彼の手がかり
この家の当主の写真だろうか、若い人のものもあれば高齢の人物のものまである
そのすべては男性でどこか目元や口元が似ている
特に変わったところはなく、白黒の写真が主ではあるもののすべてよく撮れていると思える
「あれがどうかしたのか?」
「一番右の写真見て、似てない?」
何に似ているのかと聞く前に静希はとりあえず写真を見てみる
飾られているのは二十代くらいの男性の写真だ、昭和の時代によく使われていた帽子や服装が特徴的な写真である
そしてよくよくその写真を注視すると静希は記憶の中に、その写真に写る人物と似た存在を見つけることができる
「あれって・・・昨日の・・・?」
それは静希と雪奈が見た幽霊の顔に瓜二つだった
幽霊の顔は少しだけ靄がかかっていたものの、輪郭がわからないほどではなく、表情も僅かに確認できる程度だった
そして壁にかかる写真、あれが何を意味しているのか確かめるのが先決だが、あの顔、他人の空似にしては似すぎている
あの霊をどこかで見たことがあるかと思えば、先日の昼間にもあの写真を見ていた、覚えているはずである
「石動、ちょい山崎さん呼んできてくれないか?」
「ん、構わんが・・・何かあったのか?」
「あぁ、ひょっとしたら手がかり見つけたかもしれない」
写真をよく観察してそこに何かこの人物に関する情報がないか探すのだが、どうしても見つけられない、角度のせいもあるだろうが、おろしてみれば何かわかるかもしれない
「五十嵐、呼んできたぞ」
石動に引き連れられてきた山崎は不思議そうな顔をしながら部屋の様子を眺めている
自分に何ができるのだろうかと思っているようだが、この家のことはこの人が一番よくわかるはずだ
「わざわざすいません、あの写真についてなんですけど」
静希の指の先にある写真を見て山崎は一瞬憂いを含んだ表情をする
何かを思い出すような、悲しむような、懐かしむような、複雑な表情だった
「あぁ・・・あれは私の主人の写真なの」
「ご主人の・・・失礼ですが、ご主人は・・・」
「・・・戦争に行ってね、それでも帰って来たわ、もう話すことはできなかったけれど」
聞いてはまずいことを聞いてしまったようだが、今さらどうしようもない、聞かなければ思考は前に進めないのだ
それが地雷であろうと地雷だからこそ踏み抜かなくては危険は除去できない
「ご主人が亡くなった時はもうこの家に?」
もしあの幽霊が山崎の夫であるならば、戦争のころからということは半世紀以上前の話だ
それほど長く存在していてもなお自らの意思が揺らがない、なるほど、邪薙の言う通り大した人物なのだろう
「えぇ、私も若かったけど・・・あの人との思い出のある家からは離れたくなくて・・・」
「・・・遺品などはありますか?」
「ありますよ、ここではなく別の部屋にありますが・・・」
もし遺品に意思が込められた、または未練のあるものがその遺品であるなら話は早かったのだが、この部屋にないところを見るとおそらくは違うだろう
だが一応手がかりに変わりはない
「あの山崎さん、このタンスって何が入ってるんですか?」
「そのタンスには服とか布とか、裁縫道具、それにいろいろ入ってますよ、何が入っているのか私も覚えていないの」
さすがにタンスの中を勝手に開けるというのは気が引けたのか、同調するだけにとどめていた鏡花もその返答に困ってしまう
どうやら特に変わったところはなかったのだろう
具体的には札が張られているとか、変なシミがあるとかだが
「山崎さん、一応ご主人の遺品を見せてもらっても構いませんか?」
「えぇ、こちらです、藍ちゃん手伝ってくれるかしら?」
「はい、わかりました」
部屋を出て、おそらくは山崎の寝室に移動した静希達
静希と石動が一緒になって押し入れの中に入っているダンボールを取り出すと山崎は封をてきぱきと開けていく
その中にはいくつかの衣類、そして軍服、帽子、錆びた拳銃や身に着けていた装備、そして古びたお守りがあった
遺品というにはあまりにも少ない
当時からすればこれくらいが当然なのだろうか
いや、むしろ戦争に行きながら遺体と遺品が一緒に戻ってくるということ自体が奇跡に近い
ご主人は運の悪い中では運の良いほうだったのだろう
遺品の軍服を山崎の許可をもらって広げてみる
確かに深夜に見た幽霊が着ていたものに似ている
恐らくは日本軍が戦時中に使用していた軍服だろう
実際に見るのは静希も初めてだが、その服のいくつかの場所に血がついているのに気付く
服もいくつか破損が見られ、このあたりに致命傷を受けたのだろうということがうかがえる
確信は深まっていくのに、なぜかおかしいと思ってしまう
遺品などはここにあるはずなのになぜここに出ないであの部屋に出たのか
今日で予約投稿は終了です
約一週間も予約投稿してしまい申し訳ありませんでした
これからもお楽しみいただければ幸いです




