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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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思考と戦闘

石動の能力は彼女の体内にある血液に依存している


本来彼女は事前に用意しておいた自らの血液でできた輸血パックを用いて能力の強化を図るのだ


だが今はそれがない


体に纏うことのできるだけの血液量は限られている、一定以上体内から血液がなくなると人間の体はショック症状を起こしてしまう、それは能力で引き起こされても同じことである


だからこそ先程まで展開していた刃をしまい、拳での攻撃へとシフトしたのだ


血液の総量が限られている以上、彼女に血液を使わせればその分攻撃の幅も狭まり、勝ちの目も見えてくるというものである


静希の目算で石動の身長は百六十半ば、スレンダーではあるものの比較的健康的な体格であると思われるために体重もそれなりにあるだろう


軽く血液の量とそこから失血しても問題ないだけの量を頭の中でざっと計算してみる


人間の血液量は体重から求めることができる


女性の場合は体重の約七パーセント程度が血液だ


仮に彼女の体重が五十程度だとすれば血液の量は3.5リットル


もちろん目算であるために正確ではないが、1リットル程度の血液を体外に出せば貧血やそれに近しい体調の異常を引き起こすことができるだろう


もしそれ以上の血液を出せば危険水準を超える


基本的に人間の体内に流れている血の半分以上を失えば失血死するとされている


血を操ることのできる石動だ、その程度のことは彼女が一番よく分かっているだろう


故に静希が狙うのは失血による戦闘不能


足を負傷させれば比較的安定して石動の体内から血を体外に出すことが可能だろう


足は行動の全ての基盤、だからこそ石動は攻撃手段を変えてまで自らの足を血液で覆い動かしているのだ


静希はオルビアを構えてゆっくり石動に接近する


わざわざ相手から動くのを待つまでもない、彼女の拳がぎりぎり届かない程度の距離まで接近して切っ先を石動に向ける


意識を研ぎ澄ませ彼女の両拳に集中する


血液で固めているほうでも、素手のほうでも攻撃されてもいいように構えていると、一拍置いたのち、石動が動く


踏み込むと同時に振るわれた拳を静希はぎりぎりで回避する


斬撃とはまた別の、一直線に襲い掛かる恐ろしい速度の拳


集中し予備動作を確認でもしていなければ、そして彼女が足に負傷を負っていなければ確実によけられなかったであろう一撃だ


しかも今回は刃の一つだけの攻撃ではない、両方の拳を縦横無尽に静希の体めがけて放ってくる


刀身で傷つくことなどお構いなしの攻撃、素手のほうでの一撃は静希の防御の時に傷ができてしまうが、次の瞬間には血液でコーティングし攻撃にも防御にも耐えられるだけの固さを誇る拳へと変化させていた


斬撃と違うのは手数だけではない、拳一つ一つに体重を乗せているために予備動作がわかりやすい、そしてなおかつ静希の持つオルビアと彼女の扱う拳では攻撃可能範囲が異なる


静希が離れればそれだけ石動は接近しなくてはならない、そこに一瞬ではあるものの石動の動作を観察するだけの余裕が生まれていた


無論攻撃全てをよけることができるほど静希は体術に自信はない


だが先ほどの刃と違って体で受けても多少痛いだけで済んでいる


彼女の手加減のおかげなのだろうが、すべて芯を外して腕や肩、オルビアなどで拳を受けるような形で耐えていた


そんな猛攻の中、隙などできるはずもなく、無理やりにでも先ほどと同じ構図を持ち込もうと踏み込むのだが、その瞬間を見極めて石動も同時に距離を作ってしまう


「どうした?アプローチをかけてくれるのは嬉しいが、がっつくのは好みではないのだ」


「さすがに二度も同じ手は通じないか」


確実に足を狙うには石動の足を止めなくてはならない


だが静希も石動もゆっくりではありながら移動しながら攻撃と回避を繰り返している今、止める方法は静希が鍔迫り合いにも似た筋力対抗をしている合間くらいのものだ


踏み込んでいる一瞬を狙えればいいのだが、一瞬でも拳から意識をそらせば容赦なく石動の拳は静希をとらえるだろう


数秒とは言わない、数瞬でいい、攻撃に集中できる時間があれば確実に命中させるだけの自信はあった


だが問題はどのようにその隙を作り出すかだ


もういっそのこと催涙ガスをぶち込んでやろうかと面倒くさそうになりながらも静希は思考を止めない


急な踏み込みは確実に回避される、あれだけ静希に意識を集中されては、前に出ようとした瞬間に距離を取られるだろう


少し考えたうえで静希の思考はある一つの結論へと至る


多少痛いかもしれないが、背に腹は代えられない


覚悟を決めて拳を放ち続けている石動との距離を少しずつ広げていく


回避の時に行うバックステップの距離を少しずつ伸ばしているのだ


もちろんその分石動の接近距離は長くなる


だがそこは身体能力強化をしている石動だ、静希が意図して離せる距離など誤差でしかない


さらに静希が距離をとり、回避した瞬間に石動は勢いよく前へと踏み出し拳を振るう


それを何度繰り返しただろうか、静希が回避し、石動が前に出る


その瞬間、彼女の足に違和感が訪れる


いや、足にではない、彼女の足元に異物がある


一体何か、それを確認するより早く静希の苦悶の表情が接近していることに気が付いた


そう、静希は距離を離し無理に石動を自分に接近させ、意図的に離す距離を縮めることで距離感覚をほんの一瞬だけ狂わせた


もちろん前衛に身を置いた石動ならばすぐに修正できる程度のものだっただろう


だが彼女が感じた異物が問題だ


それは静希の足


小石程度ならば何の問題もなく踏み込めただろうが、人間の足ほどに大きい異物があったせいで石動は足をほんの一瞬だけ踏み外してしまう


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