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J/53  作者: 池金啓太
十一話「舞い込む誰かと連れ込む誰か」

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違和感と苛立ち

「それにしてもなぁ・・・」


部屋に戻っての鏡花の第一声がこれである


今までいろいろと腑に落ちないことはあったのだろうが、今回はより一層納得がいっていないような声音をしている


「どうしたよ、変な声出して」


装備を点検しながら制服から部屋着に着替えた静希は武器の手入れをしながら妙な表情をしている鏡花に声を飛ばす


「どうしたもこうしたもないわよ・・・なんかおかしくない?」


「なんかって・・・何か気になることでもあるの?」


同じく部屋着に着替えた明利が少々不安そうな顔をのぞかせながら部屋に置いてあったポットで全員にお茶を入れている


茶葉は静希が持ってきていた紅茶だ


「だってさ、今までずっと妙な任務ばっかりだったのに、今回やたらと平和すぎない?まぁ本番じゃないからってのもあると思うんだけどさ、なんかむずむずするというか・・・」


「あー・・・確かにな、今までは何か緊迫感ある内容ばっかだったけど、今回なんか抜けてるよな」


鏡花の言い分がどうやら陽太には理解できるようで寝っ転がりながら同意している


確かにこの二人の言い分は分からないでもない


今までの静希達の実習はほとんどが駆除や討伐、制圧など攻勢に回る立場だったし、何より明確な敵がいた


だが今回はその敵がいないのだ、いわば目標がいない状態である


今まで分かりやすい形で目標が存在していたためにこのような事は少なかったのだが、今のような宙ぶらりんの状態よりは何倍も行動しやすかった


相手が来ないと自分達にはなにもやることがない、これは以前のダムの解体よりもやることがないと言っていい


仮に明日以降の搬送中に敵が現れることを想定しようにも、はっきり言って相手のビジョンが見えない上に緊張感と集中の維持が難しすぎるのだ


戦闘などの状況下に置いて集中状態を保つことができるのは精々十分程度、警戒を続けていてもその限界は必ず来る


しかもそれは自ら動き自ら警戒を続けている状態においての話


車に乗り周囲にいくら注意を向けても集中状態を持続することは難しい


今回の実習は今までと違う内容が多すぎる


不確定要素とも言えるそれらは静希達にとって強い違和感と不審点を植え付けていた


「まぁあれだ、今までがおかしかっただけで、これが普通なのかもしれないぞ?」


「ん・・・それも・・・そうかもだけどさ・・・」


もちろん、今までの実習が異常だっただけに突然普通の内容を宛がわれて猜疑心にかられているというのもある


この場にいる全員が今回の実習にやりづらさのような物を感じているのだ


内容は護衛、背後関係もなさそうで、特にこれといった問題も不信感も見当たらない


これでまた最初の実習のように突然暴走したエルフでも遭遇すれば「あ、やっぱりな」というふうに考えられるのだろうが、そんなことが起こること自体が天文学的確率なのだ


それにもし現れたとしても無視すればいいだけ、今回は討伐ではなく護衛なのだ、面倒事に引き込まれる前にいなしてしまえばいい


とはいえ、鏡花は未だ納得していないようだ、もちろん静希だって納得していない


いや、納得というのは正しくない


全員妙な違和感を覚えているのだ


口にすることはできない妙な違和感、感覚的なものだが今回の内容は今までと違う何かがある


今まで異常だったものが正常に戻ったと言えば聞こえはいいがそれだけではない


今まで多く面倒事に巻き込まれてきた静希達にはある種の嗅覚が発達していた


言わば面倒事を嗅ぎつける特殊な勘


その勘が今回は何かがおかしいと告げているのに、なにもおかしいことがない、何も起きる気がしない


むしろ疑えば疑うほどに今回が『普通』であることが立証されていく


違和感と不快感が積もり積もって腑に落ちない、鏡花が不満そうな顔をするのも十分納得できる


加えて明日の本番まで何もすることができない状況になってしまえばもはやどう反応していいのかにも困る


疲労がたまっているわけでもないし何か議論しなくてはいけないことがあるわけでもない


何もないのだ


人間何もしていないと落ち着かないというのもあるかもしれないが、考えることもやることもないと言われると何か考えなくてはいけないのではないかという気になってしまう


「あぁもう!考えてたってしょうがないわ!」


鏡花は苛立ちながら立ち上がりどかどかと部屋を出ていこうとする


「おいどこ行くんだよ」


「休憩所で甘いものでも買ってくんのよ!いらいらする時は甘いもの!ついでになんか買ってくるものある?」


「あ、じゃあ私も行く」


必要なのはカルシウムじゃないのかという突っ込みを無視して鏡花は明利をひきつれて部屋を出て行った


足音が小さくなっていくのを聞きながら残された静希と陽太はため息をつく


「流石の女王様もなんか平静を保ててないって感じだな」


「姫と一緒にしてよかったのか?謀略の匂いがするぜ?」


陽太の軽口をアホかと返しながら静希は分解整備していた銃を元通りにしてトランプの中にしまう


なにが起こるか分からない、なにがおかしいのか分からない


