表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

466/1032

方策と危険性

『シズキ、私はまだ納得していないわよ?』


日中、鏡花たちの訓練を見ながらもメフィの説得は続けていたが、未だ悪魔は首を縦に振らなかった


あの美しい魂を消すようなことはしたくないと言い続けるのだ


『でもな、このまま放っておいたら意思が歪んで悪霊になるかもしれないんだぞ?それってお前の言う美しくない色になっちまうんじゃないのか?』


『むしろ私としてはどこまで汚れずにいられるのかを眺めていたいんだけどね・・・第一ね、意志の残骸程度じゃそこまで被害でないわよ』


確かに今この世界に存在しているのは本人ではなく、本人の残した意志の片鱗だ


その場で何をするかはわからないが、能力者の霊と言えどそこまでたいそうなことができるとは思えない


霊が人間などから影響を受けるように、その逆もあり得るかもしれないがそこまで甚大な被害、死者などは出ないだろうとメフィは予想しているようだった


予想される被害から考えれば悪魔が出るような事態ではないのは確かだ


だがそれ以前に静希はひとつ気になることがあった


『なぁメフィ、何でまた今回はそんなに頑ななんだ?』


今までメフィと口喧嘩とまではいかなくとも意見が食い違うことは何度かあった


だがどれもその時の気分だったり、日によって考えが変わることなんてしょっちゅうだったのだ


気まぐれで気分屋、メフィの性格はそれだけで表せるが、どうにも今回は気分だけで言っているだけではない気がする


『・・・確かにシズキ達人間からしたらわからないかもしれないわね、前も言ったけど、あの霊の魂、すごく綺麗だったの』


『・・・まさかそれだけが理由か?』


綺麗なものを見ていたいとメフィは言った


それだけが理由なのであれば容認しがたかったが、メフィはまさかと簡単にそれを否定する


『人間の魂の色ってね、すっごくいろんな色があるの、濁った色や、混ざった色、澄んだ色もあるし、煤けた色もある、それは年月を重ねるごとに複雑になっていくの、経験と、記憶と、感情が魂に色をくわえていく・・・』


経験とともに色を重ねていく


油絵などの技法にもある、色を重ねて塗ることによって厚みと深みを作り出すというものだ


平面に描かれた物のはずなのに、そこには奥行にも似た新しい次元が生まれることがある


人間の魂もまた然り


時を経て、経験を、記憶を、感情を重ねていくうちにその魂の色は深みを増していく


『私はあんな色は見たことがない、そしてあれほどの色を残したあの霊が何を望んでいるのか、何のためにあれほどの意思の残骸を残したのか・・・私はそれが知りたいの、だからあの霊は消したくない』


