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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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恩師

石動の案内の下、一時間程度移動して目的の駅からバスを経由してからたどり着いたのは周りに緑あふれる山のふもと、近くには川が流れ、民家がいくつか見られるが田んぼや畑の方が多く存在していた


出発した時よりもさらに暗い雲があたりを覆っているが幸いにも雨はまだ降っていないようだった


そんな風景の中に、写真で見た一軒家はあった


山崎と書かれた表札に、少し古ぼけた門柱、和風の造りの一軒家


周囲の風景と相まって非情に奥ゆかしい印象を受けた


石動がインターフォンを押すと数秒してから少し高い女性特有の声が聞こえる


「山崎先生、お久しぶりです、石動です」


『あぁ、藍ちゃんね、少し待ってて』


穏やかな口調でそう告げてから数秒後、玄関から写真よりも少し老けてみえる女性がやってくる


「お久しぶりです先生、お元気そうでなによりです」


「藍ちゃんも久しぶり、会うのは一年ぶりかしら?」


「・・・先生、私ももう高校生ですから・・・ちゃんづけは・・・」


「なに言ってるの、私から見たらいつまでも藍ちゃんよ、まだまだ可愛い盛りなんだから」


珍しく石動が狼狽している、まるで親戚のおばさんとの会話のようで生徒と教師の会話とは思えない


「この子たちが例の?」


「はい、協力を要請した同級生です」


石動の紹介にまずは城島が前に出て軽く礼をする


「喜吉学園一班とその引率教師城島です、今日から数日お世話になります」


「お世話だなんて、お願いしたのはこっちなんですから、どうかお気になさらず、さあ立ち話もなんですからどうぞ上がってください」


柔らかな物腰と言葉づかいのまま家の中に招かれ、全員が居間に移動する

外装もそうだが、内装全てが和風で建築されてからかなりの時間が経っている事が分かった


だが全体的にしっかりとしたつくりらしく、床のきしみなどもほとんどない


「皆さんの部屋はどうしたらいいかしら?一緒の方がいい?それとも男女で分けた方がいいかしら?」


「できれば男女で分けていただけるとありがたいです、お部屋がないようであれば一緒でもかまいませんが」


城島の返答に山崎は少し困っているようだった、何か不都合でもあるのだろうか、二、三考え込むような仕草が見られる


「二部屋ご用意できない事もありませんが・・・その、片方は件の部屋でして」


その言葉に全員に僅かな緊張が走る


件の部屋、ということは幽霊の出没する部屋ということだろう


寝泊まりする場所に出没されるとなるとかなり緊張を強いられる


もちろん出てもらわなくては対処のしようがないためにある意味都合がいいとも言えるが、そうなってくると男女の振り分けにも多少の考慮が必要だ


「では女子の部屋を件の部屋に、男子をそれ以外にしていただけますか?」


「え!?」


城島の言葉に一番大きな反応をしたのは明利だった


怖がりの明利としてはできるなら幽霊の出ない部屋がよかったのだろう、その顔からは血の気が引いている


「せ、先生・・・あの、どうして女子が、その・・・幽霊の部屋なんですか?」


「理由としては万が一の対応の為だ、石動、それに清水と深山もいれば大概の事には対応できる、逆に五十嵐と響だけでは対応しきれない事もあるだろう、戦力的に考えた結果だ」


