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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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最高の教材

瞬間、雪奈が姿勢を低くし、踏み込んだ


柄部分で振り下ろされる鏡花の腕をわずかに打ち付けて軌道をそらし、横をすり抜けるように移動するさなか腹部に一撃、そして体を反転させて首筋に一撃


対応、反撃、止め


一瞬のうちに腕と腹と首に攻撃を受けた鏡花は鈍い痛みにバランスを崩しながら地面に転がり込む


「ふぅ・・・なかなかいい動きだったけど、まだ躊躇いがあったね、最後ちょっと迷ったでしょ・・・結果、今ので鏡花ちゃんは一回死亡だ」


全ての攻撃は柄部分で行われており、一滴たりとも血は流れていない


だが腕に残るわずかなしびれと、腹部に残る鈍痛と、首筋にまるで添えるようにあてられた優しい一撃


その気になれば雪奈は鏡花の腕を切断し、腹を割り、首を落とすことができただろう


雪奈の実力を知っているからこそ、そしてその痛みを知っているからこそ、鏡花は震えた


「わかったかな?未熟な攻撃は危険を及ぼす、そして完全な防御をもってすれば、反撃は容易なのだよ」


「・・・静希に防御を教えてる意味が分かった気がします・・・」


雪奈の手を借りながら立ち上がる鏡花は、まだ体が震えている


その震えは、自分が殺されそうになったからというだけではない、先程自分が雪奈に振ったナイフ、もし万が一雪奈が本当に動かなければ、きっと鏡花のナイフはあの肩を切り裂いていただろう


実際に自分が誰かを傷つけそうになった、そのことが鏡花に震えを発生させる原因になっていた


「本当なら、あそこで私が斬られるのも方法としてはありだったんだけどね、さすがによそ様の家で流血沙汰はまずいっしょ」


「ちょ・・・もしかしてぎりぎりまで動かなかったのってどっちにするか迷ってたんですか!?」


鏡花の叫びにそうだよと雪奈はまるで悪気なくあっけらかんと笑っている


後輩に技術を教えるためとはいえ、自分がわざと斬られようなどと正気の沙汰ではない


なるほど、この姉貴分にしてあの弟ありだと、鏡花は割と本気で思った


「まぁでも、結果的に防御の重要性と、それで攻撃する意味はしっかりと理解できたみたいだね」


鏡花の体を未だ支配する震えを見て雪奈は少しだけ申し訳なさそうに、そして嬉しそうに微笑む


恐らくは幼馴染トリオ以外にこういった指導をするのは初めてなのだろう、加減がわからなかった、というよりほかに指導法を知らないが故に少し怖がらせてしまったことを申し訳なく思っているようだった


だが鏡花とてここで食い下がらないわけにはいかない、自分と雪奈だけがここにいるのなら弱音もはいただろう、方法を改めるようにも言っただろう


だが自分は班員三人にしっかりとみられている


まるで通過儀礼だとでもいうかのように、三人は鏡花に視線を向けている

あの三人を前に、情けない姿は見せたくなかった


自分のことを天才だと言い、仲間であるとしてくれる彼らに、格好悪いところは見せたくないのだ


「それじゃ雪奈さん、さっさと防御を教えてくださいよ、今度はこっちが反撃して見せますから」


顔を思い切りたたいて全身に活を入れ、足を地面に叩き付けることで、強制的に体の震えを止めさせる


「驚いた・・・ふむふむ、さすがは静たちの班長だ、そうでなくちゃ」


雪奈は本当に意外そうで、そして本当にうれしそうにナイフを構えて笑う


「まずは私が手加減しながら攻撃するよ、オーバーアクションでもいいからまずはそれをよけること、当たりそうになったら寸止めでも柄打ちでもしてあげるから安心してね」


よけることは防御ではないと思われがちだが、れっきとした防御手段でもある


特にナイフなど武器自体の大きさが小さいものは防御可能な面積が限られている以上、回避したほうが安全な場合もあるのだ


それに何より、素人にナイフを使って防御しろなどと言ってもできるはずがない


まずはナイフの軌道や速度に目を慣れさせること、そしてその結果どう動けば的確な防御を行えるのかを試行錯誤させる


教えるということはしない、自身で覚えるのだ


ナイフの使い方、体の動かし方、正しい構え、呼吸


手本は眼前に最適ともいえる存在がいる


これほど参考になる教科書はほかにない


頭ではなく体で覚えるというところにおいては少し変わっているが、それでも得られるものは大きい


「もし疲れたら言ってね、その時は静と同じことをやって手本を見てもらうから、真似しろとは言わないけど、参考にはなるでしょ」


ちらりと縁側を見て静希に視線を送ると、俺を巻き込むなよと言っているかのように静希は嫌そうな顔をする


ただ見ているだけで済むかと思っていたのにとんだとばっちりである


「じゃあ行くよ、死ぬ覚悟はいいかい?」


「逆に殺し返して見せますよ、あんまり油断しないで下さいよ?」


それは楽しみだと雪奈は本当にうれしそうに笑う


ここまで教えがいのある生徒は久しぶりなのだろう、ナイフで軽く遊んだあと、体をゆっくりと動かして鏡花に向けて切りかかった


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