加減と決着
そして石動が足を踏み外したのを見計らい、静希が深く、そして低く踏み込む
姿勢を低く、オルビアの柄を彼女の体に向けて下から突き上げるように全力で体当たりする
いくら能力で身体能力を上げていても体重が変わるわけではない
静希と石動の体格差は明確だ、それだけ体重にも差がある
静希の全力での体当たりは、体勢をほんの少し崩していた石動に的確に命中し、その体を少しだけ浮かせて後方へと退けることに成功する
そして石動の体が宙に浮いたその一瞬、攻撃に集中できるその瞬間に静希のトランプから彼女の足めがけて釘が射出される
白い肌めがけ放たれた釘は、その肌と肉を突き破りながら深く突き刺さる
はずだった
放たれた釘は数ミリしかその肌に食い込んでおらず、筋肉にすら達していない
体当たりによって突き飛ばされた石動は難なく着地して自分の体を軽く払い、少しだけ刺さった釘を軽く引き抜いて見せる
「まいったな・・・読まれてたか」
「さすがに気づくさ、あぁもあからさまに足を狙っていてはな」
石動の能力は血液の操作
固体化することもできれば、体内の血流を操ることもできる
そして体内にありながら固体化させることだってできる
石動は体内にある毛細血管内の血液を固体化させ、疑似的に硬度を高めて釘が突き刺さるのを防いだのだ
もちろん、血管内に凝固した血液を作るなどと言うことは非常に危険な行為である
血流を阻害するだけでなく、細胞へエネルギーを届けることができなくなる上にほかの血管に負荷がかかる
身体能力の強化がかかり、僅かながらでも血管の耐久力も高まっているかもしれないが、下手すれば血管が破裂することもあり得る危険行為
だからこそ、石動は先程静希が狙った筋肉の部分と同じ部位にしかこの防御法をとらなかった
「五十嵐、お前は賢い、状況を打開できるだけの閃きもある、だからこそ読みやすい、特に私に気を使ってくれているのではな」
これがいつもの、どんな手でも使うような静希であれば読まれることもなかったかもしれない
だが今、静希はできる限り彼女に傷を作らないようにしたうえで戦闘を終了させることに終始していた
限定された状況であるが故に読まれた
「さぁ、もう一度聞いておこう、白旗を上げるか?」
石動の問いに、静希はわずかに笑う
「一応こっちも聞いておくか、ここらでやめる気はないのか?俺としちゃそろそろやめたいんだけど、まだ満足してないのか?」
静希の問いに石動は当然だと返す
どうやらまだ彼女の中での合格点には達していないようだ
どちらにせよ、まだ戦いは続くようだった
静希は大きくため息をついて、そしてほんの少しだけ、あの笑みを見せた
鏡花のトラウマともなっている、あの邪笑を
「んじゃ、手段は選ばなくていいな?」
「・・・上等だ、行くぞ!」
石動が再び静希めがけて接近し拳を振りかぶる
次の瞬間、石動の体に痛みが走る
その痛みのせいでそれ以上足に力を込めることができず、石動はその場に膝をついてしまう
その痛みは彼女の臀部、つまりは尻に突き刺さる釘が引き起こしていた
人間が立つときに体を支えるのは足だけではない、腰や尻といった部分も足を動かすうえで重要な筋肉を備えている
しかも細い脚以上に狙いやすい
治療しやすい四肢に傷を作れればそれがベストだったのだが、それができなくなってしまったのでは仕方がない
「これで血で覆う量はさらに増えた、次は腹を狙う、その次は背中、その次は肩、狙いやすい部分から潰していく」
静希の見せる笑みにわずかに戦慄を覚えながら石動はその場に留まっている
今どういう状況なのかをほぼ正確に把握している
先程からもそうだったが、静希は余計な傷を作りたくないが故にわざわざ石動の隙を作るような面倒な真似をしてまで攻撃箇所を絞ってくれていた
だが、その心遣いが今なくなった
静希はどのような場所に打ち込んででも、この戦いを終わらせようとしている
いわば、完全にねらいを定められている状況だ
「もう一度聞く・・・ここらでやめる気はないのか?」
それは最後通告のようなものだろう
これ以上は続けたところで静希の機嫌を損なわせるだけ
何より自分の身が危ないのだ
「わかった、お前の実力はよく分かったよ・・・完敗だ」
「アホか、思い切り手加減しておいてよく言うよ」
石動に手を貸して立ち上がらせながら静希は悪態をつく
彼女は今回の戦いの中でいくつも制限を作っていた
それは静希が気づいただけでも数多い
少なくともそれは静希がまともに戦える程度のレベルまで、自分の実力を制限していたことだけは確かだ




