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J/53  作者: 池金啓太
十一話「舞い込む誰かと連れ込む誰か」

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山の上の民宿

「ところで、本当に五十嵐が運転するのか?」


「えぇ、城島先生に運転してもらってもいいですけど・・・」


運転席に座りながら座席やバックミラーの調整をしながら後ろの班員の様子をみると、目があった瞬間に首を猛烈な勢いで横に振り始める


あの反応からして城島に車を運転させるのは難しそうだ


「なんだ、これAT車か、てっきりマニュアルかと思ってたのに」


自分の足元にあるブレーキとアクセルのみのペダルを確認して何度か確認を終わらせてシートベルトを着用しながらエンジンを起こす


「いまどきATじゃない車の方が珍しくない?そう言えば静希はどっちの免許取ったの?AT限定?」


「いや?両方の奴、特殊車両も運転するかもしれないからってな、あの人たち俺に無茶ばっかり言うんだよ、バーチャルだけど何度かヘリの操縦もやらされた」


一体俺に何やらせるつもりなんだかと呆れながら静希は搭載されているカーナビに自分達の宿泊する民宿の住所を入力しルートを検索させる


ルートが出た時点でその道順を覚えながら全員の状況を確認する


助手席に座っているのは城島、そして二つ並んだ後部座席の前に明利と鏡花、後ろに荷物と陽太が乗っている


城島がシートベルトを着用するのを確認してからゆっくりとアクセルを踏んで発車する


「ところで静希、あんた免許取ってから運転とかしたの?」


「夏休みに何度か、訓練やってるとき買いだしさせられたんだけどそんときに運転した」


部隊の全員に世話になっているからこそ何度か雑用も引き受けた、その時のことを思い出しながらハンドルを切り一般道へと出ていく


九月の平日、午前中という事もあってまだ車はかなり多い


渋滞する程ではないがそれなりに混雑している


「あ、明利、酔い止めは飲んだか?」


「うん、でも安全運転でお願い」


了解と返事をしてアクセルとブレーキにかける足の動きに細心の注意を払う


どちらかでも急に踏み抜けば一気に車体は荒れることになる


乗り物酔いしやすい明利からすれば地獄のような空間をつくってしまうことになるために静希は慎重に運転していた


「陽太、荷物の中から飲み物出してくれない?喉乾いちゃった」


「あいよ、あ、静希!なんか音楽かけてくれよ、結構かかるんだろ?」


「音楽?ラジオくらいしかないぞ?」


静希は手元をいじって周波数を合わせてラジオに設定する


僅かなノイズの後に聞き慣れないパーソナリティーの声が車内に響く


何度か雑談を終えた後にようやく陽太の望む音楽が流れ始め、音量を調節した後静希は換気の為に僅かに窓を開ける


「そういえば鏡花さんは免許取らなかったの?取りたいって言ってなかった?」


「あー・・・このバカに付き合ってて教習所に行きそびれたのよ、そういう明利は?静希と一緒にとらなかったの?」


陽太にずっとかかりっきりだった鏡花は自分の事に時間を使う余裕はあまりなかったようで、ある意味充実した夏休みを過ごしていたようだ


「うん、とろうかとも思って練習させてもらったこともあるんだけど、怖くて・・・」


「あー・・・なるほどね」


人にもよるが車を運転することが怖いという感覚を持つことはある


特に明利の場合自分よりも何倍も大きいものを動かすという事に恐怖を覚えたのだ


しかも身長が低いせいで視界も狭い、ハンドルも大きくて動かすのも一苦労


これでは運転などできようはずもないと諦めたのだ


「まぁ明利には運転は向いてないってこったろ、ドカッと静希に任せとけって」


「そうね、静希がいれば明利は問題ないでしょ」


「お前ら人にばっか任せるんじゃねえよ」


自分が運転しているからと言って好き勝手言われていいはずもなくきちんとミラー越しに反論する静希、その手付きは免許をとって一カ月と経過していないのになかなか慣れている物があった


