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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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親族の思い

「遺品はすべてここに?」


「えぇ、送られてきたものはすべてここに置いてあります」


段ボールの中を確認してもそれ以上に気になるものは入っていない


手掛かりにはなりそうなのだが、調べるのに少し時間が必要になりそうだ


「おい五十嵐、あまり山崎さんに迷惑をかけるなよ?」


段ボール箱の前で唸っていると部屋の入り口に城島が現れる


捜索に付き合わせたことを咎めに来たのだろうが、今この場ではナイスタイミングと言わざるを得ない


「先生、この軍服見たことありますか?」


軍服を見せながら聞くと、城島は受け取りながら怪訝な顔をして軍服を眺め始める


「何を突然・・・これは旧日本軍のものだな・・・階級は・・・今と少し違うな」


「あら、軍のことが少しわかるのですか?」


「えぇ、一度軍に身を置いたこともありますから・・・って、これは当時の能力者部隊のものじゃないか?」


城島の言葉に静希と石動は顔を見合わせる


驚愕、というほどではないが意外な事実が浮かび上がったことで二人とも何とも言えない表情をしている


「先生、先生のご主人は能力者だったのですか?」


「えぇ、確かにあの人は能力者でしたよ?」


「でも、山崎さんは無能力者なんですよね?」


石動は山崎は無能力者であると言っていた


だが無能力者と能力者の結婚は非常に珍しい


そもそも出会いの場がないのだ


能力者は戦いなどの非日常に生きる場所を見つけ、無能力者は日常に生きる場所を求める


いる場所自体が違うのにどうやって出会うのだという話だ


だからこそ、山崎の夫も彼女と同じように無能力者とばかり思っていたのだ


だがなるほど、当時の能力特殊部隊に入っていたのであればエルフに友人がいたというのもうなずける


「えぇ、私は確かに無能力者です、今と違って昔は能力者と無能力者の結婚なんて珍しくなかったんですよ?夫とは幼いころから交流がありましたから」


山崎の言葉に静希は意外そうに傷ついた軍服を見つめる


時代、というやつだろうか


今はほぼ完全に無能力者と能力者の生活環境は分けられている


能力を持った人間を強制的に専門学校に入学させ、指導し、限られた職場へと配属する


よほど優秀な人でなければ無能力者もいるような職場に入ることはない


それは無能力者を、そして能力者を守るためでもある


無能力者が能力者を恐れるように、また能力者も無能力者により作られる社会を恐れている


自らが排斥されることを恐れていると言ったほうがいいかもしれない


今の社会は無能力者と能力者をできる限り分けることで、互いの衝突と余計な争いを避けている


それ故に、無能力者と能力者の格差と、明確な認識の違いが生まれるのだ


だが戦時中、まだ能力者に対する教育の制度が完全に整っていなかった頃、試験的にしか能力者の投入を行えなかった頃、まだ能力を持つ者と持たない者は互いに近しい存在だったのだろう


