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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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生徒の頼みと教師の葛藤

「と、言う訳で幽霊退治に彼らをお借りしたいのですが」


「・・・暑さで頭でもいかれたのか石動・・・」


翌日、三日連続で行われる補習のさなか、城島に直談判しに行った石動の言動に対して城島は割と本気で哀れみの視線を送っている


確かに突然幽霊退治しに行くなどと言い出したらそういう反応が返ってきてもおかしくない


暑さで頭が可哀想な事になってしまったのだなと思う事もあるだろう


「暑いのはわかるが、涼を求めるのならなにも肝試しでなくても色々あるだろう、しかもそんなことの為に外泊は許可できんぞ」


「違います、もう少し詳しく説明しますからその目をやめてください」


哀れみの目を向け続けている城島に対して石動は僅かに憤慨する、城島ももう少しオブラートに包めば良いのにと思いながら、今日も静希達はあらぬ方向へと落下し続けている


今日の特訓もまたレベルが一段階上がっているらしく、静希達は溺れそうになりながらも身体を動かしている


今回は球状にいくつも展開された水が何層も重なるように急激な流れを作り、一定時間で水の外に排出され、外に伸びる水の道へ叩きつけられる


そして時間が経つと球体のどれかに落下させられるという、本当にどこに落ちるか分からない上に、上下感覚がまったくつかめなくなる訓練だ


流れも速い上に、やたらと中心部に向かって強い重力のかかる球体があるせいで息をするのも難しい


落下の距離と位置、タイミング、流れ、そして重力の強弱まで気にしなくてはならなくなった


これで本当に先日から一段階上がっているだけなのかと文句を言いたくなってくる


「なるほどな・・・確かに奴らなら何とかできるかもしれんが・・・」


詳しい事情を聞いた城島は口元に手を当て、無様に落下し水の中であがき続けている静希達の姿を見ながら僅かにため息をつく


「だが、依頼されたわけでもなく、ただ個人的つながりから能力を使用するというのであれば許可しかねるぞ、専門家に相談してどうにもならなかったからと言ってお前達が何とかしていいというものでもない」