「陽太は二輪とるんだろ?筆記とかやってんのか?」


「○×問題だろ?あんなもん勘でいけんだろ」


「甘く見ない方がいいわよ、地味にミスってたりするんだから」


「ああいうのってひっかけとかあるからちゃんとやっておいた方がいいよ?」


流石にまったく勉強せずに一発で免許が取れるほど甘くはない


資格というのは良くも悪くも多少勉強しなければとれないようにできているのだ


特に陽太は基本バカだ


まったく勉強せずに合格できるとは誰も思っていなかった


「最悪、鏡花先生に教えてもらうって、家庭教師おなしゃす」


「あんたね、やる気のない奴に教えるつもりはないわよ?教えてほしいって言うならやる気を出しなさいやる気を」


鏡花としても無駄な時間を過ごすつもりはないのだろう、だが教えることに関してはやぶさかではないようだ


出会って半年近く、こいつらも仲が良くなったなぁと思いながら静希は軽快に運転を続ける


車の中に響く音楽が終わりまたパーソナリティーの声が戻ってくる中静希達は談笑を続ける


その様子はただの学生の会話にしか見えない、少なくとも彼らが能力者であるとは思えない程に


車を走らせること約一時間半、平日であり僅かに混雑している都心部から抜け出して山道に入り、緑の香りを満喫しながら進むと山頂付近の休憩所にようやく到着する


休憩所には食事などをするスペースなどもあるようで平日にもかかわらず何台か車も止まっている


そして休憩所の近くの民宿の駐車所に車を止め静希は大きく息を吐く


「はい到着、乗り心地はどうだった?」


「まぁまぁ快適だったわよ?明利も酔ってないみたいだし」


「うん、全然平気だよ」


下車しながら朗らかに笑う明利は顔色もいい、どうやら強がりではなく本当に酔っていないようだった


何とかうまく運転できたようだと安心しながら静希もエンジンを止めて下車する


目の前に立っているのはかなり大きな和風の建物だった


二階建で相当の広さを誇っている、山の山頂付近に立っているのにもかかわらずこの広さは驚嘆に値する


何よりこれがただの民宿というのは信じがたい、これはもはや旅館レベルではないだろうか


荷物をおろして車に鍵をかけて全員で旅館の中に入ると奥から仲居さんらしき人物が小走りでやってくる


「いらっしゃいませ、えぇと喜吉学園の方々でよろしいでしょうか?」


「はい、喜吉学園一年B組一班とその引率城島です、三日間の世話になります」


城島が軽く頭を下げると同時に静希達もよろしくお願いしますと頭を下げる


内装を軽く見てみると廊下はかなり遠くまで伸びていて奥がしっかりと視認できない


いくつか部屋もあるようだが二階に続く階段と職員用の部屋などもあるようだ


やはり民宿というには少々規模が違いすぎる気がする


「それではお部屋にご案内します、大部屋一つと小部屋一つでお間違いありませんか?」


「えぇ、生徒は大部屋、私は小部屋を使用します、お前達行くぞ」


返事をしながら荷物を担いで大部屋へと移動すると中は和室、かなり広く二つの部屋をぶち抜いて真ん中を襖で仕切っている


窓から覗く事のできる風景は緑一色、秋に来れば見事な紅葉が臨めるだろう


「本日の夕食は十九時にお部屋にお運びいたします、お風呂は十八時から深夜の二時までご利用できます、どうぞごゆっくりお過ごしください、では次は小部屋にご案内します」


「わかりました、お前達、準備が済んだら電話で一報入れろ、勝手に行動だけはするなよ」


返事をした後に城島と仲居さんがいなくなると同時に静希達は荷物を部屋に置き窓からの景色を満喫していた


普段あまり緑を見ることはないが、ここまで濃厚な植物の匂いを感じたのは数えるほどだ


その全てで面倒事が関わっているがもうそのことは置いておこう


「いやぁ、結構いいとこだな、のんびりしたい気分だ」


「のんびりするのは仕事が終わってからだ、さっさと準備しろ」


今回静希達は旅行に来ているわけではない、あくまで校外実習であり学校の中の必要科目であるのだ


ここでのんびりできるのは夜だけ、それまではしっかりと仕事をこなさなくては


「とりあえずルートの確認しましょうか、留置所までの道のりとその周囲の道・・・まぁほとんど一本道かな」


「一応わかれ道の方にも索敵はしておこう、明利、種の準備頼む」


「うん、わかった」


明利がカバンの中からいくつかの袋を取り出して準備を始める


戦闘をするわけではないので武器は持たないが事前準備に必要そうな双眼鏡や地図とコンパス、その他いろいろ、各自点検を進めていた


「でもさ、この事前準備って静希と明利がいりゃ問題なくね?俺らやることないじゃん」


「バカ陽太、道を覚えてなおかつ襲撃されそうな場所をチェックしておくのも重要よ、退避、対処、攻撃、どんな行動にも場所が関わってくるんだから下見は全員で行かなきゃ意味がないでしょうが」


御尤も、と静希がつぶやいたところで陽太は渋々納得する


実際今回の下見の目的は鏡花の言う通り、明利のマーキングを済ませると同時に自分達が怪しいと思った場所をチェックしておくためでもあるのだ


地形的にこの場所なら自分達でも襲撃ができるだろうと思われるような場所を記憶しておくことである程度気構えができる


何の予想もしないで事に及んだ場合とある程度気構えをしたうえで事態が発生するのとでは対応速度に天と地ほどの差が出る


特に今回の場合移動し続ける車内から対応しなければならない以上、少しでも速度ある対応が求められる


ただのドライブではなくかなり重要な事であると言えるだろう


「でも明利、結構距離あるけど大丈夫なの?結構たくさん種持ってきてはいるけど・・・足りる?」


「大丈夫、何箇所か停車してもらうかもしれないけど、考えがあるから」


明利は確かに大量の種を持ってきている、だが車で二時間近くかかる道程をカバーできる量とは思えない


少なくとも一定距離で置いていっても足りなそうではある


後もう少しで正午になろうという時間、食事の時間を考えると掛けられる時間は後六時間といったところか


余裕があるわけではないがそこまで切羽詰まっている状況でもない


明利の言葉を信じて鏡花はわかったわと呟き自分の準備を終える


400回目の投稿ということでお祝いの複数まとめて投稿


と言ってもあまり感慨深くありませんね、回数増えてるだけですし


ちなみに自分は自動車の筆記試験、仮免許取る時に無勉強だったせいで一回落ちてます


あれちゃんと覚えとかないと地味にミスしちゃうんです


自分の恥はさておいて、これからもお楽しみいただければ幸いです

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