誰が所有していたものかなどわかりようがない
だが銃弾は違う
そこに残れば確実に異常とみられるし、施条痕からの特定も容易だ
隠密行動を最も得意とする静希にとって、その場に自分がいた痕跡を残すことは最も避けるべき行為である
銃弾などは貫通、または人体に残留することが多いが、静希の持っている三丁の銃は威力が低く、貫通することはほとんどないと言ってもいい
つまりは銃を放った相手の中に自分が攻撃したという証拠を残すことになる
一撃必殺で相手を否応なしに完封できればいうことなしだが、そんな都合のよいことはほとんどと言っていいほど起こらない
何より殺してはいけない状況だってあるのだ
如何に銃を自らの行動理念と合致させるか、どのようにして証拠を残さないように銃を使用するか
山積みになっていた問題のいくつかは解決しているが、最後に残ったのが放った銃弾の回収方法だ
「静希君、そろそろ時間だよ?」
「あぁ、悪い・・・んじゃいくか」
近くで休憩を終えた明利が、狙撃用の銃を構え射撃訓練を始める中、静希も同じように自らの銃を構えて現れる的へと射撃を繰り返していく
今静希達がいるのは夏にも使用させてもらった訓練場にある射撃訓練用の空間だった
さすがに夏休みのように毎日というわけにはいかないが、毎週日曜日には自ら足を運んで訓練にいそしんでいる
夏休み静希達がお世話になった部隊はすでに訓練を終えて別の場所へと遠征に向かっており不在だが、ほぼ毎日のように通っていた静希と明利は顔パス同然の扱いとなっており、特別に使用が許可されていた
次々現れる標的をできる限り正確に打ち抜いていくが、どうしても頭などの部位は当たりにくい
まずは体の中心部分に弾を集中させることでその命中率を上げようと心掛けていた
自らの手に収まる銃を扱う上での問題は大まかに分けて三つ
まずは銃声
銃を撃つうえで消音器などをつけることで銃声を抑えることはできるが、生憎と静希はそのようなものは所有していない
次に硝煙
銃を放つうえで飛散する硝煙によりある検査をすれば銃を撃ったことが一目瞭然となる
最後に銃弾
放った銃弾を回収しようにも、人体内部や壁や床などにめり込んでしまっては即時回収は難しい
この三つの中で銃声と硝煙に関してはほぼ問題なく解決した
その方法は釘を収納したのとほとんど同じ方法である
放った銃弾をトランプの中に収納しておくのである
銃そのものではなく、銃から放った弾丸を収納しておけば銃声も出ないし硝煙もまき散らさずに済む
今もこうして、射撃訓練をしながら着実にトランプの中に銃弾を収納しつつある
そういう意味では隠密行動を得意とする静希にとっては非常に有効な手ではあるのだが、問題は弾丸の回収だ
先も言ったように静希の持つ銃の威力はそこまで高くない
それは銃にこめられる銃弾の大きさ故である
比較的小さい銃に収まる以上、その弾丸も小さいものとなり、その威力も低くなる
静希の持つ三丁の銃では人体を貫通できるかどうかも怪しいのだ
射線上にトランプを配置しての回収がほぼ不可能
そうなってくると静希にとってこれ以上ないほどの武器であるはずの銃の使用が、確実に襲い掛かる面倒事の種になりかねないのだ
武器を持てば無論責任を求められる
ナイフや刀剣のように自らの技量で加減のできるものならまだしも、銃は全く違う
もし一発でも誤射してしまえば確実にお縄だ
だからこそこうして訓練はしているものの、できる限り不安要素は排除したい
できるなら銃弾も回収して証拠などを残さない完璧な状態を考えておきたいのだが、今の静希ではそのようなことは考え付かなかった
今回から十三話が始まります
今回の話、実は過去最長の長さです
もう少しコンパクトにすればよかったなと後悔しています
これからもお楽しみいただければ幸いです




