尽くされる二人
「なぁ、お前ら一体なに話してたらこんなことになるんだよ」
二人は風呂から上がった後、居間で横になって静希と陽太に団扇で風を送られながら唸っていた
長いこと話しこんでいたため、そして話す内容が内容だったためにのぼせてしまったのである
「うぅぅ・・・ごめんね静希君」
「不甲斐ない・・・私としたことが・・・」
明利がいながらにして自分の体調の変化に気付けない程に話に熱中していたのだろうが、その内容を知らない静希からすれば目の前の光景が不思議でしょうがない
「こんな暑い日にあんだけ長い間入ってたらのぼせもするっての」
「ごめんなさい・・・」
鏡花と雪奈の手によって二人はパジャマだけは着ているものの、その熱は未だに抜けないらしく、濡れタオルを首や脇、額などに置いて冷やしているのだがなかなか症状が安定しない
日が落ちて気温が下がってきてはいるが湿度が高い、近くの空で雷の音がなっているところをみると今夜は雷雨になるだろう
自分達がこちらにつく前に降りださなくて本当によかった
だがその高い湿度のせいで二人は苦しめられることになっている
高くなった体温のせいで汗が身体から次々と湧き出ており、パジャマと皮膚を密着させ不快感を煽っている
「むしろお前ら脱いだ方がいいんじゃねえの?その方が冷えるぞ?」
「陽太デリカシーねえぞ、明利だけならまだしも石動もいるんだ」
その会話に、明利だけならこの場で脱がしていたのだろうかこの二人はという疑念が生まれ石動は静希と陽太を見る視線に僅かに疑念を含める
世話になっているだけに反論も意見もできないが、本当にこの二人は多少のことでは動じないのだなと再確認する
もし自分が異性の裸を見たら挙動不審になるレベルで動揺するだろう
だが恐らくだが、静希も陽太も異性の裸を見た程度では毛ほども動じないだろうと思っていた
「・・・何か失礼な事考えてないか?」
「・・・いいや・・・何も考えていないぞ」
荒くつく息の中に少しだけため息を混ぜて石動は天井を仰ぐ
全身の力が抜けるようだ
首と脇から滲むように冷気を伝えるタオルがここまで快適だとは知らなかった
同級生二人が団扇を使って送ってくれる少し温い風が、体表面につくった汗の粒を少しずつ気化させていく
時折風鈴が音を立てて運んでくる夜風が濡れた髪を僅かに揺らす
のぼせているせいか頭が上手く回らない、だがそれがかえって不思議な浮遊感と安堵にも似た充足を与えてくれる
心地よい
身体が熱いのに、動かないのに、そう思ってしまった
自分達に尽くしてくれる同級生には悪いが、できるのならもう少しだけこの時間が続けばと、そう願ってしまう
どうやら隣にいる明利も同じ思いなのだろうか、その口角は僅かにあがり、先ほどまで荒かった息は静かな吐息へと変化している
濡れタオルが石動の身体から離れ、冷水で浸して余計な水を絞り落とした後でまた脇と首に巻かれる
急に冷気が身体に触れたせいで一瞬痛みにも似た感覚が身体を襲うが、それもまた心地よい
自分は一体何をやっているのだろうかと、仮面の向こう側にある天井をまどろむ瞳で見続ける
少しずつ高かった体温は元の平常時のものへと戻っていくのが分かる
体中の血液の流れを感じながら石動は大きく息を吸い、身体を起こす
「すまない、迷惑をかけた・・・」
「もう起きて平気なのか?明利はまだぐだってるのに」
石動が横目でまだ横になっている明利をみると、確かにその顔はまだ赤い
身体が小さい分、明利は長く湯に浸かっていた反動が来てしまっているのかもしれない
そう考えると、少しだけ悪い事をしたなと反省してしまう
「そのようだ・・・しっかりと世話を焼いてやってくれ・・・幹原もその方が喜ぶだろう」
「まぁいいけど、無理はすんなよ?」
平気だと言おうとしたのだが、流石にまだ立ち上がることはできないようだ
ふらつく体を何とか支えながら近くの壁を背にして寄りかかるように座り込む
冷水で絞りなおしたタオルを陽太から受け取りまた体を冷やしながら、明利に風を送り続けている静希を眺める
時折声をかけ、明利の意識があることを確認しており、明利も言葉足らずになりながらも反応している
仲睦まじい、幼馴染と言うよりまるで家族のようだった
無条件に献身を得ることができ、また与えることのできる相手
少しだけうらやましくなった
自分にはいない、同世代の気を許せるだけではなく、恐らく全てを委ねられる相手
「おうおう、明ちゃんお姫様だねえ」
そうしている間に雪奈たちが風呂からあがってきたらしく湯気を散らしながら上気した肌を見せつける
「あがったか、んじゃ交代、誠心誠意姫様に尽くすように」
「へへー、かしこまりました」
雪奈とのそんなやり取りを終え、静希は最後に冷やしたタオルを石動の頭の上に置いて自分達も入浴へと向かっていく




