移動と違和感
「陽太、終わったか?」
「あぁ、一通りな、俺らはこれからどうするんだ?」
能力を解除した陽太は仮面を脱いでいた、万が一にも仮面を破壊してしまう事のないようにしていたらしい
今この場に搬送者がいないのが不幸中の幸いと言えるだろう
「俺達はこれから脱走した中学生・・・えっと、名前なんだっけ?」
「たしか、江本、江本高貴よ」
「よし、これから俺達は全員で江本を追う、監督役及び護衛役は城島先生が引き継いで先に一般人を搬送しちゃうそうだ、俺らは脱走者だけに集中できる」
これからの行動を簡単に説明し、静希は先ほど得た能力に関する情報と事件発生当時の状況も全員に話しておく
情報を共有した状態で鏡花は大きくため息をついた
呆れ半分怒り半分といった具合だろうか
「もしそれが正しいならそれなりに急がないとね・・・情報収集する時間すら惜しいわ」
「だな、逃げられたらそれこそシャレにならない・・・本当に独房行きになる可能性もある」
「逆に、今ならまだ間に合うってこったろ?」
「うん、なにが目的か分からないけど、早く見つけて連れ戻さないと」
全員で頷き軽くストレッチをした後で全員でガードレールに足をかける
「先生!行動開始します、この場はお願いします!」
「あぁ、気をつけろ、それとこいつを持っていけ」
城島は静希に向けて何かを投げる
金属音を奏でながらキャッチしたそれは警察官の持つ手錠だった
なんとも物々しい感じだが、状況としてはこれほど正しいものは無いだろう
「陽太は鏡花を、明利は俺が何とかする、行くぞ」
「「「了解」」」
全員が同時にガードレールから跳躍し急な勾配になりそれなりに高度のある地面へと落下していく
鏡花を引き寄せた陽太は彼女が燃えないように炎の顕現する場所を調整しながら楽々と着地する
明利を引き寄せた静希は警官達の視界から外れた時点でトランプの中のフィアをとりだし能力を発動させ、巨大な獣の姿となったその背に二人で乗り着地する
そして全員ですぐに移動を始めた
木々がかなりの密度でそびえている山の中では高速で移動する訳にもいかず静希達は能力を一時解除して足場に気をつけながら走行していた
「明利、索敵には引っかかったりしたか?」
「だめ、まだかからない・・・もしかしたらもう範囲外に逃げてるのかも・・・」
移動しながら静希は地図とコンパスを取り出して現在地を確認する
先ほどの事故があった場所と今いる場所をマークしながら移動しているが、流石に事件発生から時間が経過し過ぎた
山の中腹部で起きたため、静希達が現場に着いたのは発生から約三十分程度
それだけあれば中学生の足でもそれなりに遠くまで逃げられる
ある程度訓練をしている能力者ならばなおさらだ
「なぁ静希、どうすんだ?このまま探しても見つかると思えねえんだけど」
「そうだな・・・明利、予備の種は後いくつくらいある?」
「えっと・・・あと十くらい・・・さっきのを回収しながら動けばもう少し余裕はあるよ」
流石に手掛かりもなく山をさまよう訳にもいかない、だからと言って山一つ索敵できるようにするだけの時間もない
今できることはとにかく移動しながら索敵範囲を広げていくことだけだった
だが明利にばかり頼るわけにはいかない、せっかくこうして自分にもできることが増えたのだ、ただ惰性で走り回るような愚は犯さない
静希は地図を確認し等高線を把握しながら麓への最短コースを確認する
できる限り傾斜が強くなく、走りやすいのが条件だ
もし静希が逃げるのであれば山を下る
山を登るのは必然的に移動速度が落ちる、そして町に出ることができれば人混みに紛れることができる
相手が地形を正しく把握できていない以上、とにかく山を下るのが一番手っ取り早い
「よし、コースは決まった、索敵しながらこのルートで移動する、陽太が先頭、次に俺、鏡花、殿は明利だ」
全員で一列縦隊を作りながら静希の定めたコースに全員がしたがって移動し始める
陽太の進行方向を逐一静希が指示しながら移動し、明利は近くの木々にマーキングを施し続けながら先ほど陽太が投げた石で包まれた種を回収していく
「ねえ静希・・・気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
鏡花の声は何か納得いかないというのがありありとわかるようなものだった
違和感を覚えているのだろう、それもかなり強烈な
そしてそれは静希も同じだった
「今回逃げた中学生・・・私達の読みではそれほど強くない能力だって思ってたわよね?でも実際は人を大怪我させられるようなものだった・・・これってどう思う?」
鏡花が抱いていたものは静希が気付いていたものと全く同じ疑問だった
だからこそ考える価値のある内容なのに時間がない
追い詰めてからでも遅くない?いや追い詰めてからでは遅いのだ
今のうちに考えなくては静希達は余計な危険に突っ込むことになるのだから




