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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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同級生の頼み

ひとしきり遊泳を楽しんだ後、静希達はシャワーを浴びて着替え、濡れた髪を陽太の能力で乾かした後、帰路につくことにした


まだ九月は始まったばかりで気温は高いものの、すでに日は傾き町中がオレンジ色に染まっている


これから徐々に過ごしやすい気温となっていくだろう


そんな中静希は、携帯に着信が入っている事に気が付いた


相手はエルフの同級生石動だった


何か用でもあったのだろうかと疑問に思いながらとりあえず明利達に別れを告げ家に帰ることにする


家の中に入り玄関の扉を閉めると同時に飛び出してくる人外達にももう慣れたもので、カバンをオルビアに預けながら静希は携帯を操って石動に電話をかける


何度かのコールの後にもしもしと凛とした声が耳に届く


「もしもし、五十嵐だけど」


『あぁ、先ほど電話したんだが・・・都合が悪かったか?それと今少し時間は大丈夫か?』


本来ならそれは電話をかけたこちらが言う台詞であるのだろうが、そのことはさておいておこう


「あぁ、今家についたところだから大丈夫・・・東雲姉妹のことで何かあったのか?」


石動とは夏休みの間に何度か顔を合わせていた、その理由としては東雲姉妹の特訓の相手という名目で一方的に攻撃され続けていたのだ


精霊の加護を身に宿したエルフ相手に、静希のような普通の能力者が太刀打ちできるはずもなくとにかく逃げることしかできなかったのを思い出す


反撃しようにも攻撃したら怪我をさせてしまうということでオルビアも使えず、あまり得意でない徒手空拳で対応せざるを得なかったのを思い出す


『その節は迷惑をかけた・・・いやまぁあの二人からも色々と頼まれているがそのことではないんだ』


「それじゃあ一体何の用だ?まさかまた神格がどうのとか言うつもりじゃないだろうな?」


静希は冗談交じりに笑いながら言ってみるのだが、電話の向こう側の石動の反応はあまり良くない


「・・・ひょっとしてマジなのか?」


『い、いや、神格などの事ではないし、私の村とも無関係だ、それは保障する』


「その言い方だと神格以外の何かが関わってるみたいな感じだな・・・」


静希の切り返しに石動は図星を突かれたのか、僅かに言葉を詰まらせていた


面倒事が舞い込むことが多いとはいえ静希はただの能力者だ


それほどたいしたことができるわけでもないし、わざわざ面倒事に突っ込みたいなどという奇妙な性分を持っているわけでもない


できるのなら面倒はお断りだ


『お前にとっては面倒なんだろうが、こちらとしても事情があって・・・電話では伝えにくい・・・それにお前だけに頼みたいというわけでもないんだ』


「ん・・・少しわかりにくいな、はっきり言えよ」


妙に言葉を濁す石動、今まで歯に衣着せぬ物言いの彼女からすれば珍しい


本当に何か事情があるのだろうか、だとすれば面倒なのは確実なのだが、エルフの村が関わっていないのならそれほど大きな問題でもないだろう


『できるなら・・・お前の班員とも話をしておきたいのだが、明日時間をくれないか?ちゃんと事情も説明したい』


真摯にこちらに訴えかける石動の頼みを事情もなにも聞かずに無碍にするほど静希は無情ではない


事情が分かって関わりたくないと思った場合は別だが


「・・・わかった、でも明日も補習があるかもしれないからその後でもいいか?」


『補習?お前たち程の者がか?』


「あぁ、この前の実習でちょっとやらかしてな、先生がご立腹だ」


その言葉があまりにも予想外だったのか石動はそうか、それは大変だなと言いながら笑っている


こちらとしては笑いごとではないのだが、今は置いておこう


「補習が終わるのは日が落ちるちょい前くらいだから、その時間まで暇潰しててくれ、一応俺の方から全員に話は通しておく」


『あぁ、すまないが頼む、それではな』


通話を終了し静希は大きく息を吐く


どんな面倒事が舞い込むのかは分からないが、ある程度の覚悟はしておいた方がいいだろう


悪魔か?精霊か?未だ会った事のない人外か


いや、石動自身がそれほどのことではないと言ったのだ、その言葉を信じるべきだろうか


「マスター、石動様のご用件はなんでしたか?」


「ん・・・俺らに頼みたいことがあるんだとさ」


いつものように部屋の整理整頓や洗濯などを終えたオルビアが通話を終えた静希に近づいてくる


すでに食事を作るための準備なども終えており、本当に騎士なのかメイドなのか分からない始末だ


「また面倒事なんじゃないの?今度は一体何?悪魔?精霊?それともあの双子ちゃん?」


「分からん、東雲姉妹の事じゃないらしいけど・・・一体何なんだか」


メフィの言葉を軽く流しながら静希はとりあえず今日の夕食を作ることにした


疲れた体に鞭打って作るのはいいものの、結局食べるのは自分だけだ


こういうとき一人暮らしは楽である、多少手を抜いても問題がない


もっとも、手を抜いたら悪魔や神格の小言が飛んでくることになるから今の状況が一人暮らしかと言われると微妙なところではあった


翌日、使用許可など取れなければよかったのにと思いながら静希達は授業が終わった後でプールにやってきていた


