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J/53  作者: 池金啓太
十一話「舞い込む誰かと連れ込む誰か」

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張り詰める空気

静希達は護送車を休憩所まで送るついでに車内で休憩をとりながら食事をとっていた


時刻は十一時半、比較的スムーズに搬送することができたために少しだけ時間的な余裕がある


だからと言って遊ぶ訳にもいかないが、比較的ゆっくりと昼食をとりながら休憩所に戻ることができた


明利の休憩の意味も兼ねて外の空気を吸いながら待機し、また休憩所にやってくる搬送車を迎え入れ、拘置所へと移動する


同じことの繰り返しのはずなのに変わり続ける状況と警戒し続けなければならない内容に静希達の精神はすり減り続けていた


その日の三回の搬送で静希達はかなり精神を摩耗し一日が終わることにはぐったりしていた


中でも一番疲れているのは明利だ


ずっと索敵を続けていたというのもあるのだが、長時間車に乗っていたというのが一番の原因だろう、顔色は最悪で立つのもしんどそうである


「それじゃあお疲れ様、また明日、今日と同じ時間にくるよ」


「お疲れさまでした」


走り去っていく二台の護衛車両にお辞儀をして今日一日の作業が終了したことを実感し、静希達は大きくため息をつきながら装着していた仮面を外す


「ずっと緊張しっぱなしだってのになんも起きなかったな」


「それが一番よ、なにもなければ万々歳じゃない・・・だけどさすがにちょっときついわね・・・」


ちらりと明利の方を見ながら鏡花は不安そうな顔をする


誰の目から見ても明利の不調は明らかだ、定期的に休憩を入れていたとはいえ乗り物酔いする人間にほぼ一日車に乗り続けるというのは苦行でしかない


特に能力を使用しながらというのは精神的に疲れるのだ、肉体的な苦痛まで入っているのに精神まで疲労してはコンディションはかなり低下する


能力を使って自らの身体状況をある程度コントロールしているのだろうが、それでもお世辞にも顔色がいいとは言えないような表情をしている


「食事まで一時間ちょっと、とりあえず部屋で休もう、流石に見るに忍びない」


「ご、ごめんね・・・」


なにを謝ることがあるのかと全員が思う中、静希達は城島に報告を終えた後すぐに部屋に戻り明利を横にしてから各自休息をとっていた


「でもなぁ、こうまでやることがないと暇すぎるな・・・」


「まぁね、前のダムの時もそうなんだけど、一人しか事にあたれないような内容だと他の全員が暇になっちゃうのよね・・・」


「役割がはっきりしてるってのも考えもんだよな」


静希達は明利の様子を見ながら今日の内容を振り返っていた


実際静希達にできることは酷く限られている


静希は隠密先行と撹乱、及び補助、陽太は特攻と戦闘、鏡花は防御、補助、明利は索敵と回復


戦闘などがある状況では全員がバランスよく動くことができるのだが護衛などの戦闘がメインではない内容ではどうしても人員が余ってしまう


「でも明日はより一層気を引き締めないと、何せVIPの搬送だからね」


「ビップ?」


「あぁ、能力者の小学生と中坊か」


確かに一回の搬送で一人しか運ばないという意味ではビップ待遇といえるだろう


なにせ他の搬送者は何人もが押し込まれるような形で運ばれていたのだから


それだけ能力者を警戒しているというのもあるのだろうが、能力者とはいえ子供


静希達も子供の部類に入るが、そこまで警戒する程のことだろうかと疑問に思ってしまう


「でも・・・ちょっと可哀想じゃないかな・・・一回だけちょっとやんちゃしちゃっただけなのに・・・」


横になっている明利が弱弱しい声で僅かに同情の意志を告げるが鏡花はゆっくりと首を振る


「明利、それは相手の為にもならないわよ、私達能力者はただでさえ危ない力を持ってる、一つの間違いが人を殺すことだってあり得るの、間違ったらちゃんと叱る、それは当然のことなの、可哀想なのは叱ってももらえないことよ」


