未知の存在
「先の写真はこの女性の家で撮影されたもので、この人は私の恩師でもあってな・・・最近になってこういった存在が見かけられると相談を受けたのだ」
石動の言葉に静希は即座に石動の言いたいことに、頼みたいことに気付く
「あぁ・・・なるほどね・・・何となく話が分かったぞ、俺らにそれを何とかしろという訳か」
「端的に言えばそういうことだ、以前神格を対処できたお前たちならばと思ってな・・・」
確かに四月の終わりにエルフの村で出没した、というか召喚された神格の対処はした
結果的にそれはよい方向に進みはしたものの自分達が何かしたというよりは神格邪薙の協力が得られたからこそだと思っている
あの状況でもし邪薙が理性を取り戻しても村を滅ぼそうとしていたら静希達だって止められなかっただろう
だがそんな諸事情を知らない石動からすれば、静希達は神格を対処したかなりの実力を持った能力者と認識されているのだ
今まではお互い友好的に接してきたし、おそらくこれからもそうだと思っている
だが面倒事を持ちこまれるというのは少々予想外だった
東雲姉妹との遊び相手程度ならばそれほど面倒でもない、あれはあれで訓練になったし、エルフと拳を交えることなどそうそうできる事ではない、逆に感謝していたほどだ
「幽霊退治ってこと?それこそお坊さんとかの出番なんじゃないの?」
「本来ならそうなのだが、何度か依頼したところダメだったようでな、どうしようもなくなった所に私のところに相談に来たのだ、そういった分野に精通した能力者はいないかと」
すでに専門家の方に話を通していたとは驚きだったが、幽霊に精通していると言われると静希達は首をかしげる
人外に関しては多少詳しくなってしまったというか、詳しくならざるを得なかったが幽霊となると未知の領域だ
幽霊の存在を否定するわけではない、むしろいてもいいと思っているが、実際にあったことは一度たりともない
「あ・・・あの、石動さん・・・こ、断ったりはできる・・・かな?」
「もちろんだ、こちらはお願いする立場だからな、お前達が無理だったり、やりたくなければ断ってくれて構わない」
明利の声は震えており、幽霊に遭遇する事を考えていたのか、静希の服の裾をずっと掴んだままだ
怖いものが苦手、というか基本臆病な明利からすればこの事件は関わりたくないものだろう
そして何より断ることのできる内容の面倒事は初めてかもしれない
今まで実習だったり半強制だったりしたせいで非常に新鮮な感じがする、これが拒否権がある嬉しさかと、感動をかみしめていた
だがここでいったん感動を置いておいて思考を開始する
問題は受けるか受けないかだ
「どうする?私は別にかまわないけど?幽霊もちょっと見てみたいし」
「同じく、生まれて初めての幽霊とご対面だ、記念写真撮りたいな」
能力の強い二人は全く意に介していないようで、むしろ積極的に関わろうとしていた
鏡花に対してのみその反応は女子としてどうなのだろうかと思ってしまうのだが、今は置いておこう
「わ・・・私は遠慮したいかな、その・・・えっと・・・怖いし・・・」
明利としては極力関わりたくないようだ
まぁこれが普通の反応だろう、女子としては明利の方が正しい反応をしていると言わざるを得ない
「俺は別にどっちでもかまわないぞ、ただ石動にはいくつか借りもあるしな、ここで返しておきたい」
石動には召喚に対して情報をもらったりしたために多少の恩もある、せっかく自分達を頼ってくれたというのに、それを無碍にするというのも気が引ける
四人のうち三人が関わることに積極性を見せている中、一人だけ反対してもどうしようもないということが分かっているのか、明利はうなだれる
今回はかわいそうだが、我慢してもらうしかない
「でも石動、俺達が幽霊をどうにかできるかは分からないんだぞ?確証もないし、俺ら自身保証できない」
「あぁ、それに関しては問題ない、専門家でも無理だったのに能力者で何とかできるというのも都合のいい話だ、少しでも可能性のある人にと言われているしな」
ダメで元々のつもりなのだよという石動、そう言ってくれるのはこちらとしてもそれほど重圧を感じなくてもよいのだが、よくよく考えれば自ら面倒事に関わりに行くのは初めてかもしれないなと不思議がっていた
「その幽霊っていつ頃出るんだ?昼間も出るのか?」
「いや、主に夜中に出るらしい、被害などの詳しいことは聞いていないが、夜遅く、特に深夜過ぎに出るようなことを言っていた」
石動はパソコンをつけて色々と探り出す、エルフがパソコンをいじっているというのは非常に不思議な光景だ
いや、現代人なら普通のことなのだろうが、エルフであるという先入観のせいで妙な光景に見えてしまう
よくよく考えれば、普通に携帯などの文明の利器を使っているのだから何も変わったことはない学生の姿と見れなくもないのだ
今更ながらエルフという固定観念が生み出す先入観は恐ろしいものである
「この家はここから一時間程度のところにある、夜に出ることを考えると・・・泊りがけになるだろうな」
「となると、この週末辺りか?向こうの許可とかは?」
