見落とし
城島に連絡を入れ、とりあえず腹ごしらえということで静希達は近くの休憩所まで来て昼食をとっていた
学食にも似た平均化された味に舌鼓を打ちながらこれから自分達が向かう留置所へのルートを再確認している、特に運転する静希は入念にチェックしていた
平日昼間という事もあり休憩所にある食堂はそこそこ混雑していた
この山を通過する運送業の人間や、何かしらの理由でここに訪れた一般客などが視界に入ってくる
「んじゃ注意するべき場所はこことここ・・・あとは」
「ここもね、あとは実際に見て植生が濃ければチェックしておきましょう」
雑音が辺りを包んでいる中この班の頭脳労働を引き受ける静希と鏡花が打ち合わせをする中陽太は我関せずとどんぶりに盛られたカツ丼を口に運んでいる
考えることが苦手であるとはいえもう少し参加しようという意欲を見せろと言いたいところだが、そんなことは今さらである
「幹原、すまんが醤油をとってくれ」
「はいどうぞ」
城島もその会話に入るつもりはないようで悠々と食事を続けている
明利も話に参加しようと地図を眺めているのだがいかんせん頭脳労働でこの二人に勝てるかといわれると微妙なところだ
「ところでお前達は今日は下見して終わりのつもりか?」
「えぇそうですけど・・・他にやることもなさそうですし」
城島の言葉に静希達は顔を見合わせる、他にやることなどあっただろうかと思案しているのだが、本番が明日以降である以上静希達のできることは自分達が担当する箇所に異常がないか、また注意すべき場所がないかを見ておくくらいのものである
今回は二日間に及び搬送を手伝うことになる、その為にそれなりの準備はしてきた
だが今の状況で使うべきものは無い
「あの・・・先生から見て、私達がやるべきこと、まだあると思います?」
明利の言葉に城島は箸を止めてふむと呟いて思案を開始する
「ん・・・そうだな、下見をするという考えは間違っていない、だがここまで来る工程でいくつか抜いている箇所があるのは確かだ」
城島の指摘、思えばこういう形で城島が助言にも近い言葉を投げかけるのは初めてではないだろうか
実質的なダメ出しと言ってもいいが、今までの校外実習が特殊だっただけに得られなかった貴重な助言である
「抜けてる所ってなんすか?搬送者に実際会うとか?」
「それはあまり重要ではないが、やっておいて損は無かっただろうな、写真と実物は案外違うものだ、実際に見て認識を正すというのも必要ではあった」
そういえば実際に搬送者に会うのは失念していたなと静希と鏡花は自分達の行動を一から見直してみる
今まで変な内容が多かっただけに慎重すぎるのではないかという程に確認と調査を行っていたが、今回は護衛ということで少しだけ気が抜けているのかもしれない
引き締める必要があるなと思いなおしながら静希は自分達が抜かした工程をいくつか模索する
「そういえば私たちが乗る護衛車両ってどんなのか詳しく知らないね」
「「それだ!」」
明利の言葉に静希と鏡花が同時に叫んだことで明利は身体を硬直させてしまう
口に運ぼうとしていた箸の上の米が僅かに揺れて茶碗の中に戻っていってしまう
「まさか幹原から出てこようとはな、評価を改める必要があるかも知れん」
城島の言葉をよそに静希と鏡花はしまったぁぁぁあ!と悔しがりながら頭を抱える
そう、今回静希達が護衛中に乗る車は先ほどあてがわれたワゴン車とは別物だ
自分達が乗る車がどのようなものかも見ずに位置取りや対応の心構えなどできようはずもない
できるのであれば実物を見せてもらうべきだったのだ、そうすれば鏡花の能力で形だけでも車を作って実演できたのだが、今となっては後の祭りである
警察に当日使用する護衛車両があるかは別として確認くらいはするべきだった
先ほど城島が言っていたが資料として写真をいくつか渡されていても実際に見てみると結構認識との違いがあるものだ
「くっそ・・・なんでこんなことに気付かなかったんだか・・・本格的に気が抜けてんのかな・・・」
「もしかして先生、気が抜けてるかもしれないから注意しました?」
頭脳派の二人が自らの失敗に悔んでいる中、教師たる城島は全く気にした様子もなく食事を続けている
教師は生徒を導くものだ
それとなく言葉を交わして気付かせて何ぼの仕事である
「ん・・・まぁいつもなら五十嵐か清水が気が付くことに触れもしなかったからな・・・いつもと何か違うというのは何となく察していたが・・・やはり護衛などでは張り合いがないか?」
「いえ・・・有り難いんですけど、やっぱりちょっと気が抜けてたのかもしれないです、まさか明利に先を越されるとは・・・」
「む、静希君それってひょっとしてバカにしてる?」
珍しく明利が不機嫌そうな顔になる瞬間にそんなことないってとあわてながら否定する静希、なんとも微笑ましいのだが確かに珍しい光景である
明利が不機嫌になることがではなく、静希がこの事に気付かなかったことに対してである
物事の本質を見極めてそのうえであらゆる可能性を考慮するのが得意な静希にとって考えが及ばないということはそれ自体が珍しい
気が抜けている
言葉にすればそこまでだが、ある種の油断があるのかもしれないと城島は頭の隅にこの事を入れておいた