確かに今の男女別での戦力は、大きく女子側に傾いている


明利は戦力にならないとしてもそれ以外の全員がある程度以上の戦力となり得る為、非常に妥当な判断だと言えるだろう


「明利だけ俺らのとこに来るってのもありだぞ?別に俺らは構わないし、な?」


「まぁ明利だし、別にいいんじゃね?」


静希と陽太の提案に明利は救いを差し出された子羊のような表情をするが、発案者二人の頭に城島のチョップが振り下ろされる


「いくら幼馴染とはいえ、男女を同じ部屋で寝泊まりさせるわけにはいかん、その案は却下だ」


教師としては非常に正しい判断なのだが、明利からすれば死刑宣告にも等しい一言だ


何とかなると思っていたが故に、上げて落とすようなやり取りになってしまった


「大丈夫だよ明ちゃん、お姉さんが守ってあげるから」


「うぅ・・・わ、わかりました・・・」


渋々ながらに納得する明利、雪奈がしきりに頭を撫でているもののその表情は暗い


まだ幽霊に遭遇すらしていないのにすでに涙眼だ


実際に遭遇したらどうなってしまうのだろうかと心配になってくる


「じゃあとりあえずお部屋に案内しますね、荷物も運んだ方がいいでしょうし」


「そうですね、お願いします」


山崎の案内で静希達はそれぞれ寝泊まりする部屋に案内される


静希達の部屋はそれなりに広い十畳程度の部屋、掛け軸やつぼなどが置いてあり、それが客間であることが分かる


荷物を置いて女子の部屋でもあり今回の現場にもなる部屋を見に行くと、そこは写真の通りの部屋があった


静希達の部屋よりも一回り大きく、いくつかの家具も置いてある


壁の上の方にはおそらくは家族のものだろうか、男性の写真がいくつか飾られていた


「ここが例の・・・一応写真撮ってもいいですか?」


「えぇ構いませんよ、藍ちゃんと同い年なのに随分としっかりしてるのね」


「せ、先生、私だって昔のままではないのですよ?」


狼狽する石動に、はいはいわかってますよと朗らかに笑いながら山崎は彼女の肩を軽く叩いて見せる


どうやら昔の事を知っているということから石動は少しだけ山崎に弱いようだった


無論そこに悪意がないために信頼関係があることは見てとれるのだが、普段凛々しい石動を見ているためにこういう姿は珍しい


いくつか写真を撮って中身を確認してみるのだが、以前石動が見せたような異物が写り込むようなことは無かった


出てくることに条件でもあるのか


少なくとも石動から聞いた情報と邪薙の話した幽霊の特性を考えると、何かあるのではないかと考えてしまう


「とりあえず皆さんお疲れでしょう?もうすぐご飯もできますから居間でゆっくりしていてくださいな」


「そうですね・・・ここにずっといてもしょうがない、話を聞きながら過ごすとしよう」


城島の言葉に全員同意して荷物を置いてその場から離脱する


特に明利の動きは今まで見られない程に素早かった


そんなにここから離れたいのであればついてこなければよかったのにと思ったのだが、やはり仲間はずれは嫌なのだろう


なんとも難儀な性格をしているなと、明利をよく知る数人は哀れみの視線を向けていた


「ところで幽霊が出始めたのっていつ頃からなんですか?」


「えっと・・・息子夫婦が盆に来た時だから、八月の半ばくらいでしょうか」


「うぇ?じゃあそれからずっと幽霊と一緒に?」


八月半ば、ということは少なくとも一カ月近く家に出没する幽霊と一つ屋根の下で過ごしてきたという事になる


この人予想以上に肝が据わっているなと静希は驚いていた、まぁ人外達と半年近く過ごしている静希が仮にそんなことを言っても何の説得力もないのだが


「よ、よく平気ですね・・・」


「実際に幽霊を見たのも私じゃなくて息子なんですよ、写真を撮ったのも息子で・・・実は私は一回も見ていないんです・・・」


見ていなかったら平気なものなのだろうか、そう思って明利に視線を向けてみるが彼女は視線に気付くと首をものすごい勢いで左右に振りだす、首を痛めかねないその駆動速度に後ろから雪奈が羽交い絞めにしてその動きを止めた


やはりこういう時雪奈がいると頼りになる


「一カ月近く、まったくみたことがないのですか?」


「えぇ、息子の話では深夜に出てくるようなのですが、私はその時間眠ってしまいますし」


深夜に出没するのであればご高齢の方とは出会う機会は無いかもしれない


そう考えれば無害なのだが


『邪薙、一カ月くらいで霊ってのはどれくらい変化するもんだ?』


霊の事を一番よく知っている人外に念を飛ばすと、トランプの中の神はふむと悩んでいるような声を出す


先日、邪薙は幽霊は人の出す感情や意志によって変化すると言っていた


それがどれほどの速度かは分からないが、少なくとも変化することは確かなのだ


『はっきりは言えんな、場所にもよるし、そもそもこの家にどれほど人が出入りするのかもわからん』


邪薙の言葉に静希は眉をひそめて考えを広げる


「山崎さん、ここ一カ月でこの家の中に入った方はどれくらいいますか?」


「え?そうですね・・・ご近所さんと、酒屋さんと、あとは息子夫婦と、除霊に来た方々くらいかしら」


ご近所というのがどれくらいのレベルなのかは分からないが、少なくとも交友がないような人種ではないようだ


この朗らかな性格であれば誰にでも好かれるだろう、それはむしろ良いことなのだが、この場合それがマイナスに働いているかもしれない


周辺の民家は多く見積もっても二十程度、そこにいる人が一日に誰かしら訪れるとして約一カ月で三十、酒屋が来るということは料理酒や味醂、醤油などの宅配だろうか、一人暮らしの消費量として二週間に一回来るとして二、息子夫婦がどれほど滞在したかは分からないが最低でも二人、孫がいればさらに増える、少なくとも五人程度と見積もっておいた方がいい


さらに除霊に来た人数、数人で来ることもあっただろうし、何より石動の話から察するにいくつかの団体に頼んでいたようだ、十人とカウントし、全部合わせて四十七回ここに人が入ったことになる


『どうだ邪薙、参考になるか?』


『感謝する、その程度の数なら問題は無いだろう、ご近所の方が悪意を振りまくとも思えん、だが家族の者が幽霊を見たということは恐怖の感情を振りまいていてもおかしくは無い・・・あまり楽観視はしない方が良いだろうな』


邪薙の言葉をすべて鵜呑みにするわけではないが、確実に変化するとわかっていて、なおかつ守り神の彼が楽観視するなと言っている以上、ある程度警戒しておいた方がよさそうだ


一ヶ月間山崎が無事だったからと言ってこれからも無事でいられる保証はない


万が一何かあったらこの人が危険にさらされる


無能力者では対処もできないだろう、この場で、できるならこの数日で確実に何とかするべきだろうと思案していた


お気に入り登録件数1300を超えたのと文字数1,000,000字を超えたのでお祝い投稿


地味にこの話も長くなってきましたね


これにて今日の怒涛の投稿は終わりとさせていただきます


誤字も多く、稚拙な物語ではありますがこれからもご愛読いただければ幸いです

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