エルフとの対峙
雪奈の言葉を聞いていた石動は少しだけうつむいてため息をつき、立ち上がる
仮面の奥のその眼は何かを決意したような強さを秘めていた
「五十嵐、少し付き合ってくれないか?」
「付き合うって・・・何を?」
石動に続いて立ち上がり仮面の奥に潜む瞳をのぞき込もうとするが、その前に静希の眼前に指が突き立てられる
「お前に、今回の件に一人で対応できるかどうか、試させてもらう・・・私と勝負しろ、そうでなければお前を一人残すということは容認できない」
能力者が単独で行動することは大きなリスクを含んでいる
他人からのフォローもなく、助けを求めることもできない
行動の幅も狭くなるし、万が一には死に至る
それは今まで世話になったからこそ、静希を危険な目に合わせたくないという石動なりの親切心だった
もし静希が傷つけば、幼いエルフの姉妹は悲しむだろう
もし静希が失敗すれば、自分の恩師が自らを責めるだろう
そんなことはさせたくない
だからこそ、静希の正確な実力が知りたかった
人から聞く評価などではなく、自分で確かめたかったのだ
単独で行動させても、確実に生き残ることができるだけの実力を持っているか否か
今回のことを静希に依頼したのはほかでもない石動なのだから
「ちょっと待てよ、さすがにそれはちょっと無謀じゃね?エルフ相手じゃ静希じゃ相手にならねえって」
「何も私を倒せと言っているわけではない、力を示せと言っているだけだ・・・危険な行動をしようとしている友人を止めないほど私は薄情ではない・・・それにお前たちのそれが信頼だとしても、言葉だけで納得できるほど私は素直ではない」
石動の言い分も正しい
言葉だけでは何の証明にはならない
仮にほかの人間が信頼を寄せていたとしても、自身が判断しなくてはならないこともある
信頼は時に目を曇らせる
それに、他人ではなく自分だけが気付ける危険だってある
それ故に、石動は自分の目で確かめたかったのだ
「五十嵐、不満も何も、すべて言いくるめるのだろう?なら、私も言いくるめてみろ・・・ただし実力を示すという形ではあるがな」
「・・・それって言いくるめるって言わなくないか?第一、目的のためなら普通俺の身の危険なんて二の次だろ」
静希が考える優先事項の中で、自身の身の安全は普段高い位置にあるものの、必要な時は最低の位置に変化することもある
静希は稀に自分の命も担保にして行動する、そうしなければことをなすことができない場合に限るが
「家主が先生でなく、お前に頼んだのが私でなければそうしただろうな・・・だがこの状況だけは譲れん」
「・・・お前って・・・頭固すぎて損するタイプだな・・・」
そうかもなとわずかに笑みを漏らしながら石動の決意は揺らがない
そして静希もその決意に押され、観念したのか小さくため息をつく
「わかったよ、ここじゃあれだから外に出よう・・・雨も降ってないみたいだしな」
外の様子を確認したうえで静希は軽く腰を回して準備運動をする
それほどいい天気というわけではないが、少なくとも先日のような大雨でもない
今にも降り出しそうな曇天ではあるものの、まだ雨露は姿を見せていなかった
「言っとくけど、お前相手だと手加減とかできないからな?そこは勘弁しろよ?」
「望むところだ、全力で来い、でなければ意味がないからな」
その仮面の下は、おそらく笑っているのだろう
それが楽しいからなのか、それとも嬉しいからなのかはわからない
少なくとも静希は全く楽しくも嬉しくもなかった
わざわざ危険に首を突っ込むほど静希はバカではない
しかも静希は夏休みの東雲姉妹の能力鍛錬の際に石動の能力を直に見ている
はっきり言ってあれに勝てる気がしなかった
静希と石動、そしてそれを観戦するべく外に出た生徒たち
山崎家から少し離れた道で静希は軽く準備運動をしていた
そして石動も同じように体をほぐしながらいつでも動けるように調整し始めている
何の実益もない戦いといえど、手を抜けば確実に重傷を負いかねない
無論、エルフである石動相手に手を抜くなどという行為ができるほど静希の戦闘能力は高くない
東雲姉妹と違い、完成した一人のエルフ
この場にいる全員で襲い掛かれば確実に勝つことはできるだろう
だが単体での戦いとなれば勝てる見込みがあるのは雪奈くらいのものである
「一応聞いとくけど、勝利条件は?」
「そうだな・・・私を倒すか、または私の気が済むまで」
「こっちの勝つ確率すごい低くなった気がするぞおい」
倒せとは言っていないと言っておいて倒すことが勝利条件の一つに食い込んでいる時点でなかなかの難題だ
結局石動が満足するまで静希は石動と戦わなくてはならないのだから
トランプの中に収納しておいたオルビアを再度引き抜き、いつでも戦えるように軽く振ってみる
「それじゃあ、遺恨の残らないように戦いなさい、五十嵐静希対石動藍、互いに名乗りを上げ、礼」
互いに一歩前に踏み出し頭を下げる
「歪む切り札、五十嵐静希、よろしくお願いします」
「霊泉の使徒、石動藍、よろしくお願いします」
互いに礼をし、即座に戦闘態勢に移行する
気迫がぶつかり合うよりも少し早く、石動の能力が発動する




