エルフと少女の風呂での話
先に入浴したのは明利と石動だった
山崎が風呂から出て行ったのを確認してから彼女に許可を取り二人で風呂場へと入っていく
石動が身体を洗う中、明利はその体を少しだけ眺めていた
特に注目したのは石動の臀部だ
そこには人間本来にはないはずの尾のような物が付いていた
長さは十センチほどで上に反るような形で存在するそれを見て、石動がエルフであるという事を明利は改めて実感していた
その視線に気付いたのか、石動は苦笑しながら尻尾を隠してしまう
「あまり見てくれるな、少し恥ずかしい」
「あ、ごめんなさい、石動さんのは尻尾なんですね」
「ん・・・あぁそうか、幹原は風香の奇形を見ているのだったな」
以前、東雲風香を保護した際に明利は彼女の食事風景を見ている
口、というよりは歯が奇形と化している彼女は物を食べる時に即座に見てとれたが、石動のように衣服で覆いかくすことのできる部位は非常に分かりにくい
「それだと下着とか大変そうだけど・・・」
「あぁ、昔は苦労したよ、最近は市販している物に穴をあけている、そのせいで裁縫ばかり上手くなってしまってな」
只穴を開けるだけではその穴から徐々に裂けていく可能性があるために、開けた穴周りをしっかりと補修しなくてはならないのだ
自らが生まれ持ったからだとはいえ面倒なものだよと苦笑しながら石動は身体を洗い終え、仮面に手をかける
明利はすぐに顔をそむけその顔を見ないようにする
風習とはいえ他人に顔を見せないというのはなんとも堅苦しいものだ
それが大切であることを理解しているために、明利は特に何も言うことなく石動が顔を洗い終えるまで顔をそむけていた
「そういえば、幹原は五十嵐達と幼馴染なのだったな」
「うん、小学校のころからかな」
お互い髪も身体も洗い終え、湯船にゆったりとつかる中石動は何とはなしに雑談していた
髪から落ちる水滴が湯船に波を作る中、顔をほてらせながら明利も会話に乗っている
「小学校か、随分と長いのだな・・・ひょっとして五十嵐とも風呂に入ったことがあるのか?」
「え!?・・・う、うん、あるよ」
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったために、明利は多少驚くが特に否定することもなくうなずく
事実、小学校の頃どちらかの家に泊まりに行った際はよく一緒に入浴したものだ
性の対象というものがどのようなものなのか理解していなかったというのもあるが、羞恥よりも一緒にいたかったという思いが強かったからに他ならない
「やはり男子の身体というのは女子とは違うものか?見たことがないから分からんのだ」
「わ、私だって分からないよ、中学に上がってからは一緒になんて入ってないし・・・」
小学校いっぱいまでは入っていたのかと思いながら石動は苦笑する
なるほど、雪奈が甲斐甲斐しくも保護したがるのもわかるなと思いながら石動は明利を眺めている
反応の一つ一つがなんとも庇護欲をそそる独特のものなのだ、石動に雪奈の言っていたような趣味は無いが、その道の人間がいたらうっかり捕食してしまうかもしれない
「石動さんは幼馴染っていないんですか?」
「私か?そもそも同世代がいなかったな・・・少し年上か、少し年下しかいなかった・・東雲姉妹は幼馴染というより親戚や姉妹のように接していたからな・・・」
閉鎖的だった村で育ち、近い歳のエルフたちと過ごした石動にとって同世代の女子というのはあまりかかわる事のない存在だっただろう
同世代の友人がいなかったというのは彼女にとって残念な事でもあったようだ
「でも雪奈さんも静希君のこと弟みたいに接してるよ?」
「そうだな、そういう関係もありなのだろうが・・・やはり気の置けない相手としては少し彼女達は幼すぎる、それに比べて五十嵐と深山先輩は互いをよく信頼しているようだった」
石動の言うとおり静希と雪奈は互いに姉弟分を自称しているだけに非常に仲が良い
ただ単に遠慮がないだけにも思えるが、互いの事を尊重し合い、なおかつ全幅の信頼を置いているようにも思える
互いに最も長い付き合いをしているとはいえ、あそこまで仲が良いというのも珍しいものである
「もしかして男の子のことよく知らなかったりするの?」
「う・・・まぁ、見たことがないのは事実だ、プールなどで上半身程度なら目にするのだが」
流石に下半身にまで視線を集中させる訳にもいかないのだろう
なんとも思春期らしい反応だ、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが半分ずつ存在しているのだろう
見慣れているとはいえ、明利も思春期の女子である、そういった話題に興味がないわけではないが流石に正々堂々と見せてくれなどと言えるはずもなく、現在の男子がどのような成長を遂げているのか明利も知りようがないのだ
「その、幹原は見たことがあるのか?男子の局部を」
「え・・・見たことは・・・あるけど・・・で、でも最近は無いよ!?ほんとだよ!?」
その反応を見てどうやら聞くべき内容と話すべき内容が分かったのか、石動は仮面の下でにやりと笑って明利にゆっくりと近づいていく
「では知っている事をすべて話してもらおう、話すまで解放しないと思え?」
「え・・・あの・・・その・・・」
仮面の下の瞳が怪しく輝くのを見て、明利は石動と距離を取ろうとしたのだがすでに遅い
風呂からあがるまで恥ずかしい話をいくつもしながら明利達の入浴時間は終わって行った




