男子と女子のそれぞれ
「・・・なんかすごい不名誉なこと言われてる気がする」
「あ?なんだそりゃ」
ところ変わってここは男子部屋
静希と陽太が携帯ゲームで対戦しながら時間をつぶしている中つぶやいた言葉に陽太は疑問符を飛ばしていた
「ていうかあれだな、俺ら二人だけになるって結構久しぶりじゃね?あ、ペイントつけてくれ」
「あいよ、七にいるから・・・そういやそうだな、お前は鏡花と、俺は明利や雪姉と結構一緒だし、二人だけになるってのは珍しいかもな」
とはいっても静希のトランプの中には依然として人外たちが居を構えているわけで、二人きりかといわれると首をかしげるところである
「そういえば特訓のほうはどうなんだ?少しはうまく槍を使えるようになったのか?あ、落とし穴作ったぞ」
「あいよ、おびき寄せる・・・つってもやってることは反復練習ばっかだな、特に変わったことはしてないぞ?」
携帯ゲーム機を操りながら会話を続けるあたり男子らしいのだが、その内容は能力者のそれである
これで話す内容がただの世間話であれば普通の男子高校生の風景なのだが
「そういうお前はなんかやってないのかよ、俺らみたいな特訓みたいなの・・・やべ、ちょい離脱する」
「おいふざけんなよここで単騎とか殺す気か・・・とはいっても普段やってる剣術訓練と、あとは入れてるもののチェックと追加くらいで大したことできないぞ俺は」
能力に限界がすでに訪れている静希からしたら能力の強化はさほど意味がない
陽太のように自分の能力を完全に扱いきれていないような人間ならば、まだ伸びしろがある分特訓もできるが、ほぼ完成している静希には関係のないことだった
だからこそ新しい発想や攻撃法が見つからない限り特訓のしようがないのである
新しく拳銃は手に入ったものの、住宅街の多い近辺でおいそれと射撃などするわけにもいかず、かといって以前訓練していた場所まで行くのはなかなか骨だし、何より学校が終わってからでは迷惑がかかる
平日は剣術、休日は射撃
今はそういった訓練をしているのだがそれでも劇的に何かが変わるというわけでもない
「だったらそれこそあいつらに頼んで何とかできないのか?居候たちにさ・・・よっしゃ復活、今助けるぞ」
「ったく、もう少し考えて回復使えよな・・・あいつらに何か頼んだらその分俺の財布が薄くなる、それに無茶な特訓したらこっちが死ぬ、体力的にじゃなくて生命的に」
以前にも一度だけ考えたことがあるのは、メフィの力を借りて自分の能力を強制的に強くするというものだ
今の状況から劇的に変化をくわえられると言ったらその程度しか思いつかない
メフィに訓練をつけてもらうといっても結局できるのは立ち回り程度なのだから、彼女に魔素を注入してもらって能力を強化するくらいしか思いつかないのだ
だが以前城島から聞いていたように、普通の人間が魔素を過剰注入した場合人の形を維持できなくなって死ぬ
一度くらいの能力発動はできるかもしれないが、そのあとに待っているのは確実な死だ
そんな一回限りの地獄へ向けた片道切符を切るほど静希はバカではない
「じゃああれだ、なんかこう悪魔や神の加護的ななんかはないのか?体が強くなるとかよく話にあるじゃん・・・やべ、吹っ飛ばされた、フォロー頼む」
「もう少ししっかり観察しろ、邪薙のやつにはしっかり守ってもらってるけど、加護なんてあったもんじゃないぞ、体は何の変化もないし、むしろ今まで通り、悪魔に至ってはこっちから持ち掛けないと面倒事しか持ち込まない始末だ」
悪態をつきながらも陽太へのフォローをこなしながら、静希の操るキャラクターは敵をひきつけながら攻撃を加えていく
静希が作った時間を陽太は自分のキャラクターを回復することに使っていた
静希のいうように悪魔や神格を引き連れているとはいえ何ら変わったところなどない
普段の生活で甘いものを食べることが多くなった程度だろうか、体脂肪が気になるところではあるが、その程度で太るほど静希たちは怠惰な生活は送っていない
「思ったんだけどさ、お前があいつらを引き連れてるメリットって何だ?あ、尻尾切れたぞ」
「後で回収する、メリットも何もあいつらが自分から俺についてくるって言ってんだぞ?俺の実力じゃ追い払うなんてできないじゃねえか、それにわざわざ敵にするよりは味方でいてくれたほうが心強いだろ?」
事実、静希の近くにいる人外はすべて自分から静希のそばにいることを申し出ている
静希に何かしら惹かれるものがあったのは事実だろうが、それにしては何をしているのと聞かれると、本当にこいつら普段何しているんだろうと陽太は不思議だったのだ
基本的な実習は自分たちでこなしているし、普段の生活からもあまりいい話は聞かない
そう考えると静希が人外たちと一緒にいるのはなぜだろうと思ったのだが、ただ単に追い払えるだけの力がないのと、追い払う理由がないからなのだろう
「そりゃそうだ、あいつら敵に回すのはもうごめんだよ・・・部位破壊完了、捕獲するか?」
「そうだな、せっかく罠も残ってるし、んじゃ罠セットするからちょい待っててくれ・・・ていうかさ・・・さっきから何見てるんだ?」
静希は携帯ゲームから視線を一瞬だけ外して部屋の入り口部分からこちらを覗く数人に視線を合わせる
そこにはいつの間にかドアの隙間からこちらを覗き込んでいる明利と雪奈の姿がある