それは問題ないという石動の言葉に反して、静希は面倒になるなと考えていた
外泊をする以上、学校側に許可をもらう必要がある、しかも能力を使うことがほぼ確定しているのだ
城島を説得するところから入らなくてはならないなとため息をつきながら静希は頭を掻き毟る
「じゃあ総括として、石動さんの頼みを聞くってことでいいのね?」
鏡花のまとめに全員が了承の意を述べると、石動は安心したように僅かに息を漏らす
その表情こそ見えないものの、不安が一つ解消されたのは間違いないようだった
「だけど先生を説得するのはお前も手伝えよ?あの人説き伏せるのは面倒だ」
「もちろんだ、明日にでも直に頼み込んでみる」
石動の言葉は自信に満ちているのだが、どうにも静希は嫌な予感がする
城島は基本生徒には平等に接するが、石動に対しては多少刺があるような気がする
石動にというより、エルフに対してと言った方が妥当かもしれない
以前のエルフの村でも城島から放たれるエルフの酷評はかなり多かった
個人的に恨みでもあるのだろうかとも思ったが、そのような事は考えても仕方がない
「今日はすまなかったな、訓練の後で疲れているだろうに、無理を言ってしまって」
「あぁそうだな、次は補習のない時にお願いするよ」
「覚えておくよ」
話を終え少し雑談をした後で静希達は石動の家から出ることにした
辺りはすでに暗くなっており、気温もどんどん下がっているようだった
ジメジメとした湿気と、それを運ぶ風が服を肌に吸いつかせて不快感を煽る
九月といえど暑さも湿気も収まるところを知らず、季節がずれているのではないかという錯覚を起こしてしまう
早く過ごしやすい季節になってほしいと切に願うばかりだ
「にしても幽霊か、静希はどう思う?」
「ん?いてもおかしくはないと思うけど、悪魔や神様がいるくらいだし」
帰り道、不意に呟いた鏡花の台詞に静希は当たり前のようにそう返した
自らがそういった不可思議きわまる存在達と生活しているせいで、もうなにが出てきても不思議ではないのだ
そのうち妖精や妖怪の類が現れるのではないかとすら勘ぐっている始末である
「幽霊って、どっちかってーとオルビアに近い感じなのかな?」
「オルビアさんって幽霊なの?確かに身体の実体は無いみたいだけど・・・でも普通に話せてるし・・・」
明利はオルビアが幽霊かどうかで葛藤しているようだ
確かにオルビアはすでに何百年とこの世界にいる、身体は剣の中に封じ込められ、その存在を霊装にまで昇華させた
そう考えると人間ではないのは確実なのだが、幽霊であるかと言われると首をかしげてしまう
それはたぶん本人も同じだろう
だが『霊』装などという名前が付いている以上、何か霊的な力があるのではないかとも勘ぐってしまう
「仮にオルビアが幽霊だったらどうする?怖い?」
「え?えっと・・・オルビアさんはそんなに怖くない・・・と思う」
明利からすればオルビアはどうやらセーフらしい、普段から見慣れているというのもあるかもしれないが、オルビアがセーフなら大概のものは大丈夫なのではないだろうか
剣から出てくるところを注視してみると僅かに半透明になる時もあるため、人間か幽霊かで言えば幽霊に近い部類だと思うのだが
「でも今回は私達はやることなさそうね、うちの班の人外担当は静希だもの」
「すっげー不名誉だけど否定できないのが辛いな」
鏡花の言う通りこの班で一番人外に精通しているのは静希だ
一度ならず二度まで、そして二度を超えて三度、さらには四度目まであった人外との接触
はっきり言ってもはや呪われているのではないかとも思えるほどの確率だ
悪魔との接触がきっかけになっているとわかっているのだが、怒涛の勢いで接触してきた人外達
メフィ、邪薙、オルビア、ヴァラファール
半年経たずに四件だ、これではこれから生きる間にどんな人外と遭遇するかわかったものではない
もしかしたら数年後、本当に人外保管庫の名を襲名することになる可能性すらある
普通なら笑い話だし、この前までは冗談で済んでいたのだが、流石にここまでハイペースだと笑えなくなってくる
「ま、とりあえずは先生を説得する石動さんの手腕に期待しましょ、話はそれからだもの」
「あー、確かに、先生が許可しないと外泊とかできないもんな」
能力者が能力を使うのもそうだが、どこに行くかも基本的には制限が付く
そこらに買い物に行ったりする程度なら問題ないが、外泊、さらに能力使用とあっては教師の、ひいては静希達の担任教師城島の許可は必須
石動がどのように説得するかは知らないが、彼女が説得できないようなら協力もなにもなくなるのだ
「それじゃ、また明日」
「おう、明日は補習がないことを祈るよ」
その言い分に全員で同意しながらそれぞれ自分の家に帰っていく
疲れた体を癒す為に、静希も家へと戻り、その日を終えることになった
一周年を記念しまして先日言っていた通り十回分投稿しようと思います
本当だったら扉絵とか描いてびっくりさせたかったんです
でも主要キャラ書いてて邪薙やオルビアで挫折しました
誰か画力をください
ではまた後ほど




