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J/53  作者: 池金啓太
十二話「夢か現かその光景を」

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水の中での補習

残暑厳しい九月の初旬


未だ強く照りつける太陽とまだ夏は終わらないというかのような蝉の声が響く中、静希達は上空二十メートル付近から落下していた


全員が訓練用の指定水着に着替え、腕や足を使って姿勢制御を行い水しぶきを上げながら着水していく


実習が終わってから二日と経っていないこの日、静希達は前回の実習の失態から補習を命じられていた


「ぷはぁ・・・流石にきついわね・・・」


「ぅう・・・落ちる時ぞわっとするのが慣れないなぁ・・・」


水にぬれた髪を梳きながら鏡花と明利は荒く息をつく


静希達がいるのは学校の中にあるプール


喜吉学園のプールは全部で三つある


一つは底の浅い泳ぎを学ぶためのプール、これらはほとんどが初等部の学生が使う


一つは水深二メートルほどのプール、これらは中等部の人間が使用し、本格的な泳ぎの訓練をするために使う


そして三つ目は今静希達のいる水深五~十メートルほどのプール、これらは高等部の人間が能力使用を前提とした訓練をするためのものである


一つ、普段と違うところがあるとすれば、プールの中にかなり勢いの強い水流が作られているのだ


「ほらぼさっとするな!五十嵐達はもう動いているぞ!」


「は、はい!」


「はぁ・・・ほんとに元気ねあいつら」


城島の声に明利が勢いよく、鏡花が渋々と水の中を移動していく


今回静希達が行っている訓練は突然発生する物事への冷静な対応力を鍛える為のものだ


前回不意打ちを受けて苦戦したということで城島が考案した遊び、もとい特訓で、プールの中にいくつもの水流を発生させ、水の中にいくつかのボールを配置しておく


そのボールをとるだけなのだが、水流の流れが次々と変わり、なおかつランダム、というか城島の気分しだいで唐突にその体がはるか上空へと打ち上げられる


唐突に上空に持ち上げられることに最初は慣れていなかったが徐々に慣れてきたのか、静希達全員が空中での姿勢制御を物にしてきていた


まずあわてないこと、それができれば落下までには問題なくしっかりとした体勢で水に入ることができる


城島が始まりに告げたアドバイスがこれだった


本当にその通りでまずあわてると水面に激突することになる


ただの水と思って侮ってはいけない、背中から水に叩きつけられた時は何かで殴られたのかと錯覚するほどの痛みを感じたのだ


陽太でさえ何回か失敗してようやくまともに身体を動かせるようになった

鏡花は三回目で簡単にやってのけ、静希は九回目でやっと空中での姿勢制御を覚えた


明利は最初、全く体を思うように動かせずに背中や腹から落下していたが、失敗を繰り返すうちに落ち着くという事を学んだらしく十五回目にしてしっかりと着水することに成功していた


「ふん・・・少しはまともになってきたな」


休憩時間にプールの隅で身体を休めていると城島が静希達の特訓の点数の記された紙を持ってやってくる


「先生・・・これって意味あるんすか?なんか最初言ってた目的と少し違うような気がするんすけど」


今回の特訓の目的は突発的に起こった不意の事態に対する対応力を鍛えるというものだ


これでは姿勢制御の特訓と捕らえられてもおかしくはない


「もちろんあるぞ・・・突発的に打ち上げられ、冷静に自分の体勢を判断して姿勢制御を行う、言わばこれは入門編だな、突然の事態を正しく素早く判断することから対応力は生まれるからな」


突然空中に打ち上げられて自分の体の状態を確かめてから落下するまで数秒程度


本当に即座にどの向きに身体があるのかを理解していないと姿勢制御などで

きない


そういう意味ではこの訓練は判断速度と状況把握力の両方が求められる物と言っていいだろう


城島の言う通り、正しく素早く事態を判断してから対応しなくてはならない、落下に対する姿勢制御という固定された状況を考えれば確かにこれは入門編と言えるだろう


「今日はもう日が傾いてきたな・・・ここまでにしよう、明日も許可が取れたらお前達を呼び出してやるからそのつもりでいろ」


喜々とした表情を浮かべながら城島は本当に楽しそうな声を出す


訓練自体が楽しいのか静希達が痛みを覚えているのが楽しいのか、どちらにせよ楽しそうでなによりですと言いたくなる


「あぁそうそう、少しは楽しまなくてはな・・・ほれ」


城島が指を弾くとプールの中にあった水が徐々に持ちあがる


それは巨大な水の塊となって宙に浮かび、球体を維持しながら回転しだす


「十分だけだ、楽しむといい」


「え!?いいんですか!?」


「補習といえど、楽しみがなければ続かんからな」


そういうと静希達の体が浮き空中の水の塊に向けて『落下』していく


どうやら水の中心部に重力場を発生させて宙に浮かせているのだろう


宙に浮く球体の中に入った静希達は、城島特製の奇妙なプールの中で自由自在に泳ぎ回る


普通のプールなどではできない動き、地面を上に見上げることもできる特殊な構造に満足げに遊泳を楽しんだ


今回から十二話が始まります


一周年記念でやることも決まったのであとは突き進むだけですね


これからもお楽しみいただければ幸いです

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