学生生活の重み
城島への連絡を終え、公道で待機していると破損されていない方の搬送車が休憩所の方向からやってくる
どうやら城島が護衛としてしっかりと搬送し終えたようだった
「御苦労・・・と言いたいが・・・何だこれは」
「ちょっと事情がありまして・・・」
護衛車両から降りて岩にかたどられ身動きを完全に封じられている江本を見て城島は流石に困惑した
捕縛しろということは確かに自分が言ったことなのだが随分と厳重だ
というかこれはもはや捕縛や拘束と言った域を越えている
だが実際に対峙した静希達からすればこうでもしなければ江本の行動を封じることができるとは思えなかった
静希達から江本の情報を正確に伝えられた城島は口元に手を当てて思案を始める
「なるほどな・・・それならこの対応も納得できる」
「これからは彼の監視と対応は全て無能力者の人が行うべきであると判断します、警察の方への報告はお任せしてもよろしいでしょうか」
「わかった、向こうには私から伝えておこう、よくやったな」
珍しく城島からの賛辞の言葉を受け取ったことで静希達は一瞬目を見開いた
今まで褒められたことなど数えるほどしかない、今回の行動がそれほどのことだったのだろうかは疑問だ
だが素直に嬉しかった
その後静希達は護衛車両に乗り江本を拘置所まで送り届け、中間地点で警官隊との別れを告げた後で城島の部屋に集まっていた
「とりあえずご苦労だった、どうだった?初めての護衛任務は」
その顔は面倒だっただろう?と言葉にせずとも告げているようで、静希達は全員苦笑して見せた
「普通の内容だったのは嬉しいんですけど、すっげー疲れました、なんつーかずっと緊張しっぱなしで・・・」
「同意です・・・護衛があんなに辛いものだったなんて知りませんでした」
陽太と鏡花は特に疲弊しているようだった
二人とも短期集中を得意としているために、護衛のような長時間集中を続けるという仕事は性に合わないのだろう
「俺もかなり疲れましたね、考えることが少ない分いつもよりは楽でしたけど」
「私はずっと索敵ばっかしてて、仕事がたくさんあったので忙しかったです」
静希と明利からすれば面倒事はあったもののやることがはっきりしてしまっている分余計な事をしなくてよかったという考えのようだった
班の中でもこのように意見が二分するというのが人間性を表しているのだろう
「ところで先生、江本の処遇はどうなるんです?」
「あぁ・・・まぁ・・・刑務所行きは免れんだろうな」
「そう・・・ですか」
全員が僅かに視線を落とす
処遇に関しては何の不思議もないだろう、江本は能力を使ってまたも人を傷つけた
しかも今回は相手に重傷を負わせている、もはやかばいだてできるレベルではなくなってしまったのだろう
できるのならそうなる前に止められればよかったのだが、そうもいかないだろう
「刑務所への服役期間は機密だから教えられんかもしれんが、まぁ何か吉報があれば知らせよう、それと今回中学生相手に不覚をとった間抜け三人」
「先生、油断したのは認めますが、この二人と同列に扱われるのはすごく不名誉なんですけど」
静希と陽太を指さして不満げにしている鏡花に対し城島のチョップが炸裂する
「バカ、お前が加減などせずに全力で敵を制圧していれば済む状況だったはずだ、響も五十嵐も、そしてお前も同列だ、しっかり反省しろ」
納得しかねているのだろうが油断し慢心し加減しておきながらやられたのは事実
それ以上言い返すことはできずに鏡花は渋々と反省しますと声を漏らした
「話が逸れたな、この間抜け三人には後ほど補習を受けてもらう事にする」
「はぁ!?補習!?いやっすよそんなごふぅ!」
陽太が叫び抗議しようとするのを城島の拳が止める
腹部に突き刺さった拳が陽太の肺から空気を押し出して呼吸困難を起こし、痛みで悶絶させる
「補習と言ってもそんなに堅苦しいものじゃない、油断しているお前達を私が直々に教育指導してやろうというだけだ、安心して励むといい」
城島が向ける笑顔は、静希が浮かべるそれよりも何倍も恐ろしい
静希は狂気と歓喜を混ぜた歪んだ笑みを浮かべるのだが、城島のそれは全く別次元だ
本当に心の底から楽しんでいる、傷つけることを、いたぶることを
城島の言う教育指導の意味を知っている四人からすればこれほど恐ろしい言葉は無いだろう、できるなら逃げ出したいが城島相手にそれができるはずもない
泣く泣く了承する静希達は諦めの色が濃厚に表れていた
「あ、あの先生、それって、私も受けちゃだめですか?」
その場の空気を切り裂くような明利の言葉に全員が耳を疑った
「ん?構わんが、お前は今回最も優秀な行動をした、わざわざ罰を受けることは無いんだぞ?」
「皆が受けるなら私も受けます、皆で頑張ったから・・・ちゃんと最後まで一緒にやりたいです」
その言葉に鏡花は感極まって明利に抱きついてしまう
