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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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人外達の経験

「それではここで、週末はよろしく頼む」


石動と別れ、そのまま全員バラバラの帰路へと向かう


疲れた体を引きずって静希も家に戻っていた


玄関をくぐり扉を閉めると同時に人外達が我先にとトランプの中から飛び出てくる


「本日もお疲れ様ですマスター」


「あぁ、ありがと」


オルビアに荷物を預けながら静希はリビングに向かい、とりあえず手洗いうがいを終えてから軽く顔を洗う


冷たい水が顔に当たる度に爽快な感覚が広がり、僅かに体温が下がったような気になる


部屋の気温が高いせいでほとんど気のせいと言えるレベルだが、ないよりはましである


「それにしても、幽霊ねえ・・・よく関わる気になったわね」


「ん・・・まぁ石動の借りを返すって言うのと、純粋に興味があったって言うのがあるけど・・・お前らって幽霊見たことあるのか?」


本当にそれ以外の理由が無いために特に悩む必要がなかったのだが、静希としては長年生きている人外達の意見も聞いてみたかった


メフィはともかく邪薙は日本の神だ、幽霊くらい見ていてもおかしくない


「私は無いわね、死にかけのやつやゾンビもどきなら見たことあるけど、邪薙は?」


「うむ・・・見た、という表現が正しいかは分からないが、経験はある」


何気にゾンビもどきというものが気になるのだが、今はそのことはスルーしておこう


流石に長いこと存在しているわけではないようだ、亀の甲より歳の功とはよくいったものである


「ちなみにオルビアは?」


「申し訳ありませんが、そういった経験はありません・・・」


申し訳なさそうにしているのだが、別に幽霊にあったことがあることを誇られても困る


事実どんな反応をしていいのか微妙に困ってしまう


「邪薙からして今回の事ってどう思う?何か悪さしそうとか、危ないとか」


経験者からの言葉はかなり信頼に足る、特に長く生きてきた神の言葉であればなおさらだ


「悪さをする・・・ということはまずないだろう、そもそも我らのような存在と幽霊とは似ているようでまったくの別物なのだ」


別物、邪薙曰く人の意思や感情がそのまま残るというわけでもなさそうだ


静希としては、幽霊が普通にそこらを飛び回って世間話でもするのではと思っていたのだが、どうやら違うらしい


「そもそも幽霊は人間が生前、または生きていながらにして持つ強い意志が作る思念のようなものだ、生きていれば生霊、死んでいれば死霊、その意志の如何によって悪意か善意かは分かれる、現れてから時間が経っているということならそこまで悪性の物でもないのだろう」


言わば人の意志の残骸のようなものだといいながら邪薙は淡々と説明していく


つまり、その強い意志が生み出す思念の種類によって最初から悪か善かが分かれるということだ


石動の話ではその幽霊が現れてからそれなりに時間が経過しているらしい、ならばそこまで危険視することはないのだろう


「でもさ、私そっち系は全然分かんないんだけど、幽霊とかってテレビとかだと生きてる人を見てうらやましい気持ちとかから悪霊になったりするって言うじゃない?ああいうことはないの?」


この悪魔は何時の間にそんな知識を取り入れたのだろうか、よくテレビを見ていると思ったが予想外のところから知識をため込んでいるらしい


伊達に暇な時、いつもテレビを見ているわけでもないようだ


「そのところはいろいろ誤解があるようだが、その霊が単体で変化するのではない、先も言ったが霊とは人が残す思念だ、とても移ろいやすく、影響を受けやすい、俗に言う悪霊への変化というのは、他の思念、他の霊と併合したり影響を受けてしまう事を言う、また人が日常的に発する程度の思念でも変異することはあるのだ」


「えっと・・・普通の幽霊が悪意を持った幽霊とか、生きてる人の影響を受けて悪霊になっちゃうってことか?」


簡単に言えばそういうことだという邪薙の言葉に静希は頭を悩ませながら納得する


朱に交われば赤くなると言うが、それは幽霊も同じらしい


むしろ人間のように常に変わる意識ではなく、残された思念単体である事が染まりやすい原因にもなっているのだろう


「でもさ、専門家も対処できなかったって言ってたじゃん?あれはどういうことなんだ?」


「現代の専門家なる者たちがどの程度の実力を持っているのかは知らないが、何人かに頼んでも解決しなかったということはよほど強い意志がこもっているのだろう、それが善意か悪意かは知らんがな」