「い、いやぁ、なんか白熱してたみたいだから声かけにくくてさ」
あははと乾いた笑いを浮かべる雪奈、そして愛想笑いを続ける明利
言えるはずがない、静希の男性機能が正常かどうかを確かめに来たなど、口が裂けても言えない
「なんかお邪魔みたいだね、明ちゃん私たちは部屋に戻ろうじゃないか」
「そ、そうですね、それじゃあお休み静希君、陽太君」
まるで逃げるようにそそくさとその場から離れる明利と雪奈を静希と陽太は不思議そうに眺めていた
部屋に戻った明利と雪奈は自分たちの任務が失敗したことを残った真面目組に報告する
任務というより男子の会話をただ盗み聞きしていただけなのだが
なぜこのような行動をとったかはいくつかの過程を省くが、男子だけになればそういった下種な話をすると思ったことが発端である
こっそりと静希たちの部屋の前に行ったはいいものの、まったくそういった話題をしない上に途中でばれるという失態を犯してしまう
「なるほど・・・タイミングが悪かったのかもしれないわね」
「それでおめおめと帰ってきたと」
「「返す言葉もありません」」
二人して正座してこうべを垂れている様子はかなりそっくりだ、大きさや体格は似ても似つかないがその仕草がまったくの同時なのだ
反省というか、落ち込むと行動が似るというのは幼馴染故なのだろうか
「会話で確認できないとすると、どうしようか・・・まさか脱がせて確認するわけにもいかないし」
「ぬ、脱がせてなんて・・・!そんなことできないよ!」
おそらく静希の裸を想像したのだろうか、明利が顔を真っ赤にしながら顔を手で覆う
この初心すぎる反応は高校生としてどうなのだろうかと少しだけ不安になりながらも鏡花は思案を続ける
「まぁまぁ明ちゃん、これでも飲んで落ち着きなさいな」
雪奈が差し出したペットボトルのお茶を少しずつ飲みながら明利は自分をクールダウンさせているようだった
「ならば朝に確認するというのはどうだろうか?」
「朝?」
石動の提案に全員が首をかしげる
「うむ、同じ班の男子が話しているのを聞いたことがあるのだが、男子は朝になると強制的に臨戦態勢?とやらになるそうだ、もし本当なら五十嵐も朝に臨戦態勢とやらになるんじゃないのか?」
石動の言葉は確かに正しい
そういった生理現象は確かにあるが、女子からしたら初耳だ
「えー?でもお泊り会とか昔やった時には特に変わったことなかったけどなぁ・・・」
「うん、普通だったと思うけど」
幼いことに一緒に寝泊まりしたこともある幼馴染組は記憶を頼りに当時の静希や陽太の姿を思い出そうとするのだが、特に変わったところはなかったように思う
事実当時はなかったのだろう、何せ泊りで遊んでいたのは本当に幼少時だったのだから
「昔はなくとも今はあるかもしれないぞ?確認するだけだ、朝一で五十嵐たちの部屋に侵入して確認する、それでいいんじゃないのか?」
もう夜も遅いこともあってこれ以上こういった話を続けるのも飽きてきたのか、それとももとよりこういった話題が苦手なのか、石動の言葉はやや適当になってきている
「でもさ・・・それだったら普通の時でもできると思うんだけど・・・明利?」
「ん・・・んん」
意外とこういう話は好きなのか、結構まともに考えている中、明利の様子がおかしい
頭をくらくらと動かしながら瞼をトロンとさせながら隣にいる雪奈に寄り掛かるようになっている
「そろそろ効いてきたみたいだね」
「・・・あ、まさか」
雪奈の言葉に鏡花は思い当たる節がある
明利が静希から受け取った睡眠薬の入った小瓶、何気なくそこら辺に置いてあったのだがその位置が微妙にずれている
鏡花の推察を裏付けるかのように雪奈はふっふっふと笑いながら明利が飲んでいたペットボトルを高々と掲げる
「たらりらったらぁぁ!すいみんやくぅぅ!」
「なんだ、今回は雪奈さんがやることになったんですね」
反応悪いよ鏡花ちゃんと不満を漏らしながら雪奈は明利を横にしながら山崎に教えてもらって準備した布団に寝かせる
いつもは静希が仕掛ける睡眠薬だが、今回は雪奈が仕掛けたらしい
いつか自分にも仕掛けられそうで妙に警戒してしまう
「ていうか、何でこのタイミングで?まぁもう結構遅い時間ですけど」
現在時刻は二十三時、次の日が朝早ければそろそろ就寝している時間だ、だからと言って今明利を寝かせる理由は思いつかない
「いやね、明ちゃんこのまま寝ないかもしれなかったからさ、今のうちに寝かせてあげるのがやさしさかなって」
「やさしさって・・・あぁそういうことですか」
今回の目的である幽霊、先程まで下卑た話をしていただけにすっかり忘れていたが今回のメインはむしろこれからなのだ
怖がりの明利は楽しい話をして怖いことを忘れている今のうちに寝かせてやるのが人情だと雪奈なりに判断したのだろう
先日、深夜にちゃんと更新しているのに朝にもう一度投稿するという謎行動をしてしまい申し訳ありませんでした
実は寝坊をしたのと寝ぼけていたというダブルパンチで焦って間違って投稿してしまいました
申し訳ありませんでした
そのお詫びに今回は複数まとめて投稿です
一年も投稿していてこんなへまをやらかすとはとんだ失態です
こんな情けない自分ではありますが、これからもお楽しみいただければ幸いです




