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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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二人の訓練

「五十嵐たちも投擲の訓練はしたのか?なら手本を見せてほしいのだが」


軽く汗をぬぐった石動が雪奈以外の手本を見ようとすると、静希と明利の視線が陽太に注がれる


この中で一番投擲がうまいのは陽太だ


それゆえの視線だったのだが、陽太はそれに気づいてなお首をかしげる


「ほう、響か・・・暇をしているなら手本を見せてくれるとありがたいぞ」


「いいぜ、しっかり目に焼き付けな」


陽太は石動からナイフを受け取って的のある方向へと歩いていく


静希のナイフを仕込む際に協力しているだけあってその技術は雪奈に勝るとも劣らない


むしろ能力を使っていない状態では雪奈よりも筋力があるために速く、強く投げることができるのだ


「さて、鏡花ちゃんが休んでいる間に・・・静、ちょい相手しておくれよ」


「・・・いいけど、ナイフの模擬戦なんて数か月やってないぞ?」


最近はずっとオルビアを使っての剣術訓練しか行ってこなかったために、体に剣を使う癖が染みついているのだ


こんな状態でナイフの模擬戦をやったら間違いなく怪我をするだろう


「それもそうだね・・・じゃあ鏡花ちゃん、一本剣を作ってよ、適当な西洋剣でいいから」


構いませんけどといって鏡花は地面から形状変換と構造変換を用いて一本のシンプルな剣を作り上げる


以前ある程度の剣の構造は理解していたため、それを応用すれば簡単に作成はできる


だがその剣の性能までは保証できなかった


「ふむふむ、いい感じだ」


受け取った剣で二回三回と空を切り裂きながら自分の手になじませていく


雪奈の怖いところはこういうところだ


どこで手に入れた武器だろうと、どんな形状のものであろうと、どんな使用法だろうと、刃が一定以上あれば完全に操れる


「いいのかよ、そんな出来合いのもので」


静希はトランプの中からオルビアを引き抜きながら両手で構える


「いいんだよ、静にはちょうどいい手加減さ・・・昨日訓練できなかった分、ハードに行くよ?」


「上等だ、今日こそ一撃入れてやる」


静希は両手で、雪奈は片手で剣をそれぞれ持ち、何の合図もなく唐突に打ち合い始める


金属音があたりに響く中、鏡花はその様子に唖然としていた


初めて見る静希の訓練の様子、それは本当に訓練と言えるのかも怪しい


二人は、いや静希は全力で雪奈に向けて剣を振っていた


正確には襲い掛かる剣に向けて防御の意味で剣を叩き付けて止めたり、受け流したり、剣を打ち付けて軌道を逸らす工程を繰り返していた


静希はバランスを崩しながらもすぐに体勢を整えて剣を構えなおす


時に転がり、打ち合い、そして回避し、また金属音を奏であう


しかも静希がよけているのは剣撃だけではない


雪奈は時折蹴りや掌底などの打撃技も含めている


剣先だけに集中していればずっと回避していることももしかしたらできるかもしれない、だがそこに加えて体術までも使用し始めては反応するのは難しい


だが静希もだてに長く訓練をしていないようで、完全な回避はできずとも、芯を外したり腕で払ったりと試行錯誤しながら戦っているようだった


何分ほど庭に金属音が断続的に続いただろうか、少し大振りに雪奈の剣が横に振りぬかれる瞬間、静希は体を沈めながら雪奈の剣を受け流し懐に潜り込む


そして横から振りぬく形で雪奈の胴体に剣を走らせる


当たった


鏡花がそう確信した瞬間、雪奈が笑う


「いい動きだね、でもまだ甘い」


雪奈の体に刃が当たる瞬間、彼女の足がオルビアの柄を握っている静希の手を強く蹴り、その動きを止めながら静希の首筋に刃を当てる


「十二分か・・・結構もつようになったね」


「今のは決まったと思ってたんだけどな・・・」


「うん、そうだね、剣だけの戦いなら当たってただろうさ、でも戦いは何も剣だけじゃないからね」


嬉しそうに笑って雪奈は頬から伝う汗をぬぐう


先程鏡花とやっていたよりも時間は短い、だが汗をかく量が圧倒的に多い

それだけ本気で集中していたということでもある


何より鏡花が驚いていたのは静希の剣術である


昔より上達したというのは何度も聞いていたが、まさかここまで上達しているものとは思わなかった


反撃は不発に終わったものの、雪奈が大振りになった隙を見逃さずに攻勢に転じて見せたのだ


静希の観察眼と剣術は確かに向上している


毎日鍛錬することがここまですごいことだとは思っていなかったために鏡花はただ感心するほかない


「ねえねえ、なんで静希はずっと両手で剣を構えてるわけ?」


「なんでって・・・剣がオルビアだからだよ」


鏡花の質問に当り前であるかのように答える静希


そしてその回答に鏡花も理解する


オルビアには重さがないのだ


雪奈の持つ剣のように、剣自体に重さがあれば、その剣の重さと自分の筋力を合わせた一撃を放つことができるが、静希は自分の筋力のみで攻撃しなくてはならない


もちろん時と場合によっては片手持ちにすることもあるだろうが、基本静希はオルビアを両手で持って少しでも威力を上げようとしている


「便利かと思ったけど、結構不便ね・・・ほかの剣は使わないのよね?」


「もちろん、俺の剣はこいつだけだ」


静希の言葉に、ほんのわずかにオルビアが光り輝く


嬉しがっているのだろうか、人間の姿を現さなくても感情がわかるとは何とも素直なものだと鏡花はもう一度感心した


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