だから同情はお門違いであると切り捨てる鏡花は、恐らく正しいことを言っているのだろう


静希もそれが正しいことは理解できるし、陽太もちゃんと理解している


能力者が危険である以上、少しの間違いもしっかりと正さなければならないのだ


「でも・・・一人はまだ小学生なんだよ・・・?」


「明利、やっちまったもんはしょうがねえよ、俺だってしこたま叱られたことあるんだからさ」


過去陽太も能力を良く暴発させていた、当時は保護者である姉実月同伴、及び被害者がいなかった為に拘置所に送られるほどにはならなかったが、叱られたのは事実である


もちろん明利の言い分だって理解できる


幼さゆえに間違いは犯すだろう、必ず何かミスをするだろう


だが危険だからこそ、幼い故に今のうちに正さなくてはならない


大人になれば否が応にも責任を求められる


そうなってしまえばもはや手遅れ、どんなに同情しようと、どんなに哀れもうとそこにあるのはれっきとした罪と、待っている罰だけ


だからこそ、まだ責任を多く求められない未成年の学生のうちにしっかりと教育し、しっかりと叱り、やっていいことと悪いことを区別しなくてはならないのだ


以前城島も言っていたように、静希達はどこまで行っても能力者なのだから


「明利、今のうちにしっかりしておかないと後々面倒になる・・・とくに能力の暴発ってことはそれなりに扱いにくい能力かもしれないだろ?ちゃんと制御法を教わらないと」


そういう意味では今回の小学生の拘置所への移送は非常に正しい判断と言えなくもない


専門家の意見をきき、なおかつ先輩能力者による指導だって受けることができる、短期間でしっかりと制御法を覚えるには最も適した処遇と言えるだろう


「獰猛な獣の牙を抜く、首輪をしっかりつける、そういう意味にも取れるけど・・・まぁ無能力者もいる世界じゃしょうがないわよ」


鏡花は自分達能力者を獰猛な獣と称した


もちろんそれは無能力者にとって間違ってはいない


飼い殺しという意味では正しいだろうし、危険視しているという意味でも言い得て妙だ


「それなら、今回注意すべきは中坊の方かもな」


「たしか、同級生に怪我させたんだっけ?詳細は回ってきてないけど」


中学生の喧嘩で怪我をすることなどよくあることだ、特に多感な時期であるのにも関わらず身体能力が高くなり始める


小学生までならどんなに頑張っても痣ができる程度だろうが、中学生になると普通に骨が折れたりする


それが能力者ならなおさら危険だ


「被害者は軽傷なんだっけ?なら平気じゃねえのか?」


「んん・・・まぁ明日は注意するってことだけは念頭に入れておくか・・・年下でも能力者には違いない」


確かにと全員で頷く


基本的に、能力者の戦闘で重要なのは相性だ


そして相手の能力をどれだけ把握して対応するかというのがセオリーだ


だが幼いとそれができない上に、手加減なども上手くできない可能性がある


弱い以前の問題、加減ができなければ命も危険になる


恐らく今回一人ずつ搬送するのも、彼らではなく、同じ車両に乗せる人員の危険を考えてのことなのだろう


「そろそろ飯だな・・・明利、食えそうか?」


「うん・・・横になったら少し楽になったから、たぶん大丈夫」


身体が弱いと言っても、伊達に同調系統の能力を持っているわけではない


弱っている部分に一時的に強化を施して自らの体調を整える、医療を行える能力者ならほとんど誰でもできることだ


「今日は早めに休んだ方がいいかもしれないわね、特に明利は」


「そうだね、ごはん食べたらすぐにお風呂はいろっか」


明利の体調は少しだけでも回復したのだろう、先ほどまでの顔色とは全く違う


血の気が戻り目にも力が戻っている


これなら明日も頑張れそうだよと全員に自らの健康をアピールしながら、その日明利は少しだけ早く床に就いた


翌日、静希達は予定通り七時より少し前に起床し、各自準備を整えて駐車場で待機していた


今日の搬送は午前中に能力者一人、午後に能力者一人と通常搬送一件


日の高いうちに能力者の搬送を終わらせるべきという考えなのだろう


静希達としてもそれはありがたい、疲労の溜まっていないうちに緊張を強いられる案件は終わらせておきたいところでもある


少し低い気温の中待機していると時間ちょうどに静希達の乗る護衛車両がやってくる


「おはよう、今日もよろしく」


車から出てきたスーツ姿の男女二組にそれぞれ挨拶しながら今日も護衛の任務が始まる


搬送初日は幸か不幸か非常にスムーズに特に何の問題もなく搬送作業は終了した


問題は今日だ


搬送者が能力者、それだけで静希達は僅かに身を強張らせてしまう


時間通りに搬送車両がやってくると静希達は視線を車両に向けてしまう


午前中に搬送されるのは小学生


あの中に乗っているのだなと思うと、少しだけ、本当に少しだけ同情してしまう


明利に同情するなと言っておきながらなんてざまだと、自分を叱咤しながら静希は陽太と共に車の中に乗り込んだ


昨日と同じ道、昨日と同じ工程


だが、全体的に空気が張り詰めている


それは静希達から伝染したものだろうか、各車両に乗っている警察官も僅かに緊張しているようだった


「明利、調子はどうだ?」


『大丈夫だよ、心配しないで』


静希の心配も明利は嬉しく思っているのか僅かに声音を高くしながら明利の返答がノイズ交じりに聞こえてくる


今日初めての搬送とはいえ昨日から続いている車での移動だ


しかも能力者を搬送することもあって全員の心労は比較的重いものになっている


特に索敵をしている明利の精神的摩耗は大きいだろう


自分にもできることがあればよいのだが、静希達に索敵のスキルは無い


こういう時ほとんどフォローできないのが歯がゆかった


『静希、陽太、そろそろ山道から町に入るわ、注意してね』


「了解」


「そっちも気ぃつけろよ?」


陽太の軽口に誰にものを言ってるのよと鏡花の自信たっぷりな言葉が戻ってくる


少しだけ気が楽になるが、まだやることはある


だからこそ少しでも集中しようと二人は大きく息を吸った


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


新しいパソコンになって気づいたのですが「可哀想」と打つと(´・ω・)カワイソスとでてくる


これはどう反応したらいいのか・・・少し戸惑っています



これからもお楽しみいただければ幸いです

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