だからこそ万全を尽くす、その考えに変わりはなかった


買出しに出た鏡花は妙な苛立ちを感じていた


だからこそ気晴らしに外に出たのだが、心の中にくすぶる何かは一向に収まってくれない


休憩所の中のコンビニ紛いの売店に並ぶ菓子類を眺めながら軽くため息をついた


嫌な感情だ


今まで困難がぶつかってきてもどうにかできるだけの頭脳と実力が鏡花達にはあった


だからこそこれまで乗り越えられてきたと思っているし、これからもそうだと確信している


なのに今回はなにが困難なのかさえ分からない


何もないだけなのかもしれない、自分がただ空回っているだけなのかもしれない


だが自分の勘はそう言っていない、だからこそ苛立っているのだ


「これと・・・これと・・・あとは・・・」


自分の好きな菓子を選別し買い物かごの中に入れていく


と言っても夕飯が控えているのもあって比較的軽いものばかりだ


恐らくは夕飯後に食べることになるだろうが、どちらにせよあまり食べすぎれば美容にも良くない


「鏡花さんってチョコ系のお菓子好きなの?」


「うん、疲れてるときとか試験中とかはよく食べるかな・・・それで太ることもあるけどね・・・」


試験中に甘いものをとるのはよくある、そしてそれが原因で体重が増えることもしばしばだ


彼女達は日常的に学校で訓練という形で運動を強いられているためにそれほど過度な肥満にはならないが、それでもスタイルや体重には気を配ってしまう


女子ならば当然である


「・・・」


「・・・ん?どうしたの?」


明利を、いや明利の抱える買い物かごを凝視する鏡花はある疑念を抱えていた


彼女が入れているのはお茶や団子、あとはみんなで食べることのできるスナック菓子の類


思い出すように今まで静希の家で作戦会議やらをした時のことを思い出すが食品の提供は静希と明利が主だった


つまり彼女と静希はそれなりの量の食事をとっているはずなのだ


今までの実習の食事風景を思い出しても、明利は大食いという訳ではなくともしっかりと必要な食事はとっていた


極端に少食というわけでも、好き嫌いがあるわけでもない


なのにこの体形はなんだろうか


「明利ってもしかして食べても太らない体質だったりする?」


「え!?何で分かるの!?」


やっぱりかと苦虫をかみつぶしたような表情をしながら鏡花は明利の腰回りを触る


くすぐったそうに身をよじっているがその体はやわらかいものの贅肉がほとんどない


身長もない、胸もない、贅肉もない、なのにしっかりと食事はとっている


とりこんだ栄養素は一体どこにいっているのだろうか


「明利、あんたの身体って一体どうなってるわけ?」


「え?どうって・・・普通だと思うけど」


食べても太らない体質というのは稀に存在する


世の女性からすればどれほどうらやましい体質であろうか


だが明利は運動しても食べてもこの体形だ


がりがりというわけでもなく、太っているわけでもなく、この体形を維持できる


何か秘訣があるのではないかと思った時に明利の能力の事を思い出す


「ひょっとしてさ、明利って自分の身体に同調とかできるの?」


もしできるのであれば今自分の中で偏りや欠如している栄養素などが一瞬にして分かることになる


そうなればすぐにサプリメントでも食べれば常に完全な栄養状態を維持できる


「えっと・・・一応できるけど・・・」


「同調して体形維持とかできる?例えば私の身体に同調してどこがダメとか言える?」


「ええ!?やってみないと分からないけど・・・」


「ならやって!」


女性として自らの体形維持は必須事項だ


できる限り美しくありたい、そう思わない女子はいないだろう


身近に同調系統の友人がいるのだから頼らない手はないのだ


菓子類を購入し即座に部屋に戻ると焦りのような表情をして戻ってきた二人に静希達は唖然としていた


「どうした?なんかあったか?」


「ちょっと女子だけで話しするから、男子はこっちに入ってこないでね!」


襖を閉めて男子と女子の空間にはっきりと分け完全に隔離してしまう


「なんだあいつ?」


「好きなお菓子が売ってなかったんじゃねえの?」


全く今までの会話を知らない男子二名は不思議そうに首をかしげながらまた暇をつぶし始めた


対して女子二人、特に鏡花の表情は真剣そのものなのだが対して明利は酷く困惑している


それもそのはず、明利は今まで植物や動物に対しては多く同調などをしてきた


だが人間に対しては緊急時、治療などの時以外は同調を控えているのだ


何故か、それは同調すればそれこそ何でもわかってしまうからだ


傷の有無、栄養状態、その身体の特徴、集中すれば相手の遺伝情報や感情だって読み取れる


相手の身体のほとんどすべてが分かるからこそ極力控えているのだがこうまで嬉々として迫られては断りようがない


「えぇと・・・じゃあまずは栄養状態から見るね」


「お願い」


真剣そのものな鏡花を前に僅かに困惑しながら明利は鏡花の身体に触れ同調を開始する


誤字報告がまた五件たまったので複数まとめて投稿


一周年に向けて何かやろうと思ってるのに何も思いつかない、どうしようか


悩んでいても仕方ない、どうにかなると思いたい


これからもお楽しみいただければ幸いです

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