「それは・・・確かにそうですが・・・」


城島の言いたいことは石動とて理解できる


専門学校の能力者が校外で能力の使用を許可されているのは実習時と緊急時のみである


任務などは本来学生には回らないためにそれ以外での能力使用は基本認められていない


もちろんばれなければ問題ないが、今回のように外泊する時点で許可を求められ、なおかつ詳細を聞かれる


万が一ばれた時の為にも事前に学校側の許可を取るのが最適な対応なのだ


「また今度の校外実習に回すというのは無理なのか?依頼はあって困るというものではない、多少無理をすれば連中にその幽霊とやらを担当させることくらいはできると思うが」


「・・・可能ならば急いで解決してあげたいのです、万が一にも彼女に何かあるのは・・・あの人ももうかなりの年ですし・・・」


そう言われてしまうと城島としても返す言葉がない


教師としては許可できない、だが石動の言い分も理解できる


だからこそ頭を抱えていた


一定時間が経過したことで休憩を取るために城島は一旦能力をすべて解除し、宙に浮いている水をすべてプールの中に戻す


それと同時に先ほどまで体を動かし続けていた静希達をプールの縁へと回収する


相も変わらず息を荒くつきながら熱のこもった地面に寝転がる四人を見ながら城島はため息をついた


「こいつら自身は何と言っていた?」


「協力しても構わないと、言ってくれました」


そうかと呟きながら城島は再度ため息をつく


足元に転がる静希達の顔を見ながら眉間にしわを寄せて額に手を当てる


「わかった・・・ならその家には私も監督役としてついていく、それが条件だ」


「は、はい!ありがとうございます!」


城島としては面倒を回避して休日を謳歌したかっただろうに、生徒からの願いとはいえ週末を潰すことになるとは思わなかった


しかも待っているのは面倒な書類の数々、考えただけでも頭が痛い


それに何より、話を聞く限り確実に人外との接触が待っている


今までのような悪魔や神格のような強大な存在ではないだろうが、面倒になるのは確実だ


考えれば考えるほどに頭が痛くなってくる


だが誰かを助けたいという生徒の思いを無碍にするのも心苦しかったのだ


「せ・・・先生・・・よかったんですか・・・?」


「あ?よくはない、はっきり言えばまったくよくない、だが生徒の頼みを簡単に断るわけにもいかんだろう」


半分はお前達のせいなのだから自覚しろと静希達の頭を軽く叩きながら、城島は不機嫌そうに頭をかきむしっていた


この人は本当に教師に向いているのかいないのかわからないなと実感しながら静希達は大きく息をついていた


「後でもっと詳しい話を聞かせてもらうぞ、依頼人の名前や住所、その他諸々、構わんな?」


「はい、問題ありません」


書類を作成する上で必要なのだろう、いくつか知らなくてはいけない項目を別紙に記録しながら城島はテキパキと静希達の訓練の評価を記録していく


一体どんな事を書かれているのか気になるが、静希達からすれば少しでも長くこの安息が続けばいいと思うばかりである


だが数分後にはまた激流の中にその体を投げ込まれることになる


訓練が終わるまで、静希達は溺れそうになりながらも身体を動かし続けた


日が落ち、気温が下がってきたところで静希達の訓練は終了し、長めのクールダウンを行ったところでその日は解散となった


平衡感覚と酸欠のせいで数分間はまともに立つこともできなかったが、流石に少しずつ慣れてきているのか、身体の調子も悪くない


だが日々の学校での訓練をこなしながらの補習となるとなかなかに厳しい


特に体力の少ない明利は徐々にだが疲れが顕著に出てきているらしかった


「そういえばさ、その幽霊退治に石動の班員は連れていくのか?」


「いや、彼らは今回の件には関わりはない、連れていく理由はないと思うんだが・・・」


何気ない言葉に石動は何の問題もなさそうに返答する


石動が班員とどのように接しているのか疑問だが、静希達と接することが多い気がして少しだけ興味があったのだ


「石動さんの班員ってどんな人?あんた達知ってる?」


鏡花の言葉に静希達幼馴染トリオは思い出そうと思考を凝らす


「俺そもそも石動の班員見た事・・・はあるけど覚えてねえ・・・明利は?」


「前に優秀班が集まった時にちょっと見た気がするんだけど・・・」


「たしか・・・双眼鏡がいたのは覚えてる・・・他はどうだったかな・・・」


思い出そうとしているのだが、今までそれほど気になる程の内容でもなかったのだろう、全員記憶にはあまり残っていないようだった


だが静希の言葉の中に一つ気になる言葉がある


「双眼鏡って?」


「あぁ、樹蔵ってやつでな、俺達と一度か二度くらい同じクラスになったことがある、遠くの物が見えるから双眼鏡って呼ばれてたんだ、あいつがいたのは覚えてる」


双眼鏡、静希が引き出しと呼ばれていたように称号のない彼らは互いを最も近い身近なもので例えていた


バカにするというニュアンスもあるのだろうが、今となっては懐かしい限りである


「あとは上村と下北がいる、あの二人にはいつも助けてもらっているよ」


「あぁ!なんだ上下コンビもいたのか、懐かしいな」


「上下コンビ?」


なんとも安直な名称に鏡花は首をかしげる


昔から知られている名前なのだろうが、今年からこの学校に入ってきた鏡花にとっては耳に新しい単語だ


「昔っからコンビ組んでる奴らでさ、これがまた連携がうまいんだよ、同調でもしてるんじゃないかってレベル」


「確か楽器をよく使ってたよね、懐かしいなぁ」


楽器を使う


その言葉に鏡花は疑問符を飛ばすことしかできないが、少なくとも静希や陽太のように落ちこぼれであったような人物ではないようだった


「でも双眼鏡に上下コンビじゃ前衛いないじゃん、石動って前衛型?」


「あぁ、私は主に前衛で戦っている、お前達と同じように前衛が一人なのが辛いところだ」


「え!?石動さんって前衛だったの!?なんかイメージ違うわね」


鏡花の驚愕はもっともだ


今まで接してきた前衛の人間は陽太と雪奈のみ、その二人の性格が良い意味でも悪い意味でもバカなのだ


それに対して石動はバカとはかけ離れた位置にいると認識していた


どちらかと言えば静希や鏡花の方に近い、思考するタイプであるように思うのだが、どうやら前衛型になる条件は性格ではないようだ


「前衛ってことは強化なの?でも昨日は・・・」


「あぁ、私は付与だ、少しだが変換や強化の力も混じっている」


「付与か、雪奈さんも付与だよね、前衛の人って能力偏るね」


明利の言う通り、前衛型になれる人間は能力に偏りがある


強化系統は言うまでもなく、自分の肉体を強くすることのできるタイプか耐久力を付けることのできる能力が求められるために、付与、変換などが適正とされる


性格的な意味では、思考の瞬発力が求められ、迷いや躊躇などの少ない短絡的な考えをするタイプが良いと言われている


そう考えると雪奈は前衛型の中で最適と言ってもいいほどの能力と性格をしている


陽太の場合発現系統なのか強化系統なのか微妙なところだが、非常に前衛向きの能力と性格をしている


だが能力のことはさておいても、石動の性格が前衛に向いているとは思えない


思慮深く、それでいて冷静、だが身内のこととなると頭に血が上る


総合的に見れば前衛に向いているとは思えない


それでも戦えているということは、やはりエルフのなせる技なのだろうか


「索敵が双眼鏡で、補助と援護が上下コンビ、前衛が石動か、結構バランスの取れた班だな、うまく動けそうだ」


「ふふん、これでもクラスの最優秀班に選ばれているからな、それなりに実力はあるさ」


嬉しそうに、そして誇らしげに石動は胸を張る


仮面をつけているのと言葉づかいが特徴的な事を除けば、基本的に石動は普通の学生だ


それこそ静希達と何も変わらない


褒められれば嬉しいし、癇に障れば怒りもする


普通の人間と違うところは能力適性が高すぎるエルフであることだけだろう


能力者として優秀であればある程に、普通として見られなくなるのだから、なんとも難儀なものだ


特に石動にはエルフであるからという理由で色々と誤解も受けるだろう


そういう意味で石動は随分真直ぐな性根に育ったものだと感心する


引き続き十回分投稿中・・・


地味に時間かかりますね

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