異なる食事風景
「あ、ちゃんと生きて帰ってきた」
居間に到着した瞬間のその物言いに静希は眉間にしわを寄せながら班長鏡花をにらみつける
「お前な・・・助けるとかそういうの無かったのかよ」
「冗談でしょ、あの状態でなんか言ったら私たちまで巻き込まれたわよ、そんなのまっぴらごめんね」
班長でありながら班員を助けるような気概はゼロである鏡花を前にしてなぜ自分がこんな目にと心底この状態を恨んでいた
自分の失言が原因であったとはいえ、もう少し穏便に事を運んでほしかったものである
仮に静希と二人で話す状況を作るために城島があの空間を作り出したのだとしても、もう少しやりようはあったのではないかと思ってしまうのだ
そんなことを想いながら食卓に着くとそこには肉野菜炒めや卵焼き、ウインナー炒めなど簡単に用意できる料理が大量に置かれている
普段から料理をしているのだろう、大人数での昼食だというのにここまでのものを即座に用意できるというのはなかなかの腕前である
「五十嵐君ごめんなさいね、藍ちゃんが無理を言ったみたいで」
事情を聴いたのか、山崎は少しだけ申し訳なさそうに、そしてかなり嬉しそうに静希に謝罪を述べてきた
恐らく石動が自分の知るやんちゃな頃と、あまり変わっていないことを知って喜んでいるのだろうが、巻き込まれるこちらとしてはたまったものではない
「いえ、大丈夫ですよ、ただもう少し聞き分けがいいとよかったんですけどね」
「な、五十嵐!その言い方はひどくないか?私は私なりに心配して」
「心配する人間はあんなに嬉々として襲い掛かってこないっての」
石動の反論を一蹴して静希は大きくため息をつきながら目の前にある食事に目を向ける
そしてそれを察したのか、山崎が手を合わせて全員で号令する
頂きますの言葉とともに、雪奈と陽太、そしてそれに続き石動が大量の料理に食らいついていく
前衛型の人間は料理をとにかく多く食べるきらいがある
特に石動は自分の血液が能力発動の媒介になっているために、たくさん食べることが必須なのだろう
だが性格によってここまで食べ方が異なるというのは、見ていて壮観だ
陽太や雪奈は次々と口の中におかずを放り込み、咀嚼しながら米を入れ、さらに汁物を注ぎ込んで飲み込むという、あまりにも忙しい食事工程を行っている
箸が届かなければ身を乗り出すことも多く、お世辞にも行儀がいいとは言えない
ちゃんと噛んでいるのか疑問にも思えてしまう
食べながら騒音でも奏でているのではないかとすら思える陽太と雪奈に比べ、石動の食べ方は非常に静かだ
姿勢は正しく、茶碗を持って一口一口しっかりと口に運んでいるのがわかる
そこまで食事のマナーに詳しくない静希でもこの食べ方が本来正しいものなのだろうなということがうかがえる
だがそのスピードが半端ではなく早い
がっついている陽太や雪奈のそれとほとんど変わらない速度で茶碗の中の米がなくなり、出されているおかずに箸を進めている
「なんか意外ね、石動さんって結構大食いだったんだ」
「ん・・・そうか?私も前衛の人間だ、それなりに食べなければやっていられない・・・むしろお前たちは食べなさすぎではないか?」
体が資本の前衛の人間と比べられると確かに静希達はそこまで大食らいというわけではない、特に明利の食事の量は平均から見ても非常に少ない
だから身長が伸びないのではないかと昔言ったことがあるのを思い出してその小さな体を横目で見ると、明利は自分の腹回りを気にしているようだった
「で、でもそんなに食べるとその・・・太ったりしないの?」
なるほど、明利は体力が増えることよりも体重が増えることを危惧しているようだ
女子にとって体重とは一生戦わなければいけない相手でもある、特に十代の女の子にとって体重とは一キロどころかグラム単位で気になる事柄だ
「そうだろうか、昔からこうだが・・・余計な肉がついたことはないな・・・食べた分だけ動けば何の問題もないだろう」
「それができれば苦労はしないんだけどね・・・私や明利は走り回るようなタイプじゃないし・・・」
前衛型ではない二人からすれば意識的に走り回ることなどほとんどない
移動手段程度の意味合いでしか走ることへ興味を向けられないのだ
わざわざ自分から走るようなことは特別な理由でもない限りはしないだろう
特に鏡花は身体能力もそこそこあり、足もそれなりに速い
明利のように体力強化目的で走るようなこともしないために、体を動かすということ自体が少ないのだ
「だがその体を見るに、しっかりと自己管理はできているようだな」
「当然、自分の体と能力を正しくコントロールできてこそ能力者よ、どっかの誰かさんとは違ってね」
どっかの誰かさんというところで視線を向けられた陽太は少し食べ物をのどに詰まらせながら鬼教官鏡花の視線から目をそらし吹けていない口笛を奏で始める
ごまかすのが下手すぎるなと思いながら卵焼きを口の中に放り込むなか、今度は石動の視線が静希に食い込んでいた
「それにしても、五十嵐のあの技術はどこで身に着けたのだ?なかなか板についていたようだが」
「あぁ、それはそこの雪姉のおかげだよ」
唐突に話を振られ、何のことを言っているのか把握していなかっただろうが、おかげというところだけ聞き取った雪奈はとりあえず誇らしげに胸を張っている
こういうズボラなところがなければ雪奈を自慢できるのだが、人間完璧にはいかないものである




