人外から見た幽霊
『なぁ邪薙、お前から見てあの霊、どうだった?』
実際に見た静希を通して邪薙もあの霊の姿を見ていたはずだ
この中で一番霊に関して詳しい邪薙なら何かわかるのではないかと思い、部屋を捜索しながらトランプの中にいる神格へと語りかける
『見た限り、あの霊は存在してから随分と時間がたっているように見受けられた・・・だが思いが毛ほども劣化していないようにも見えた・・・』
『・・・どういうことだ?長い時間漂うとそれだけ歪むんじゃ・・・』
邪薙の以前の説明では、幽霊は人間が自然に発する想いや感情を取り込んで変異してしまうと言っていた
長時間この世界に留まり続けていたのであればそれだけ人の想いや感情に影響されて元の思いが変質しているのではないのだろうか
『そう、そのはずなのだ・・・だがあの霊は自らの元の姿を忘れかけているものの、その存在の核たる物がまったく歪んでいなかった・・・存在してからどれほど時間が経過しているのかはわからんが・・・大した魂の持ち主だったのだろう』
邪薙の言葉は何の偽りもなく、飾りもなく、本当に感心しているような声で綴られた
できるのならば生きている間に一目見たかったものだと告げて、邪薙はそれ以上の言葉を続けることはなかった
どのような言葉で表そうと、どんな表現を用いようと、おそらく邪薙が覚えた感動を静希に伝える術はない
神であるが故に、多くの人を見てきた
この世界に移ろう中で、多くの人の霊を見てきた
悪意に満ちたもの、使命を帯びたもの、強く誰かを想うもの
それらがどのような意思によって残されたものであるかは邪薙は知らない
だがみな一様に、少し時間がたつと自分がそこにいた本来の目的から外れ、歪み、変質していった
自らの形を忘れ、狂気にとらわれ、生きている者への憎悪へと掻き立てられていく
それが普通なのだ
なのに、この部屋にいたあの霊、自分の姿を忘れかけるほどの長時間、この世界に留まり続けたはずなのにもかかわらず、その本質を欠片も忘れていない様子だった
『メフィ、お前からしたらどうだ?何とかできそうか?』
今度は悪魔に問いを投げかける
もし静希の能力がどうにもならなかった場合、メフィか邪薙の能力に頼らなければならないのだ
『・・・そうね・・・少なくとも、何とかすることはできるわ・・・でもあれは私の手に余るわ』
珍しいメフィの弱気ともとれる発言に、静希は眉をひそめた
声音もそうだが、そんな弱気な発言をしたのも初めてかもしれない
それに何とかできるのに手に余るとは、少し妙な言い回しだ
『一応聞いてもいいか?どうしてそう思う?』
『・・・魂の色がね、見えたのよ』
魂、以前メフィも言っていたことのある生き物になら必ずある存在
過去、悪魔の中でそれの取引が流行ったということも聞いたことがある
だが意思の残骸たる幽霊を通してそんなものが見えるとは予想外だった
『動物もそうだけど、人間の魂にはわかりやすく色が見えるの、誰一人として同じ色はなく、どんな人にでも濁りや淀みがある、少なくとも私が今まで見てきた魂にはすべてあった』
けどねと続けてメフィはわずかに息を吐く
ため息というにはあまりに弱く、まるで自分が息を吐くという行為を確かめるような、漏れるような吐息だった
『あの色・・・すごく澄んだ青色だった・・・幽霊だからかもしれないけど、とても綺麗な、混ざり気のない、本当に綺麗な青い魂だったわ』
思い出すように告げるメフィの言葉に静希は少しだけどう反応したものか困っていた
メフィがここまで絶賛するのは珍しい
それが特に人間に対するものだからこそなのだが、ひどく違和感がある
『シズキには悪いんだけど、私はあの魂を壊したくないわ・・・あんなに綺麗なんだもの』
『・・・それって、邪魔するってことか?』
静希の言葉にまさかとおどけて見せる
『邪魔はしないわ、けど協力はできない・・・綺麗なものは少しでも見ていたいと思うのが女の子よ?』
少しだけ笑うメフィに静希は苦笑する
気まぐれであるのは知っていたが、まさか魂が綺麗だから壊したくないといわれるとは思わなかった
もう少し別の理由でもあれば説得できたのだろうが、こうまで単純なものだと説得は難しいだろう
『お前の手に負えないんじゃしょうがないな・・・こっちで何とかしてみるよ』
少し落胆する静希にごめんねとつぶやいてメフィはそのまま声を止める
今回メフィの協力を仰ぐのは難しそうだ
そんなことを考えている中、部屋を捜索していた雪奈が何かに気づく
「ねえ静・・・あの写真・・・」
「ん・・・?」
雪奈が指差すその先には壁に立てかけられたいくつかの写真があった
おそらくは山崎の言っていた壊さないでほしい写真だろう
今日も予約投稿
そろそろ誤字報告が溜まってくるころかな?
これからもお楽しみいただければ幸いです




