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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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認識の違い

「そんで?頼みって何?刀ならいくつか貸してあげられるけど・・・」


「雪姉じゃないんだ、武器は自分で調達するよ、そうじゃなくて今週末って時間ある?」


その言葉に雪奈は一瞬呆けるが、にやりと笑って身体を静希にすりよせる


「あっれぇ?それはもしやデートのお誘いかな?お姉さん困っちゃうなぁ」


「・・・平気なのか?泊りだけど」


否定するのも面倒になってなすがままにされていると、雪奈は泊りという単語に反応して僅かに顔を赤くする


きっといろいろと勘違いをしているのだろう


「い、いや静、いきなりそんなこと言われても・・・その、困る!そ、そういうのは別にかまわないけど・・・ほら、女の子にはいろいろ準備が」


流石にこれ以上からかうのは色々と面倒な事になりそうなので静希は軽く事情を説明する


石動の頼みで幽霊退治をするという事になるという事を告げると、少しだけ残念そうになりながらも雪奈は口元に手を当てる


「なるほどね、確かに明ちゃんじゃ幽霊退治の役には立てないだろうね・・・ていうか私だって役に立てないよ?幽霊って斬れないだろうし」


雪奈の判断基準は自分の攻撃が効くかどうかだ、そう考えると幽霊相手に刀などでの斬撃が通用するとも思えない


「斬る斬れないじゃなくて、明利のフォローをしてやって欲しいんだよ、本当に幽霊みたら寝られなくなったりするだろうから」


「あー、確かにね・・・もしかしたらまたお漏らし明ちゃんが見れるかもね」


「本人気にしてたみたいだから、あんまり言ってやるなよ?」


自分は言っておきながら雪奈には注意するあたり静希は性格が悪い


だが実際にそんな醜態をさらしたら末代まで、とは言わずとも数年の間は話のタネにされてしまうだろう


不名誉極まりない内容であるために、明利からしてもそこまで楽しい話でもないだろう


「てなわけで鏡花や石動がいればそこまで大変な事にはならないと思うけど、一応明利の事を知ってる雪姉に頼もうと思って」


「いやどうだろう、実はあの二人も怖いのが苦手だった何てオチかもよ?」


「いや、鏡花に至ってはノリノリだったからそれは無いと思うぞ」


怖がるどころか逆に幽霊を見てみたいと言ったような反応だった、そうなってくると苦手ということはまずないだろう


なんだ、残念と本気でがっかりしながら雪奈は髪の毛をいじっている


何故この姉貴分はこうも女子の弱い部分を見ることが好きなのだろうか、自分も女子であるのになぜこう育ってしまったのか


恐らくは明利が近くにいたという事もあるのだろうが、非常に女性として残念な点である


「で?結局週末は空いてるのか?いてくれると俺としてはありがたいんだけど」


「ふむ、問題ないよ、明ちゃんのお世話はお姉ちゃんに任せなさいな」


雪奈の了承が取れたところでとりあえず静希はメールでその旨を城島に伝えることにした


彼女の仕事を増やすことになるが一人くらいならば問題はないだろう、と思いたい


「でもさ、そういう不思議な事ってメフィ達がいれば何とかなるんじゃないの?悪魔や神様って幽霊の親戚みたいなもんでしょ?」


「あら失礼ね、カキの種とホールケーキくらい違うわよ、まったくの別物」


どうやらメフィの中ではカキの種とホールケーキは全くの別物としてカウントされるらしい


確かに煎餅と洋菓子ではかなり違いがあるが、その程度の違いであるという認識で正しいのかは甚だ疑問である


というか悪魔としてその例はどうなのだろうかと思ってしまう


「そんな違うんだ・・・じゃあさ、オルビアちゃんと幽霊ってどれくらい違うの?」


メフィの例えを恐らくは正しく理解できたのだろう、それはそれですごい思考回路をしているが、近くで飲み終わった紅茶のカップを片付けているオルビアを指さすとメフィと邪薙は微妙に悩み始める


