行動の方向性
静希の言葉に全員が耳を傾ける
戦闘要員ゼロになってしまった状況で唯一勝ちの目があると踏んでいる静希に全員が期待していた
「まず能力の制御の劣化、これはたぶんメフィのそれに近いけど、ある程度制御性やら操作性が悪くなる可能性がある、練度が低い状態で使ってるって言った方が正しいか」
「奪ったばっかりの能力は使い慣れてないから使いにくいってことね?」
そういうことだと鏡花の二の句に同意し静希はさらに自分の考えを続ける
「それに普通に投げられたあのキノコの胞子にも反応できなかったところをみると反応速度も遅い、あの程度鏡花なら余裕で防げるだろ?」
当然よと鏡花は僅かに不満そうな顔をしながら肯定する
恐らくまんまと能力を奪われた自分に不甲斐なさを感じているのだろう、それは静希も、そして陽太も同じだった
「幸い、明利のファインプレーのおかげで場所はわかるんだ、俺と陽太と鏡花で奇襲を加えれば勝てないってことはないと思うぞ」
「でもさ、俺の能力で胞子を焼かれたらまた索敵できなくなるぞ」
陽太の言葉にそれはそうだけどと言いかけて静希はある疑問にたどり着く
そしてその疑問に鏡花も気付いたようだった
「あいつはなんで陽太の能力を使わなかったんだ?」
静希の言葉に陽太は不思議そうな顔をしていたが明利は気付いたようだった
先ほどの接触で三人の能力が奪われ、そして使用できる状態にあったのにもかかわらず、使用したのは静希と鏡花の能力のみ、陽太の能力は発動のそぶりさえ見せなかった
「ただ単に山火事になるのが嫌だったからじゃねえの?」
「一瞬の発動程度なら鏡花の能力でかき消せる、それに俺と組みあった時に使わなかった理由としては弱い」
先ほど静希に接近し腕を掴まれた時、陽太の力を使えば簡単に筋力による対抗など勝利することもできたはずだ、なのにわざわざ鏡花の能力を使用して静希の能力を奪いに来た
「それに、私が能力で拘束しようとした時、彼軍人から奪った能力とか一切使ってないわよね、何で?危険が増えるようなものじゃない」
鏡花の言う通り、江本が能力を使うそぶりを見せたのは万華鏡と歪む切札だけ
奪っていると思われる斥力系の能力を使う素振りは見せなかった
自らに危険が迫っているのに手札をきらないという能力者がいるだろうか
静希なら考えられない
だとすれば何かあるのだ、未だ静希達が知り得ていない何かが
「だったらあれじゃねえの?使わないんじゃなくて使えなかったんじゃねえの?」
「・・・どういうことよ」
「だってさ、能力を奪う能力なんて強すぎんじゃん、なんか制限って言うかさ・・・静希の許容量みたいに何か制限があるんじゃね?」
その言葉に静希と鏡花は考え込む
陽太はバカだ、だが時折核心を突く
全く何も考えていないにしても本当にたまにだが役に立つ発言をするのだ、今回のこれにも何かあるのかもしれない
「明利、あいつは今どうしてる?」
「今は・・・ここから距離六十メートルくらいのところで休んでるよ」
目を閉じて集中し江本の情報を確認すると静希は目を細める
「能力は使ってるか?」
「ううん、全然」
能力を使っていないという言葉に静希は僅かに眉をひそめる
山を降りるにしろ休むにしろ、鏡花の能力は非常に役に立つ
全く整備されていない山道をすぐにでも快適な階段などに変えることができるのだ
なのに全く使わないとはどういうことだろうか
使わないのではなく使えない
能力の制限
使えていない能力と今能力を使わない理由
静希は今ある情報をとにかく出していきながらパズルのように思考をまとめ上げていく
結果、いくつかの方向性は示せた
だがまだ足りない、あと少し情報が足りない
「多少賭けにはなるか・・・」
「・・・なにか思いついたの?」
明利の不安そうな表情を見て頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でながら静希は鞘にしまってあったオルビアを引き抜く
本当にこの場にオルビアがいて良かったと思いながら大きく息を吐く
自分にできることをするだけ、できることは限られているが、それでもやらないよりはましだ
「陽太、かなり怪我することになるかもしれないけどいいか?」
「おうよ、怪我程度で済むならどんとこいだ」
こういう時に前衛の人間はありがたい
突っ込むことしか考えていないからこそ、自分が傷つくことを恐れない
いや、自分が傷つくことは当たり前だと思っている節があるため、傷つくのを恐れてなお突っ込み続けるといったほうが正しいのかもしれない
今回ばかりは危険かもしれないがやるしかない
「一体何するわけ?危ないのは嫌よ?」
「あぁ・・・危ないな、でも動くのは俺と陽太だけだ」
私用で少々家を空けてしまうので予約投稿
少し反応が遅れてしまいますがご容赦ください
これからもお楽しみいただければ幸いです