出会いもあれば、恋もする、諍いもあれば、争いもする


互いに傷つくこともあるが、それは本来あるべき、人としての姿なのではないかとさえ思える


今の能力者は、それこそ兵器か獰猛な動物の扱いだ


もちろんそれも間違ってはいない、危険を遠ざけ、正しい指導を行うことは人としての必須条件だ


どちらも間違っていないからこそ、どちらも正しいからこそ、その社会性が長く続く理由ともなる


二つの人種が同じ空間で暮らしていた時代


そんな時代があったのだなと少しだけ感慨深くなりながら、静希は城島から軍服を受け取り、丁寧に畳んでから段ボールの中に戻す


「でも、どうして夫の遺品を?今回のことと何か関係が?」


山崎の言葉に、まだ説明をしていなかったことを思い出し、静希はどう説明したものかと悩んでしまう


自分の夫が化けて出ている


そんなことを知って喜ぶ妻などいないだろう


だからと言って嘘をつくこともしたくない


どうやって伝えたものかと悩んでいると、山崎はその様子を見て少しだけ目を伏せた


「そう・・・そういうことなのね」


静希が何かを告げるより早く、山崎は少しだけ息を吐いた


片手を段ボールの上に置き、もう片方の手で静希の頭をなでる


唐突に頭をなでられたことで静希は一瞬困惑するが、振り払うようなことはしなかった


「大丈夫よ、心配しないで、私はあの人を愛している、どんな姿になっても、私はあの人の妻ですから」


何も言っていない、静希はただ写真のことを聞き、その写真の人物の遺品を確認しただけ


もちろん状況的に見てこれだけの内容がそろえば勘付く者もいるだろう


だが彼女は、静希が山崎を傷つけずにどう伝えようかということを悩んでいることまで気づいたのだ


本当に心でも読んでいるのではないかとさえ思える観察力に感服してしまう


本当に、出鱈目なほどに規格外だ


「今回、あの部屋に出ている霊は・・・あなたの夫である可能性が高いです・・・もしかしたら俺たちは、貴女の夫の霊を、消すかもしれない」


それは最後の手段


メフィは手に余るといったが、もしあのままにしておくようなことがあればいつ変質してしまってもかしくない


だからこそ、まだ何の問題もないうちに対処しなくては山崎にも危険が及ぶかもしれない


メフィを説得するという形になるが、それでも、やることはやらなくてはならない


「あの人が・・・それなら一目会いたいものね・・・」


夫と死に別れてから相当の時間がたっていても、山崎の夫に対する感情は全く変わっていないようだった


懐かしむように、そして悲しむように頬に手を当てて憂うような眼をどこか遠くへと向けている


「五十嵐、一応忠告しておくが面倒は起こすなよ?」


「わかってますよ、俺だって面倒はごめんですから」


城島の言う面倒とは悪魔や神格を暴れさせたりするようなことを指す


静希自身そんなことはさせたくないし、何より今回はそんなことをしないで済ませたいものである


「ところで先生、先生は幽霊って見たことあります?」


「なんだ藪から棒に、残念ながら私は見たことがないな」


実戦経験の多い城島でさえ幽霊は見たことがないようだ


幽霊の実物というとなんだか変な言いかたな気がするがそれは置いておいて、そうなると今回のことは確実に静希が何とかしなくてはならないことになる


少なくとも今の状況ですでに明利は戦力外通告だ


そもそも攻撃が通用するかどうかも怪しいところである


これは早急に対策を講じないとまずいことになるかもしれない


そもそも触れることができていない状態でトランプへの収納が可能かどうかも怪しい


触れようとすると霧散する、それが静希に対してのみか、ただ単にあらわれている時間経過の関係なのかわからないが、滞在期間が限られている以上早めにけりをつけるに越したことはない