「そうね・・・オルビアはもともと人間だし・・・ある意味幽霊に近いだろうけど・・・」


「そうだな・・・クッキー・・・いや歌舞伎揚げとチーズケーキくらいの差だろうか」


何故この人外二人は食べ物で例えようとするのかが理解できない


だが雪奈はそんなもんなんだと何故か納得している


オルビアとしてもそんな珍妙な例えをされたことで非常に複雑そうな顔をしている、褒められているのか貶されているのか測りかねているようだった


理解できない自分がおかしいのだろうかと静希に視線を送るのだが、静希も首を横に振って理解できていないことを示すと安堵のため息をついていた


こうして見てみると静希の身近に常識的な考えをする人間が少ないことがよくわかる


少なくとも静希の周りにまともな思考をするのは明利、オルビアくらいのものだ


鏡花は基本的に理論めいた考えをするものの、どこか頭のねじが外れているような行動をする


特に陽太がらみだとやたらと感情的になるのが玉にきずだ


城島は教師として優秀だし、非常に教わることも、そして正してもらう事も多いがやたらと攻撃的だ


誰があの人に教職免許を与えたのかが気になるところだが、今はそのことは置いておこう


雪奈は甲斐甲斐しく誰かの世話をすることは好きなのだが、どこかずれている


もう少し年上として凛々しくなって欲しいと思うのは出過ぎたことだろうか


「もうちょっと俺の周りにまともな奴はいないのか・・・」


「・・・静、もしかして自分がまともって思ってるの?」


「違うのか?」


「違うでしょ」


かく言う静希もかなりねじが外れているところがある


そう考えると、なるほど、類は友を呼ぶというやつなのかもしれない


結局、城島の奮闘により雪奈も共に幽霊退治についていけることになったが、もちろん城島からはかなり怒られた


そのせいで放課後の補習でまさかの集中攻撃を喰らい、かなり体力をすり減らす結果となってしまった


そして週末、ついにやってきた幽霊退治当日


学業を終えた静希達は宿泊用の荷物を抱えて職員室に集合していた


「全員そろったな、ではこれから移動する、石動案内を頼むぞ」


「わかりました」


城島もそれなりの荷物を持って全員で移動を開始する


数日の滞在とはいえ、女性陣はそれなりに荷物が多い


女性は身だしなみに気を使う必要がある分面倒なのだなと思いながら静希達は石動の先導に従って歩いていた


「なんか天気悪いな・・・雨降りそうだ」


「予報じゃ今日の夜からかなり降るらしいわよ、着く前に降りださなきゃいいけど・・・」


二人の言うように、周囲の空はかなり重苦しい雲で覆われている、おまけに気温は高いのに風がない


湿度も高く気温も高く風もないような状況で、静希達はかなりの汗を掻いている


制服が肌に密着し不快感を強くする中、大荷物と共に電車に乗り込んだ


多少空調が効いているとはいえ、人がいればそれだけ温度も高まる、しきりに開くドアのせいで外との気温差は数度程度だろう


「そういえば、今日泊まる石動さんの知り合いって、恩師って言ってたけど、どういう関係なの?」


「どういう・・・と言われるとそれ以上の説明は難しいな・・・」


質問の内容からしてどういう知り合いかというより、どのように知り合ったかという方が重要なのだろう


恩師などと言われてもピンとこないために少しだけ気になってしまう


「私の出身の村で、昔学校があったのは話したな?彼女はそこで教鞭を振るっていたのだ」


今はすでに廃校となった場所で、いやそれ以前にエルフに対して物事を教えているというのは相当すごいことなのだろう


少なくともただの教師にそんなことができるとは思えなかった


「あのエルフの村でか・・・お前以外の同世代のエルフっていなかったんだろ?」


「あぁ、私を含め彼女から学んだ者は数人しかいなかったが、あの人からは多くの事を教わった、勉学だけではなく人として必要な事もたくさんな」


地方の学校などでよくあることだが、少子化の影響か全校生徒数が一ケタという学校は存在する


そう考えればなにもおかしいことではないのだが、生徒全員がエルフの仮面をつけているところを想像するとかなり異様な光景であることはよくわかる


そんな中で教鞭を振るえるということは相当の人物なのだろう


「その人って今いくつくらいなの?写真では結構歳とってそうだったけど」


「確か八十近かったはずだ・・・詳しい年齢は私も把握していないが」


「八十!?マジか!?」


八十代となるとかなり高齢だ、仮に働いていたとしてもとっくに定年退職している歳である


仮に石動が十年前に彼女の指導を受けていたとしても七十代、そんな年齢でやんちゃ盛りの能力者の、しかもエルフの幼子達相手に教鞭を振るうことができる、思っていたよりも数倍すごい人物なのかもしれない


「一応聞くけど、その人ってエルフか?いやそもそも能力者か?」


「いや、エルフではない、彼女は無能力者だ」


その言葉に全員が耳を疑った


能力者でさえも手を焼くエルフ相手に無能力者が教師として存在するというのがまず信じられなかった


能力者専門学校では基本的に能力者以外は教師になれない


万が一の為のストッパーとして優秀な能力者しかなれない上に、教師としての資質も必要なために、専門学校の教師というのは非常に難関なのだ


「そもそも、どういうつながりでその人お前らの教師になったんだ?能力者相手じゃきつくね?」


「私も詳しくは知らんが、長の繋がりだったらしい、もちろん能力の指導などは大人のエルフたちが担ってくれたぞ?」


それはむしろ当然だ、能力を持っていない無能力者が能力の事を教えられるはずがない


もし癇癪などを起こして能力が暴発した場合はどうしていたのだろうか


無能力者が能力者の近くにいるなど想像もできないために全くイメージができなかった


「その人って今日私たちが行く家からエルフの村まで通ってたの?」


「いや、当時はエルフの村に家を構えていた、昔は休日によく遊びに行ったものだ」


石動の言い方から察するにその人は非常に慕われていたようだ


少なくとも静希は休日にわざわざ城島に会いに行こうとは思わない、むしろ面倒事がない限り会いたくない


教師と生徒の関係はそれこそ人それぞれだが、ここまで信頼と尊敬を保っているというのもまた珍しい


少なくとも生徒が教師を語る上でこんなに絶賛するあたり、相当の人格者のようだった


いい教師に恵まれたのだなと思いながらも、やはり廃校となってしまってはどうしようもない


高齢という事もあって、それ以上教師として生きることは難しかった事を考えれば廃校となったのは不幸中の幸いだったのかもしれなかった


十回分投稿はこれで終了


本当に投稿するだけなのに時間がかかりました


次はお祝いだ!


もう少しだけお付き合いいただければ幸いです

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