連日の使用ということで水着が乾くか心配だったが、夏にも等しい暑さと日差しでは全くの杞憂に終わった


「で?石動は俺らに一体何をやらせたいんだ?」


「それは俺が聞きたい、まぁ訓練が終わってからのお楽しみだろ」


水着に着替え足早にプールに向かうと昨日と同じように城島が仁王立ちして待機していた


あらかじめ水に流れを作りながら自分の能力の精度を確かめているようで、プールに入っている水はまるで嵐の海のように荒れ狂っている


「来たか、流石に男子は着替えが早いな」


「まぁ脱いで着るだけですからね・・・今日も昨日と同じ訓練ですか?」


「いや、今日はレベルを一つ上げる」


城島のその言葉に静希と陽太は嫌な顔をする


城島がどのような訓練のプランを作っているかは知らない、だが先日ようやく空中での姿勢制御ができるようになったというのにその次の日にはまた別の訓練をやらされる


身体が付いていくかわからないというのもあるが、彼女の頭の中には反復練習という言葉がないのだろうか


「お待たせ、やっぱ男子は早いわね」


「すいません、お待たせしました」


城島と同じような事を言いながら鏡花と明利が小走りでやってくる


全員がそろい、準備運動を終えたことを確認すると城島はふむと呟いてから能力を発動した


プールの中の水が半分ほど宙に浮き急速に流れを作りながら水の道を作り出していく


勢いのある水の道は宙に浮いたまま、その形をまるで蛇か龍のようにうねらせている


太陽の光に照らされ眩く輝きながら移ろい続ける水流は幻想的な光景なのだが、今からあそこに自分達が入ることを考えると背筋が寒い


「やることは昨日と同じだ、プールの中にあるボールをキャッチしていくだけだが、今日は同じ高さ、同じ場所に打ち上げるのではなく、私の気分で変えていく、上の水流か下のプールか、どちらに着水するかを即座に判断して体勢を整えろ」


城島の簡素な説明に全員がげんなりする


先日の同じ高さからの落下だけでもかなり慣れるのに時間がかかったというのに、今度は別の高さ、さらに着水点が複数存在する


数秒もないうちに判断する材料が一気に増えた、めまぐるしく変化する水流の中でボールがどこにあるかまで判断しなくてはならないのに、やることが二倍どころか三倍ほど増えているような気がする


これで本当にレベルが一つ上がっただけなのだろうか


「せんせー質問いいっすか?」


「却下する、行ってこい」


城島が指を鳴らすと全員の身体が独特の浮遊感に包まれ上空へと急速に上昇していく


先日と同じように急速に打ち上げられた四人は即座に体勢を整えようと周囲の状況を確認する


だが城島の言ったように全員が同じ高さにいない


静希と陽太は上空の水流から十mほどの高さに、明利と鏡花はプールの十mほど上の位置に打ち上げられていた


静希は直下の空中水流に着水できるように体勢を整えようとするが距離が足りない、僅かに身体を打ちつけるように着水し激しい流れに逆らえずに急速に移動を開始してしまう


だが次の瞬間、足が水から出てしまう


落下により水流の下方に移動していたために足だけが水流から出てしまっているのだ


即座に上の方に移動するために手足を動かすと今度は大きなカーブに差し掛かり外側に身体が引っ張られていく


アトラクションのように外側に壁があれば悠々と流れに身を任せてもおけるだろう、だがこの水流の外部に壁などという甘っちょろい物は無い


流れに身を任せているだけでは水流から簡単にはじき出されてしまう


何とか水流から飛び出ないように身体を動かし続けているが、はっきり言ってボールなど気にしている余裕は全くなかった


それは陽太も同じようで、四苦八苦しながら身体を水の道の中心より少し上のあたりに留めようともがいている


ところどころで息をしながら身体を動かしていると不意に浮遊感が身体を包む


身体が横に引っ張られ、今度は下のプールに向けて落下し始める


そして今度は明利と鏡花が上の水流に着水するようだった


他人を心配するほど余裕があるわけではないが、今度はプール、先ほどよりは楽だと高をくくりながら今度こそしっかりと姿勢を正して着水する


だが、その認識が甘かった


水の中に二mほど身体が入った瞬間に身体が回転する


上の水流とは全く違うレベルで水の流れが激しい


それこそ身体の右半身と左半身ほどの僅かな距離で流れが真逆になっている程に


正しい泳法を行うどころの話ではなく、単に泳げるかも怪しい程の水流だ


強い水流に身体を囚われて、一気に流されていくと突然身体を包んでいた水の感覚がなくなる


いきなりの喪失感に何が起こったのかと思っていた次の瞬間、背中が水の壁に強くぶつかった


そして数秒たってから理解した、プールの中にいくつか大きな気泡を作っているのだ


水流の到着点として用意され、呼吸の為の避難場所としても用意されていたのだろうが思わぬ痛手だった


プールの方もボールなどに注意を向けられるような状況ではない、下手すれば溺れてしまう程に激しい流れだった


誤字報告が五件分溜まったので複数まとめて投稿


こんなプールがあったら一度行ってみたいかもしれない、二度はいきたくないけど


そんなことを考えて書いていました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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