「五十嵐、どうするのだ?先生の旦那さんが幽霊だということはわかったが・・・」


「どうすっかなぁ・・・とりあえず部屋に戻って作戦会議か・・・っていっても俺がやるしかないからどうしようもないんだけどなぁ・・・」


今回は完全に静希の単独任務と何も変わらない


何せまずトランプの中への収納が第一条件になるからだ


そこからすべてが始まり、そして決まるといっても過言ではない


「山崎さん、わざわざありがとうございます、石動、部屋に戻るぞ」


山崎に礼を言い、段ボールを元あった場所に戻してからその場から離れる


女子たちが寝泊まりする幽霊部屋に戻ると、いろいろと探し回っていたはずの班員はほとんど探すことに飽きてしまっているようだった


「あ、帰ってきた、探したけどなんもないわよこの部屋」


「意味ありげな札もシミも血の跡も一切なし、やる気あんのかその幽霊は」


幽霊にやる気があるとシミやら血の跡ができるのかはさておいてとりあえず静希は全員に今回の幽霊の正体、というか誰の幽霊なのかを説明することにする


説明し終えると全員神妙な面持ちになり、どう反応していいのか迷っているようだった


それもそうだろう、この中のだれもが近親者の死に立ち会ったことがないのだ


だからこそ今回の件をどうすればいいのか迷ってしまう


「わかってはいたことだけど、これも結構な面倒事ね、石動さん、今回の件高くつくわよ?」


「あぁ・・・安請け合いとはいえ面倒を押し付けてしまった、本当にすまないと思っている・・・」


ただ単に強力な相手と戦うのではなく、心情的にやりにくい


そもそも誰かの夫を、いや夫の残留思念ともいえる存在に対応しなくてはならないのだ


強硬手段に出るとしても相当厄介である


「で?静希はどうするのよ?面倒な手順を踏むなら手伝うけど?」


彼女の言う面倒な手順とは悪魔や神格の力を借りるという意味だろう


この場に石動がいるせいで妙な隠語を使わなくてはいけないのがつらいところではあるが、今はそんなことは言っていられない


「一応、今夜はもう一つのほうを試そうと思う、こいつに頼ることになるけどな」


そういいながら静希はトランプの中から霊装オルビアを取り出す


ただ人の姿はあらわさずにただの剣としてその手に持って見せた


そう、この霊装オルビアは静希の能力の影響により如何なるものにも触れることができるという特殊効果を持っている


それは透過状態の悪魔にも有効である点を見れば、おそらく幽霊にも有効だろうことがわかる


オルビアの力を借り幽霊を拘束し、トランプに収納する


それが今できる静希の最善策なのだが、そこから先どうなるかは静希自身まったく判断できない


「そうなると私たちにできることは、幽霊が出てる時にそこから退避するぐらいかしら?」


「そうだな、ついでに明利がまた気絶するかもしれないから対応してくれると助かる」


「こ、今度は気絶しないように気を付けるから平気だよ!」


強がってはいるものの、あの時の記憶を頭の中に思い浮かべているのか冷汗が止まらないようだった


怖いのなら恐いと素直に言えばいいものを、年齢を重ねるせいで変なプライドができてしまっているようだ、まったくもって性質が悪い


「なぁ静希、それなら俺も手伝えるんじゃないか?たぶん触れるだろうし」


陽太の言葉に静希はふむと口元に手を当て思案を開始する


確かに陽太は以前、メフィと戦闘したとき物質を透過している状態のメフィに触れることができていた


その理屈で言えばおそらく幽霊にも触れられるのではないかとも思うのだが、そこまで考えを進めたところで静希は首を横に振る


「ここが屋外だったらそれでもよかったんだけどな、この家でお前の力使うと火事になるからな、それはさすがに看過できない」


いくら陽太が幽霊に触れられるかもしれない能力を有しているとはいえ、この家から幽霊を排除したいのにこの家をなくしてしまうようでは本末転倒だ


完全なる屋内で、しかもほとんどは木材でできているこの家の中で能力を使うのは危険のレベルが些か高すぎる


「そうなると俺らは完全に外野だな・・・暇なのは性に合わないんだけどなぁ・・・」


「そういわないの、ダムの時だってあんた何にもしてなかったでしょ?今回は静希の番、しっかり働いてもらわなきゃ」


あの時働きづめだった鏡花からすればいい機会なのだろうが、確実な対応ができるかわかっていない静希からすれば無駄に圧力をかけられていることに等しい


もう少し何とかできるだけの実力が自分にあればよかったのだが、如何せんそんな都合のよい力を持ち合わせていないことが悔やまれる


「五十嵐、そうなると私にできることも・・・ないのか?」


「そうだな、今回やるのは俺だけだ、深夜零時になったら陽太もつれてこの部屋に来る、そんで現れたら部屋から出てくれるとありがたいかな」


その言葉に石動はわずかながらに動揺していた


何もできないということはわかっていた、だがそこにいることですら許容されないことに対して、少しながら悔しさのようなものを感じているのだ


「五十嵐、少し護衛を残しておいたほうがよいのではないか?その・・・お前はそこまで能力が強くないのだろう?なら万が一にも攻撃されたときに誰かが盾にならなくては・・・」


石動の言い分は、八割方正しい


収納系統であり、なおかつ能力の弱い静希の単体での戦闘能力はたかが知れている


それは石動が知人から聞き及んでいた静希の批評だ


もちろん、これは間違いではない


収納系統の能力者と、戦闘向きの能力を保持した能力者の戦闘能力など雲泥の差である


もちろんそれは静希も例外ではない


一対一の戦闘なら、静希は鏡花にも石動にも勝てないだろう


「石動さんやめときなさい、いたところで静希の邪魔になるだけよ」


「なんだと・・・?だが・・・」


それ以上の発言を許さない鏡花に、石動はわずかに疑念を覚えていた


だが、静希の班でともに行動した全員が静希の能力を知っている


それは静希の能力だけの力ではない


悪魔、神格、霊装、奇形種、それらすべてが静希とともにある


万が一、霊が静希を攻撃してきた場合、鏡花や陽太、雪奈や石動では静希を守れない可能性がある


何せ物理攻撃が効くかも怪しいのだ


それならば、自分たちよりも何倍も強く、安心して任せられる人外に頼ったほうがいい


その場合石動の存在がネックであることは何よりも明らかである


石動だけ外に出すことができればよいが、それは明らかに不自然、それ故に鏡花たちは外に出るということを選択したのだ


もっとも、そんな静希達の都合を知らない石動からすればその対応は明らかな悪手にしか映らない


石動は静希の力のことも、そしてこの班の実力もよく知らない


優秀であることは理解している、だがここまで互いを信頼できるだけの理由がわからなかった


幼馴染だろうと、昔からの付き合いだろうと、実力的にここまで信頼できるものが静希にあるのか、そこが理解できなかった


少なくとも自分なら静希を一人置いて、安全なところでのうのうと待機していることなどできるはずがない


「・・・お前たちはそれでいいのか・・・?五十嵐が危険になるかもしれないのに・・・なぜそうまで任せられる?」


石動のその問いに、一班の人間は微妙に答えにくそうに悩んでしまう


どう答えたものか


静希の抱える秘密にもかかわることなので返答は慎重に行わなくてはならない


「そんなの決まってるじゃん」


だがそんな流れを断ち切るかのように雪奈がそう答えた


一班の人間ではないが、静希と最も長く一緒にいた姉貴分


それ故に、彼女は返答に迷わない


「誰でもない静がそうするって言ったんだ、なら私たちがどんなことを提案しても静以上の結果は得られないよ」


「・・・そんな・・・それは考えていないだけでは・・・意見を募ればもっといい策だって」


「静は最初からみんなに意見を聞きながら策を考えるよ、そして不満とかそういうのも全部言いくるめる、そのほうが効率いいからね」


自分の弟分のことは自分が一番よく分かっている、それこそ本人以上に


そういうかのように雪奈は堂々と静希を語る


そしてそれは、ほとんど正しい


「静が考える以上のことを私は考えられない、そして静が考えることはきっとうまくいく、今までがそうだったからね」


もはや理屈も何もないただの経験論


だがそれ故に、雪奈の言葉には理屈を超えた説得力があった


「もちろん心配だけどね、それでも、静の立てた策なら任せられる・・・だって静は私の自慢の弟だもん」


誤字報告が十件分溜まったので三回分まとめて投稿


ようやく予約投稿から抜け出せました、もう少しで危ないところでしたが


これからもお楽しみいただければ幸いです

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