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J/53  作者: 池金啓太
十一話「舞い込む誰かと連れ込む誰か」

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運転技術と転職理由

「ちなみにその車って自由に使えます?」


「・・・事故を起こさないと誓えるなら自由に使って構わないぞ」


その言葉に今度は全員がハイタッチする


これで明利のマーキングがさらに楽になる、いちいち山岳地帯に種をまいて歩かなくてもよい事になるのだ


片道車で一、二時間もかかるような距離を歩いて行動しなくていいというだけで随分と楽になるというもの


だがここで一つ疑問が浮かぶ


「でもせんせー、その車って誰が運転するんすか?」


「私に決まっているだろう」


その言葉に全員が言葉を失う


今まで城島が運転をするところなどは一度も見たことがない


だが城島の性格からしていちいち法定速度を守ったり逐一交通ルールを守ったりするとは思えなかった


特に面倒になったら平然と能力を使いそうで怖い

「ねえ静希、あんたこの夏免許取ったでしょ?あんたが運転しなさいよ」


「そりゃ構わないけどさ・・・俺もまだそんなに上手ってわけじゃないぞ?普通に道走るだけだし先生に任せても問題ないんじゃないか?」


「でもよ、先生ってなんか危なっかしいイメージしかないんだけど・・・自分ルールとか作って事故るイメージがある」


「で、でも一応先生なんだし、私達も乗るし、安全運転してくれるんじゃないかな・・・」


一班の人間全員が城島の運転スキルに対して疑問を抱いている中、当の本人はあっけらかんとしている


何の問題もないとわかりきっているからなのか、問題があることを認識しているからなのか静希達には判断できなかった


「先生、一つ聞きますけど・・・免許取ったのはいつですか?」


「お前と同じだ、高校一年の夏にとった」


「今まで事故は起こしましたか?」


「・・・」


答えようとした瞬間城島は口をつぐみ言おうかどうしようかと悩んでいる様子だった


もう答えなくてもいい、この反応がすべてだった


「あの反応見てもまだあの人に運転させるつもり?絶対何かあるでしょあれ」


「いやでも仮にも先生だぞ?不祥事を起こすようなことは・・・」


「あの先生だぞ?何があるかわかったもんじゃねぇって」


「でも・・・あ!もしかしたら特殊部隊にいた時の話かもよ?」


明利の言葉に全員がおぉと新しい思考の方向に希望を見出した


なるほど軍部の特殊部隊に所属していたころならば装甲車などの特殊車両などを運転したこともあるだろう


そういった荒事をカウントに入れているのであればあの反応もうなずける


元より自分達よりも荒事に慣れた城島のことだ、部隊に所属していたころは車のまま特攻を仕掛けたりだとかしていたこともあるはず


ここは質問を変えるべきだろう


「先生、一般車両、及び一般道で事故った事はありますか?」


「・・・・・・」


城島はまた何かを言いかけたがすぐさま口をつぐんでしまう


そしてあろうことか全員から目をそらした、これは確実にアウトの反応である


「ありゃ駄目ね、静希、班長命令よ、あんたが運転しなさい」


「その方がよさそうだな・・・一応免許持ってきてよかったよ」


城島が今までどのような運転をしてきたのか知らないが今から校外実習で学校の一員として行動しなくてはいけないのにそんなところで事故なんて起こされたらたまらない


能力者の風当たりが無駄に強い昨今、さらなる諍いの火種を作るわけにはいかないのだ


何より自らの安全の為にも城島には運転させない方が良い


その後教員たちからの面倒くさい長話を終えてからいつものように静希達は学校を出発した


この流れも何度目だろうか、流石に何回もやっていれば慣れるというものだ


静希達はまず近くの駅から警察署に向かう事にする


「そう言えば先生、聞きたいことがあったんですけど」


「なんだ?実習のことか?」


平日朝という事もあり人も多い電車の中で揺られながら全員が何とはなしにその会話を聞いていた


「いえ、先生って何で教師になったんですか?」


「・・・なんで、とはまた突然だな」


「だってもともと部隊にいたのに何でわざわざ教師になったのかなって・・・気になっただけです」


鏡花の疑問はもっともだ


元より職のあった城島が転職する理由


転職の理由はいくつかある、給与や職場環境、仕事の内容や福利厚生などなど、挙げればきりがない


だが鏡花が聞きたいのはその中でも向き不向きの点だ


今まで半年以上彼女の指導を受けてきた、その上で城島は確かに何かを教えるのは上手い、だがそれ以上に荒事への対応は群を抜いて上手い


教師と兵士、城島にどちらがより適性があるかといわれれば、鏡花は間違いなく兵士というだろう


それは静希達も同じだった、何故城島がわざわざ教師を目指したのか、そして今なおこうして教師を続けているのか


少なくとも軍部や警察に多くのコネを持つ城島が何故教師をしているのか疑問ではあった


「そんなたいした理由は無いぞ?少なくとも漫画や小説のような劇的なものは無い」


「じゃあどんな理由なんですか?」


