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J/53  作者: 池金啓太
十一話「舞い込む誰かと連れ込む誰か」

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彼らの能力

釘での攻撃は相変わらず続いている


同じ木に隠れていると確実に狙い撃ちにされるために、二人は木から木へ移動しながら江本の視界の外へ外へと移動し続ける


「なに言ってんのさ、奪われたのが悔しいのはわかるけど負け惜しみは情けないよ?」


「なら何故お前は陽太の炎や鏡花の変換の力を使わない?」


静希の言葉に先ほどまで笑っていた江本の表情がひきつる


先ほどから危険な場面はいくつもあった


静希に斬りかかられた時、陽太に襲われた時


なのになぜか江本は二人の力を使っていない


「それだけじゃない、お前は監督役の軍人の能力も一時的に使えたはず、なのに一度も使っていない、俺も騙されたよ、実際に俺達は能力を使えない状況にされてたからな」


静希達の影を追ってトランプの照準は移動し続け、釘を打ち続けている


だが遮蔽物の多いこの山で狙った物など当たらない


至近距離ならまだしも五m以上の距離を保ちながら円運動し、木から木へと移動し続ける目標相手に、つい先刻能力を使用し始めた素人が当てられるはずもない


「使用しないのには何か訳があるのか、そう考えた時に一つ気付いた・・・俺らが一定距離離れた途端に突然変換の音が消えた・・・恐らくお前の能力は使用するのに限界距離がある・・・ざっと見積もって五十mってところか」


静希の言葉に江本は歯ぎしりする、先ほどまでの余裕ぶった表情はもはやない


移動し続ける静希に視線を向けようとするのだが次々と移動し続ける彼らを徐々に見失い始めていた


「距離だけなら単に奪う能力でも説明はつく、でも陽太の能力を使えないことでもう一つ仮説が生まれる・・・陽太の能力は『使用者の身体の周りにしか炎を出せない』能力だ・・・本当に能力を奪ったのならお前が使用者となり、その体を炎で包めたはず」


使い勝手が悪い


静希は自分の能力をそう表現した、そしてそれは陽太も同じ


普通の発現系統であれば遠距離中距離での発動は容易なのにもかかわらず、陽太の能力はそれができない


そこが決定的にある事実を導き出した


「それができないってことは答えは一つ・・・お前の能力は『能力を奪うこと』じゃない、『相手の脳に同調して操作することで自分が相手の能力を操ることのできる』能力・・・つまりお前は俺たちの能力を奪っているふりをしているだけだ!」


「・・・」


江本の表情は先ほどまでの激昂は無い、歯ぎしりもなにもしておらず、ただ黙って静希の言葉を聞いていた


「はは・・・すごいな・・・一、二回能力見せただけでばれちゃうんだ・・・実戦経験の差ってやつかな・・・?」


静希は陽太の能力が使用されず、この状態にあっても鏡花の能力が発動しない時点で江本の言葉、奪う能力というものがブラフであることに確信を持っていた


単身である中学生の江本と経験を積んだ高校生四人の静希達では戦闘能力が違いすぎる


多少大げさなはったりを混ぜてでも自分の能力が脅威だと思ってくれれば引いてくれるかもしれない


そういう考えの元行動していたのだろう


静希の仮説はすべて正しかったらしい、諦めのような表情を見せながら移動し続けている静希の方を見ようとする


能力を使用する際には脳のある部分が活動している


江本の能力は頭部に同調することでその能力を使用する際に活動する部分を操作し、自分が能力を使用しているように操れる能力だ


同調時に最低限の能力を理解していればあとはそれを操作するだけ、静希の能力が収納系だったのは理解していてもその内部までは把握する余裕はなかったのだろう


当然脳を直接操作しているために同調された本来の使用者が能力を使えないようにすることも簡単にできる


「こっちの運って言うのもあるな、俺のもこいつのも相当使い勝手が悪い、それこそ他の奴らから見れば使いたいなんて思うやつはいないくらいに」


それは幼いころから静希と陽太が言われ続けてきたことでもあった


お前の能力だけは使いたくないなと


今までずっと何でこんな能力にと思ってきた


弱すぎる、平均以下の落ちこぼれ


扱いにくい、すぐ暴走しかける問題児


だが今、その能力が静希達に逆転の目を示してくれている


能力に目覚めて十年以上、これほど複雑な気分は無い


嬉しくもあり悔しくもあり、情けないのに、これ以上ないほどに満足しているのだ


「俺らは今までずっとその能力と一緒に生きてきた、たぶんこれからもずっと生きていくだろうさ・・・だから・・・」


今までそうだったようにきっとこれからも


歪む切札はずっと静希が使ってきた


使用法に頭を悩ませ、思考錯誤を繰り返しながら、毎日のように訓練を重ねた


藍炎鬼炎はずっと陽太が使ってきた


扱いにくさと格闘し、感情を抑えながら、時に化物と罵られながら


静希の中でカウントダウンが残り僅かになっていく


視線の先にいる陽太と合図を送りながら二人で同時に加速しながら江本に向けて突進する


前後同時に襲いかかる静希と陽太に戸惑いながら釘の入っているハート二枚を二人に向け能力を発動する


だが釘は射出されない


そう、釘を全て打ち尽くしたのだ


静希は江本が釘を打ち始めてからずっと残数を確認していた


そしてカウントがゼロになる瞬間に陽太と共に飛び出したのだ


合図は視線と手で時折示す動作だけ


「返してもらうぞ!」


剣をかまえながら静希は江本に向けてスイッチの入ったスタンバトンを投擲する


何かも分からないものが投擲されたことに驚き、江本はしゃがむことでそれを回避できた


だが、反対側にいた陽太が回転しながら飛んでくるバトンを正確に掴み、振りかぶる


「それは俺らの能力だ!」


陽太の叫びと共にその手に収まったスタンバトンが振り下ろされる


急に体勢を変えたことでそれ以上かわすこともできずに、江本の首筋めがけスタンバトンが叩きつけられる


悲鳴と共に何度か痙攣し、江本はその場に崩れ落ちた


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