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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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暴走の元凶

「あーあ、なんてことしてくれるのよ」


突如聞こえてきた声に、全員が周囲を見渡す


「誰だ!?」


聞いたことのない女の声、どこから聞こえてくるかもわからない声


熊田を見てもどこから聞こえているのか、誰かがどこかにいるのかもわからない


明利の索敵も誰も近くにいないと告げている


なのに声は聞こえていた


「せっかくいい身体が手に入って、色々観光でもしようと思ってたのに、台無しだわ」


周囲を見渡していると、エルフの少女の体から黒い霧のようなものが漏れ出していることに気付く


「なんだ・・・?」


黒い霧は徐々に形を持ち始めている


その形は大きくなり、やがて人の形をし始める


「お前達!さがれ!」


森の中から黒い服を着た監査官の腕章をつけた男性が出てくる


その手にはナイフが握り締められている


「今度は誰だよ!?何だってんだよ!?」


「まて、この人は監査の先生だ」


熊田が陽太を制止して目の前で起きていることに対して備える


「先生、これなんなんスか?この霧なんですか」


「・・・」


監査員は口を開かない、いや開けないのだろうか


「ひょっとして、これが精霊ってやつとか言うんじゃないでしょうね・・・」


「こんなどす黒いのが精霊か、想像したくないな」


静希の想像した精霊は白を基調とした神々しい物だったために、こんなどす黒く、禍々しいものだとは思ってもいなかった


「精霊?あんな物と一緒にしないでくれるかしら坊やたち」


霧の形はやがて明確になっていく、それは人の、女性の形へと変貌していく


頭には湾曲した角、褐色の肌に黒い眼球に金の瞳、肉感的な身体にすらりと伸びた手足、長くしなやかな銀色の髪


「あいつは精霊ではないな・・・」


「あら、そこのはわかるみたいね、違いの分かる男って好きよ?顔は好みじゃないけどね」


まるでどこかの色女のような口調だ、言葉の節々からは何の威圧も感じられないのに眼前に存在する彼女の姿その物から圧倒的な存在感が彼らに襲いかかる


「それで、貴様は何者だ、いったい何の目的でこの少女に憑いていた!?」


「目的って、私はその子に召喚された立場よ、巻き込まれた言わば被害者なの」


この少女が召喚した、この得体のしれないもの


静希が真直ぐにその体を観察していると女性は嬉しそうに髪を揺らす


「そうね、じゃあかわいい子供達もいるし自己紹介からしましょうか、初めまして坊やたち、私はメフィストフェレス、わかるかしら?」


「・・・メフィ・・・スト・・・」


「・・・確かファウストが召喚した、悪魔の名前・・・だっけか・・・」


記憶を頼りに静希がつぶやくとメフィストフェレスと名乗った女性は正解!と指さしてほほ笑む


「意外なところから答えが出たわね、その通りよ坊や、私は精霊じゃない、まして神でもない、私は悪魔よ、それもとびっきりの上級悪魔」


その言葉に全員が顔をゆがませる


精霊さえ見たことがないのに悪魔の登場である


だが眼前に忽然と現れたこの存在を能力なのかとか人間なのかとか議論するのはすでに遅い


「この少女の体を使って、何をしようとしていた!?」


「あら、勝手に呼び出しておいて契約もできないような小娘を保護してあげていたのよ?おかげで今の世界が少しだけ見れたけど、その子たちに邪魔されちゃったし・・・」


言葉が徐々に重くなる、空気がだんだん張り詰めていく


「せっかくこの辺りを見れると思ったのに、せっかく手に入れた、何百年ぶりかに手に入れた身体だったのに、邪魔されちゃって・・・」


静希達のような実戦経験の少ない者でもわかる、ありありとした、殺意


「ちょっとだけ、腹が立ってるかな・・・」


金に輝くその眼は、静希達を捉えて離さない、彼女の纏う空気が呼吸すら困難にさせていく


「お前達、その少女を連れて退却しろ」


突如、静希達の後ろから声がする


「お前達の任務は終了した、これは任務じゃない、すぐに逃げるんだ」


「あら、内緒話?私も混ぜなさいよ」


小声で話しても完全に筒抜けである、だが目の前の悪魔は少し考えてにやりと笑う


「そうね、そこの男の子、名前は?」


「・・・五十嵐静希」


「そう、シズキが私の正体を言い当てたご褒美に、五分だけ作戦なりなんなり立てていいわ、私はのんびり待たせてもらうから」


完全に遊んでいる、こちらを、監査員がいるというのにそれさえも意に介さないというのか


「好都合だな、いいか、お前達はこの少女を連れて全員で山を下りて城島先生に報告しろ、その後は村に被害が及ばないように警護だ、なんでかさっきから携帯が圏外なんだ」


静希があわてて携帯を確認すると完全にアンテナの反応がなくなっており圏外の文字が表示されている

かろうじて無線の方は生きているようだ


「先生はどうするんですか?」


「あいつの足止めをする、少しなら何とかなるだろう」


「そんな!先生も二年生もいるんすよ?全員でかかれば」


「事はすでに一個小隊規模の作戦ではない!中隊、いや一個大隊規模の問題になっているんだ!」


その言葉に絶句する


静希たちが考えていた以上に、事は壮大なことになってしまっている


静希達四人編成の班+補佐と指揮を小隊とするなら、それが数個集まって中隊、その中隊がさらに数個集まって大隊となる


それほどの大人数がいなくてはならないとは


「ひょっとして、この辺りに動物がいなかったのって・・・」


「あの悪魔から逃げるためだったんだろうな、動物の勘は鋭い、生存本能も言わずもがなだ」


本来監査員とは生徒が危うい行動をしないように監督し、監視、審査するのが目的でほとんど人前に姿を現さない、それが監視対象ならなおさら姿を見せてはいけない


なのにあの悪魔が姿を現した瞬間ためらいなく現れた、今の状況はそれほどの緊急事態なのだ


それこそ動物も逃げ出すほどの


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