言葉を濁らせることもなく直線的な聞き方をする鏡花に城島は何と答えたものかと悩んでいるようだった


当時の自分を思い出しながらその理由を言葉にしようとしているのだがどうにも上手く言葉にできずにいる中、不意に思いつくようにそれを口にした


「あれだ、効率が悪いと思ったんだ」


「効率?」


鏡花が不思議そうな表情をすると同時に聞き耳を立てていた他三人も疑問符を飛ばしていた


効率、特殊部隊から教員に職を変えた理由が効率が悪い


一体どういう意味なのか、静希達は理解できなかった


「私が部隊に入隊したのは高校卒業後すぐ、十八の時だ、それから約五年間部隊にいた、それなりに実績も積んで、面倒な事や厄介な事、危険な事を回されるようになってな」


思い出すように城島が口にしていくその過去


人に歴史ありというだけあってその内容は言葉だけでは理解できないような壮絶なものがあっただろう


「実戦経験はお前達の数百倍あると自負している・・・いや実際あるんだろうが、そうやって関わった事件が大体百とちょっと・・・その中で捕縛した犯罪者や助けた被害者もろもろ、関わった人間は五百にも届かないくらいだ」


百以上の事件に関わって犯人と被害者などの関係者が五百に届かない


聞いているとどれくらいのことなのか、イメージし辛かった


今まで静希達が関わってきた事件でもそこまで多くの人たちと接点はなく目的を達すれば終わり程度のもの


唯一繋がったのは東雲姉妹と石動くらいのものだろう


「人一人、いや一つの部隊が関われる事件がその程度のものだ、はっきり言って捕らえるにしろ助けるにしろ非効率極まりない、もっと効率よく物事を解決に持っていけないかと当時の部隊長・・・昔の上司に言ったんだ」


上司ということは鳥海のことではないだろう、当時城島がどの位置にいたのかは知らないがそれなりに近しい存在であったことはうかがえる


自分の上司にそんなことを言えるような立場であった事だけは理解できた


「無論、個人でできることなどたかが知れているが、当時の私はいろいろあって自分一人でたくさんの物事を抱え込もうとしていたんだ、自立心か、それとも単なる自惚れか・・・どちらにせよその隊長から教師になることを勧められた」


「何で教師に?」


「あの人曰く『お前が育てた奴なら犯罪を犯すこともないだろう、そしてお前の教え子が犯罪者を捕らえる、犯罪者になるのを未然に防ぐ上に、なっちまった奴を捕らえる兵士にもなる、一石二鳥じゃないか』だそうだ」


理論にもなっていないような暴論に静希達は絶句していた


当時の上司がどのような人物かは知らないが相当不可思議な思考回路をしている


いや、それだけ城島を信頼していたということだろうか


お前が育てた奴なら


そんなふうに堂々と言えるような人物に城島は巡りあったのだ


能力者にとって、いや人にとって自分をまっすぐに評価してくれる人物がいるというのは何よりもありがたいものだ


城島にとってその人物はさぞ救いになっただろう


「まさかそれだけで教師に?」


「あぁ、何故か私はその言葉に深い感銘を受けて猛勉強してな、教員免許を取得して教師になった・・・今思うと何故あんな言葉に心震わされたのか全く分からん・・・しかも教師になったらなったでこんなバカどもの相手だ、やってられん」


城島は肘で陽太の脇腹を攻撃しながら、それでも僅かに笑っている


今の状況が決して嫌いではないのだろう


そしてたぶんだが、城島は今に満足もしているのだろう


その上司の言葉は正しかったのかは分からない


だが結果的に、彼女にとって良い方向に進んだのかもしれない


少なくとも、静希達は城島に会えてよかったと思っている


多少問題のある性格はしているが、城島は教師に向いている


今まで指導を受け、彼女が生徒の事を大事に思っている事もよく知っている


この人が担任でよかったと胸を張って言える、良い教師だ


「ちなみにその上司の人って今何してるんですか?所属してた部隊の隊長は鳥海さんになっちゃってるし・・・」


「あぁ・・・あの人は今町崎の上司をやってる・・・確か地位は・・・どのくらいだったか・・・」


町崎の上司、どれほどの地位かは分からないが少なくとも彼より上


人員派遣を簡単に行えるような人物の上に立つような立場だ、相当上だと思っていいかもしれない


もしかしたら夏の大野小岩を派遣してくれたのも城島の口利きがあってのことかもしれないが


もしかしたら将来軍に所属することになったら自分の上司になるかもしれないなと思いながら静希と陽太はその人物の想像を膨らませる


「まぁ少なくともあの人ももう結構歳だ、すでに現役は退いて机仕事が主になっているだろうさ・・・今度食事にでも誘うかね」


髪の切れ目からのぞくその瞳は鋭さを含みながらも僅かに緩み、懐かしい何かを見ているようだった


人生の転機ともなるアドバイスをした人物、城島の中でその存在は大きく残っていることだろう


誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿


ようやく忙しさから抜け出せて少し安心しています


まともにチェックできるかな


これからもお楽しみいただければ幸いです

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