その様子に静希と陽太も僅かに涙腺を刺激されながらも自分達のせいで明利まで巻き込んでしまったことに僅かな罪悪感を覚えていた
こんなことになるならさっさと銃殺しておけばよかったと静希が考えたのは一瞬だけであった
「まぁなんにせよ、今日は休め、疲れているだろうから念入りに身体をほぐしておくこと、以上だ」
静希達はその場から解放され、自分達が寝泊まりしている部屋に戻ってくる
今までの疲れがどっと出て全員が辺りに寝転がった
「つっかれたぁ・・・護衛は楽なんて誰が言ったんだか」
「そうね、奇形種相手にしてた方がずっと楽かも」
戦うことが得意な二人としてはやはり明確な敵がいた方が分かりやすく、なおかつ行動もしやすいようだった
事実今までもそうだったのだから
「にしても明利、よかったのか?わざわざ補習なんて・・・」
「うん、皆一緒の方がいいでしょ?」
「あぁもう、明利って絶対損するタイプだわ、もっと世渡り上手になりなさいよ」
そんなことを言いながらも鏡花は嬉しいようで、声に怒気も締まりもない
それは静希達も同じだ、そして自分から補習を受けるといいだすことは予想外だった
明利も自分の意志を言葉に乗せることが上手くなったのだろう、幼馴染二人としては嬉しい限りだった
「でも、あいつはなんで逃げ出したんだろうな・・・拘置所だったら少しの拘束で外に出られただろうに」
「ん・・・もしかしたらもう出られないと思ったのかも、ほら私達も昔は噂話とか信じてたでしょ?」
「あぁ、一度悪さした能力者は二度と出てこられないってやつか」
静希達が子供のころから伝わっている噂、今の年下の子供たちもそれを知っているかどうかは知る由もないが
「あぁ、私が子供のころも言われたわそれ、特に私は強く言われたわね、便利な能力だったからしょうがないけど」
「ま、鏡花は変換だしな、ちょっと分かる気がするよ」
強い能力を持つ子供はそれだけで煙たがられる
それは無能力者でも能力者でも変わらない
陽太もそうだったように鏡花も能力の成長にあたって非常に苦労している
多くの人の目がある中で正しく成長し、正しく能力を扱えている鏡花は余程両親に恵まれたのだろう
「もう今日はダラダラして過ごそうぜ・・・そうだ、休憩所で大量に菓子でも買って騒ぐか?」
「宿の人に迷惑はかけられないわよ・・・まぁ少しくらいならいいか」
班長のお墨付きとあっては誰も反論する者はおらず、静希達は夜遅くまでのんびりと過ごした
実習を終えた時のこの充足感と、僅かな安らぎが心地いいと感じながら、静希達は二学期最初の実習を終える
初めてと言ってもいいほどのまともな内容の実習に、今までの中で一番の疲労を覚え、彼らの認識は大きく変わった
それがいい方向か否かは彼らにも分からないことである
そして後日、静希達が実習のレポートを提出した後職員室に一班全員が呼び出されていた
「先生、今度はどんな面倒事です?また誰か称号でも貰いましたか?それともレポートに不備でも?」
「あー・・・レポートに関してはいくつか言いたいことはあるが・・・そのことは置いておこう」
鏡花の不満げな言葉を軽く流しながら城島はいくつかの書類を見てため息をつく
「一応少し気にしていたようだから伝えておこうと思ってな、江本のことだ」
江本の名前が出たことで静希達は僅かに表情を強張らせる
彼は言い方を変えれば静希達が捕らえた初めての能力者だ、処遇がどうなるのか気にならないはずがない
年下で同じ能力者、できるなら少しくらい刑が軽くなればとも思ったが
「結果だけ言えば、江本は一年間刑務所に入ることになる・・・まぁ未成年という事もあり少しは軽いな・・・一年間反省しながら能力の扱いをみっちり教えてもらうそうだ」
その言葉に全員の溜飲が下がる
一年
学生にとってとても長い期間ではある、重要な時間ではあるものの一生ではないし、まだ取り戻せるレベルだ
辛い一年になるとは思うが彼自身が起こしてしまったことなのだ、自分自身で責任をとるしか方法は無い
能力者にとって年齢は関係ない
存在自体が危険である以上、責任を持って行動しなくてはならないのだ
「本題も終わったところで、レポートの添削でもしてやろうか?特に響にはたっぷりと言いたいことがあるぞ?」
「い、いえ、遠慮しておきますよ!失礼しました!」
陽太がダッシュで出ていくのを皮切りに静希達も続いて職員室から退室していく
逃げ出した静希達の背中を眺めた後で、城島はいくつかの書類と格闘を始めた
そこにはプール使用許可書と書かれている
僅かに笑みを浮かべて自らが課すこととなる補習についての想いを馳せることになる
二学期は始まり、まだまだ残暑厳しい九月の初旬
能力者である静希達の学校生活は、とても長く、重い
誤字報告が五件たまったので複数投稿
今回で十一話は終了、次回から十二話になります
新しい話も思いついたんですがどこに入れるかで悩んでいます
これからもお楽しみいただければ幸いです