なるほどと静希は納得するのだが、基本的に人外の扱いに慣れているとはいえ、それは相手が話すこともできるようなタイプであるからだ


邪薙の話だと恐らく幽霊は話などできないだろう


それどころか視認できるかも怪しいところである


今更ながらに安請け合いしたかなと後悔し始めるのだが、後の祭りとはこのことだ


「ちなみに除霊する方法とかは?何かあるのか?」


「一番いい方法は霊が残した意志の原因、有り体に言えば未練とやらを叶えてやるか、諦めさせればいい」


一般的に成仏と呼ばれる作用を引き起こすのだと邪薙は言うのだが、未練を叶えるか諦めさせるか、その二つにはかなり差がある


そもそも諦めるなどと簡単にできるのだろうか


そういう意味では専門家である僧侶やお坊さんは特殊な説得でもするのだろうが、そこら辺の事情をまったく知らない静希からすれば与太話にしかならない内容だ


「ちなみに参考までに聞きたいんだけど、叶えることも諦めさせる事も出来なかったら?」


「・・・最も手っ取り早い方法は意志そのものを消し去ること、それができないならどこかに移ろわせるしかないな」


「移ろわせるって?旅でもさせるっての?」


少しだけ理解できない単語にメフィが食いつく


どうやらテレビなどで最近心霊特集がやっているせいでそこら辺の事情に興味があるらしい


変な方向に知識を蓄えなければよいのだが


「良くある例でいえば、幽霊が未練を残すのは人や物、場所などだ、だからそれらを消すことで一つの場所に留まることができなくすればいい」


「・・・簡単そうに聞こえるけどなんだか物騒だな」


物などを壊すのであればまだ可能かもしれないが、もしその霊が人や場所に固執していた場合、消すことなど容易ではない、少なくとも犯罪になってしまうことだってあるかもしれないだろう


「しかもこの方法では根本的な解決にはならん、目的を目の前から消し、移ろわせるだけで悪霊になる可能性を引き上げているにすぎない、被害を受けているものからすれば解決したように思えるかも知れんが、その実、問題をよそに追いやるだけだからな」


一言に除霊と言っても方法はいくつもあるようだった


今回の場合はどの方法がベストなのか、実際に幽霊を見ていない静希からは判断できない


そもそもその幽霊がいったいなぜ現れたのかもわからないのだ


写真に映っている建物は少なくとも築二十年ほどは経過しているとみていい

そんな建物に幽霊が突然現れるということは、先に邪薙の言った移ろってきた霊の可能性だってある


そうなるとどう対処していいのやらまったくわからない


存在を消すことなど静希はできない、いやそれどころかこの場にいる全員そんなことはできないかもしれないのだ


「はいはーい、邪薙先生質問!目的がなくなったらそれこそ成仏しちゃうんじゃないの?することないんだし」


もはや幽霊に対しての質問コーナーのようになってしまっているこの状況を楽しんでいるのか、メフィは元気よく手を上げて質問をぶつけている


「ふむ、いい質問だ・・・が、どう説明したものか・・・」


存外邪薙も乗り気なようでどう言葉にすればわかりやすいかを思案しているようだった


今まであまり考えたことはなかったが、実は邪薙も何かを教えることに向いているのかもしれない


神であるが故にその才能のような物が発揮されることはあまりないのが惜しいところだ


「そうだな、目の前にケーキが二つあるとしよう、一つはショートケーキ、一つはモンブランだ」


唐突にケーキの話になったことで静希とメフィは怪訝な顔をする


一体どうすれば幽霊の話がケーキの話題になるのかは疑問だがとりあえず最後まで聞くことにした


「メフィストフェレス、お前は今ショートケーキを味わいたい、だがショートケーキはシズキにすでに食われてしまい、味わうことができなかった、お前は次にどうする?」


「もう食べられちゃったんならしょうがないわね、新しく買ってもらうか、モンブランで妥協するわ」


メフィの言葉につまりはそういうことだと邪薙は指をさす


そこまで行ってようやく静希は内容を理解することができた


だがメフィは未だどういうことなのかわかっていないようだった


「つまり幽霊も本来の目的じゃなくても、その目的に近いもので妥協するってことか」


「その通りだ、ただ似たような状況や環境はそうそう見つかる物でもない、移ろう間にほとんどは悪霊化してしまうだろうな」


静希の要約を聞いても微妙に納得していないのか、メフィは首をかしげている


ケーキを引き合いに出したせいで随分と軽い話に思えるかもしれないが、人の生き死にに関わってくるような内容だ


それこそケーキのように簡単に替えが利くような物でもないだろう


「じゃあさ、よくテレビとかだと金縛りとか、掴まれるとかあるじゃない?あれってどうやってるのよ」


「それこそ単純だ、人間の脳と同調、いや交信・・・いや共鳴・・・とにかくそれに近しい現象を使っている、元より人の意志なのだからその程度は容易だ」


随分と言葉に悩みながら邪薙はそういうのだが、メフィは納得していないようだった


「仮に同調できるとして、どうやって金縛りにしたり掴んだりするってのよ、実際に動けなくなったとか言う人もいるのよ?」


「あー、メフィ、それなら結構簡単にできると思うぞ」


途中から夕食の準備を始めていた静希が口を挟むようにして声を飛ばす


「この前の俺らもそうだったけどさ、脳に同調しちゃえば人の身体を操る程度のことはできるだろ、人間って勘違いで怪我できる生き物だし、そういう体の変化とかがあってもおかしくないんじゃないか?」


人間の脳とはおかしなもので、本気で勘違いをすると、それが現実に起こってしまうのだ


所謂プラシーボ効果というもので、例えば冷え切ったヤカンでも、中に熱湯が入っていると勘違いした状態で触れると火傷をしてしまったりする


また、医者から風邪薬だと言って渡されたビタミン剤を飲んだ結果、風邪が治ったなどという話もよく聞く


人間からすれば脳こそが司令塔であるために、その脳の掌握さえできれば完全に人間を操ることができると言っても過言ではないのだ


それこそ、武器もなにも使わず、勘違いだけで人を殺すことだってできるだろう


十回分投稿中・・・


今日の予定として十回投稿し終えたらお気に入り登録のキリ番と文字数一定突破のお祝いも一緒にやるつもりですのでお付き合いいただければ幸いです

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