それは好奇心というより、知識欲が刺激されているといったほうが正しいかもしれない


何百年以上もこの世界に存在し、未だ自らの知らぬ何かがある


テレビなどを眺めているときよりも、ずっと嬉しそうな、楽しそうな声を出してメフィは静希にはっきりとそう告げた


『だからねこれはお願い、あの霊を消さないで、そしてあの霊が何をしたいのか、それを探し出してあげて』


『・・・お前から食い物以外でお願いをされる日が来るとはな・・・』


静希とメフィの間に命令といった一方的な言葉は存在しない


両者が使うのはあくまで『お願い』だ


自身が何か対価を与える代わりに、願いをかなえてもらう


対等契約故に互いが互いを尊重し合う、まさか悪魔のほうからお願いを持ちかけられるとは思っていなかっただけに、静希はわずかに眉をひそめていた


こうなってしまうと、メフィに頼んで霊を消してもらうというのは本格的に難しいだろう


それどころか静希の力で何とかしなくてはならなくなったかもしれない


自分の能力などたかが知れているというのに、なんと無茶を言う悪魔なのだろうか


『邪薙、お前としてはどうなんだ?あの霊・・・何が目的だと思う?』


『・・・何とも言えんが、あの場から動かなかったということはあの部屋に何かがあるのだろう・・・それとシズキ、一つ確認しておきたいことがある』


『なんだ?』


邪薙の問いかけに静希は口の中にあったものを飲み込みながら脳内での会話を続ける


そろそろ夕食も終わろうという中、静希は黙々と食事を続けている


時折目を閉じて会話に集中しているところを班員は何度か見ているために、静希が人外たちと会話中であることを察知していた


『あの霊をオルビアに拘束させて収納するつもりか?』


『一応そのつもりだ、逃げられないようにするにはオルビアに捕まえててもらうのが一番だろ』


オルビアは霊装とはいえ、静希の能力のおかげですべてのものに触れることができる状態となっている


可視状態の意思の残骸と言えど問題なく触れることができるはずだ


『その場合、トランプに意識を集中すると、何かわかるかもしれんぞ?』


『何かって・・・何?』


何か、などと抽象的なことを言われてもどう反応していいか困ってしまう


特に今回は幽霊のことに関しては邪薙に頼りっぱなしなのだ、もう少しわかりやすくいってほしいものである


『そこまではわからん、だが霊とは人の意思の残骸そのものだ、それをお前が収納し、認識しようとすれば、その霊のことが何かわかるかもしれん』


『・・・あー・・・なるほど、その考えはなかったな・・・』


静希は自分のトランプの中にあるものを知覚できる


物質などしっかりと形あるものであれば認識はたやすいのだが、光など総量やその実態がとらえにくいと知覚も難しくなる


だが今回の相手は幽霊


最初からどのようなものかがわかっており、何より姿形を見ることができた


静希の認識能力から、問題なく知覚できるだろう


問題は何が知覚できるかという話だ


『それなら確かにあの霊が何を求めているのかを理解できるかもな・・・なるほど、光明が見えてきたぞ』


『うむ・・・だがこの方法は効果的であると同時に危険でもあるのだ』


危険


そうつぶやく静希の守り神たる邪薙はわずかに声を曇らせる


彼自身この行為はあまり行ってほしくないようだった


『危険って・・・トランプの中に入れちゃえば問題ないんじゃないのか?』


『いやむしろ逆だ、霊は人間の意思の残骸そのもの・・・お前はそれを覗こうというのだぞ?霊の意思に飲み込まれるようなことはないだろうが、何らかの影響があるかもしれんのだ』


見るということは、同時に見られるということでもある


今静希のトランプの中にいる人外たちは皆一様に確固たる意志と、考えのある存在だ


だが霊は残した未練をただ求め続ける


そこに考えるなどと言う行動は存在せず、ただそれをなそうとし続けるだけ


それこそ、狂ったように未練を追う、それが霊なのだ


仮に霊を知覚できたとして、その霊の本質を覗くことができたとして、それに含まれた狂った何かに静希が耐えられるのか、邪薙の危惧しているのはそこだった


守るための存在でありながら、その守る対象を危険に晒そうとしている


守り神失格だなと自嘲気味に笑いながら邪薙はとにかく注意しろと静希に警戒を呼びかける


静希がそうすると決めた以上、その行動を止めることはだれにもできない


それがわかっているからこそ、それ以上人外たちは何も言うことはなくトランプの中に意識を沈めていった


人外たちの会話が終わり、静希は水を飲んでから大きくため息をつき、どうしたものかなと頭を掻き毟る


「どう?何とかなりそう?」


静希が会話を終えたのを察したのか、鏡花が小声でその成果を確認しようとする


この洞察力はさすがだなと感心しながら視線を天井に向ける


「どうだろうな、今回ばかりは出たとこ勝負になりそうだ」


「あんたにしては珍しいわね・・・勝率は?」


「五分五分・・・いや四六か・・・最悪三七だな」


そうとだけ呟いで鏡花は最後に残っていたおかずを口の中に放り込んで手を合わせる


どちらが自分の勝てる確率であるかは聞かずにいたのは、それを察知していたからだろうか


どちらにせよ、この判断能力の高さは見習いたいものである


全員でごちそうさまの号令を終えた後、静希達は茶を飲みながら小休憩をとっていた


深夜まで、時間はまだある


何かできることがあるのであればいいのだが、生憎とできるのは精神統一くらいのものである


今まで確実に勝てるように策を弄することはあれど、ほぼ何もできないというのは静希にとって非常に珍しい時間だった


一同は女子の部屋になっている和室に集まってその時間が来るまで思い思いに時間を潰している


静希と陽太は携帯ゲームで遊び、明利、鏡花、雪奈、石動の四人は談笑しながらトランプに興じている


城島はテーブルをその場に持ってきて書類を書いており、山崎は部屋の隅で読書していた


そして時間が進み、深夜が近づくにつれて明利の顔色が悪くなっていく

どうやらあの時のことを思い出したのだろう


「ねえ明ちゃん、やっぱ寝てたほうがいいんじゃない?」


「平気です・・・今回は気絶なんて失態は・・・み、見せませんから」


少しだけ強気な発言をしてみせるのだがその手はわずかに震えを見せている

強がりなのが見え見え過ぎて不憫に思えてくるほどだ


そんなに怖いのなら男子部屋に避難していればいいのに


いやむしろ一人でいるほうが明利的には怖いのだろう、だからこそ全員が集まっているこの部屋にいたいのだ


それが幽霊が出ると確定している場所であろうと


「時に五十嵐、本当に出るのか?見ていない私としてはまだ半信半疑なのだが」


「出るのは保証する、もっとも今日出るかまでは保証できないけどな」


まだ一度見ただけのために、幽霊の出現条件までは把握し切れていない


もう少し時間と事前状況がわかるだけの資料があれば何とかなったのだろうが、こうなってしまってはもはやどうしようもない


あとは幽霊が出るのを待つばかりである


累計PV4,000,000突破記念で複数まとめて投稿


一日一回でこのペースは果たして早いのか遅いのか


どちらにせよ、これほど多く読んでいただけれ感謝感激の極みです


これからも至らぬ点は多々あるかと思いますが、お楽しみいただけるように誠心誠意努力していく次第です


この作品を読んでお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