頭痛腹痛
「お前たちはいつもあんな指導を受けているのか?」
「こ、今回は特に痛いな・・・俺たちに非があっただけに文句言えないけど・・・」
能力者同士の私闘は原則として禁止されている
それが学校内の演習場などであるのであれば問題はないのだろうが、今静希達がいるのは校外、しかも一般住宅も近くにある普通の道である
そんな場所で能力を使って戦えば叱られるのは半ば当然である
「あぁくそ・・・あれで肉体強化ないってんだからなぁ・・・」
一番ダメージの大きい静希がノロノロと立ち上がりながら鼻から流れる血をぬぐいながらしかめっ面をしている
城島は軍にいただけあって身体能力が異様に高い
能力を使う際も体を使いながら発動することが多いため自然と筋肉がついたのだろう
生徒に対して何の迷いもなく拳を振るうところはさすがにどうかと思うが、その威力に関しては感心せざるを得ない
「くっそ・・・これで今夜の行動に支障が出たら先生に抗議してやる」
「支障が出なければ抗議できんのか・・・難儀なことだな」
静希からすれば怒られたことよりも、このダメージが後を引くほうがよっぽど重要なのだ
「支障が出るほどの打撃を与えたつもりはないが、抗議できるものならやってみるといい」
明らかな悪態をついていた静希の頭を全力で掴まれる
山崎の家に戻ったはずの城島がいつの間にかまた静希達のもとにやってきていたのだ
「せ、先生・・・何しに戻ってきたんですか・・・!?」
「いやなに、本題をすっかり忘れていてな、昼食ができたからお前たちを呼んでくるように山崎さんに頼まれてな」
静希の頭を握りつぶしながら朗らかな声音で全員を家の中に入るように促す
本当にこの人に身体能力強化の能力はかかっていないのかと思えるほどの握力に、静希は悲鳴を上げるが、誰しもこの握りしめの犠牲者にはなりたくないらしく鏡花と陽太にせかされるようにその場から立ち去っていた
陽太にいたっては小さく合掌をしているのが見受けられた、あとで仕返しをしてやろうと心に決める最中にも静希の頭は城島によって潰されかけている
その場に残された静希と城島だけとなり、あたりには静希の悲鳴だけが聞こえる中城島は少しだけ力を緩めた
「五十嵐、確認しておくことがいくつかある・・・お前は件の霊をどうするつもりだ?」
その言葉に、静希は痛みを覚えながらももがき始める、答えようにも痛みが邪魔して思考がうまく働かないのだ
「と、りあえず・・・トランプの中に入れてみて・・・そのあとの反応によっては・・・連中の助けを借りようと思ってます・・・!」
「・・・借りて・・・どうする?家ごと吹っ飛ばすのか?」
悪魔の力が破壊のみであると誤解している城島からすれば、この言葉は正常である
破壊活動は根本的な解決とは言えないが、少なくとも現状の打開にはつながるだろう
「いえ・・・メフィ曰く、何とかできるけどやりたくないってことらしいので、そこは説得するつもりです・・・」
「何とかできる・・・ね・・・」
城島はいったい何を考えているのだろうか、時折静希の頭部にかける力を強くしながらその反応を楽しんでいるようにも見える
当の静希からすればたまったものではない
「明日帰ることを考えると、チャンスは今日しかないぞ?できるのか?」
「わかり・・・ませんけど・・・やるだけやってみます・・・!最悪・・・幽霊の存在ごと消すことになりかねませんけど・・・」
「・・・そうか」
存在を消す、それが一体どういうことなのか城島には理解できない
静希だって理解していないのだ、そしてメフィの言う手段が本当に存在ごと消すものなのかは定かではない
結局は静希の能力次第なのだ
「てか・・・そろそろ離してくださいよ!」
「あぁすまなかった、あまりに掴み心地がよくてな」
最後に全力で静希の頭を締め上げ最大級の痛みを与えたのちに、城島はその頭を開放する
完全に趣味でやっているのではないかと思える言い草に、静希は自分の頭を抱えながらうずくまってしまう
「ちくしょう・・・頭変形してないだろうな・・・?」
「安心しろ、人間の頭部はその程度では潰れない」
まるで潰したことがあるかのような言葉に静希の背筋が凍り付く
もしかしたら自分が何か問題を起こした時には、本当に頭を潰されるのかもしれないと邪推しながら二人で山崎の家に戻っていく
「あ、静希君・・・大丈夫?」
玄関で待ってくれていたのか、明利が心配そうに静希を見上げてくる
あの惨状を見て唯一静希に心配をしてくれる明利に感動し、頭をなでながら痛いけど平気だと答えて昼食の待つ居間に向かう
頭は未だに鈍い痛みを伝え続けているが、そのおかげもあってか腹部の痛みは和らいでいるように思えた
別のところを痛めつけられたから麻痺しているだけかもしれないが、少なくともこれから昼食をとるうえで腹部の痛みが消えたのはありがたかった




