不審と待遇
「そう言えばただの能力者と戦ったのって実は一回もないんだよな・・・」
「・・・そういえば・・・そうかも」
今まで静希達が戦ったのは暴走したエルフ、悪魔、神格、完全奇形、奇形種など
実際に悪意を持った能力者とは戦った経験がないのだ
日々の訓練に置いて対人戦は嫌という程やっているが、それはあくまで訓練、実戦ではない
相手と命のやり取りをする能力者との殺し合いは全く経験した例しがない
東雲風香は意識を失った獣と同じような状態であり、まともな思考ができる状態ではなく、あれでは奇形種と変わらない
唯一静希は一時的にとはいえエドモンドやテオドールと対峙、敵対したがエドモンドに関してはほとんど人外達のおかげで切り抜けられたようなものでテオドールに関しても人外たちの力を借りたことになる
彼ら一年生だけで能力者と対峙することは本当に初めてなのだ
もちろん戦闘になると決まった訳ではない、警戒するに越したことはないがそれでも緊張感と重圧が彼らに襲いかかるのは当然だった
無論城島とて、彼らが一介の能力者に負けるなどとは思っていない
普段問題だらけのせいで印象が薄いかもしれないがこの班は優秀だ
的確な状況判断と対策を練ることのできる班の頭脳とも言うべき静希、中距離での攻撃や支援及び隠密行動に長け周りのフォローと問題解決への即時対応を得意としている
その能力の特性から攻撃を意にも介さない前衛の模範とも言うべき陽太、至近距離での攻撃力、そして突破力は学年でも随一の実力を誇る
圧倒的な才能と能力特性から戦闘、非戦闘においても班にとって必要不可欠となる鏡花、中距離での攻防補助全てをこなす万能型で二人の問題児を抱えるも上手くまとめ上げ、その評価は班員からも、教員からも、ともに高いものを得ている
積極性や攻撃性に欠けるものの支援行動に対しては班どころか学年でも高い能力を持つ明利、戦闘能力がほぼ皆無な代わりに索敵、回復、地形生成といった班に必要不可欠な支援要素を一人でこなす完全な支援型、班員からの信頼も厚く、後衛としての能力には定評がある
個々の能力だけで見れば決してバランスがいいとは言い難いメンバーではあるが、それぞれが役割をしっかりと分担し、なおかつ連携を高いレベルで行えるという特徴を持っている
まだまだ粗削りではあるものの下手すれば上級生の班よりも優秀と言えるこの班にたかが小中学生の能力者が一人二人で対抗できるとは思えなかった
「先生、一応聞いておきたいんですけど、今回搬送する能力者って普通の能力者ですよね?」
「普通・・・とはどういう意味だ?」
「エルフとか、人外とかは関わってないですよねってことです」
どうやら今までの事件から今回もそれらしい影が関わっているのではないかと推測したのだろうが城島は首を横に振る
「資料にも書いてあっただろう?無能力者、能力者ともに軽犯罪などで捕まった普通の連中ばかりだ、お前が思っているようなことはまずない」
「それならいいですけど」
今まで関わってきたものが異様なだけに変に疑り深くなってしまっている
もちろん万全を尽くすつもりではあるが、今までの経験上何かあると考えていていいだろう
なにもなく終わるというのがそもそも考えられないのだ
こういう時に予知などができる能力者が知り合いにいれば容易く先を知ることもできたのだろうがあいにく静希の知り合いに予知系統の能力者はいない
「とにかく油断だけはするな、特に今回お前達が乗るのは車だ、もし事故になったときでも即座に行動できるようにしておけ?能力者が事故死なんて笑いもとれん」
「そうですね、まぁ反応はこの二人に任せますよ」
「おうよ任せとけ」
「あんまり期待しないでよね」
突発的な事故に対応できるのはこの中では二名
陽太と鏡花だ
陽太は能力の発動で即座に脱出、鏡花は能力を使って車自体を解体だってできる
外部からの急襲があった時最も気をつけなくてはいけないのは自らの安全の確保だ
無論実習任務をしっかりと終える為には搬送される人物の身辺も守らなければいけないが、まずは我が身である
「一応確認しておくが今日はどう動くつもりだ?警察に行って、その後宿泊先に行ってからは自由になるが」
今日の予定としてはまず警察署で顔合わせ、そしてその後宿泊する民宿に行って荷物を預ける形となるがその後は自由行動となる
なにもせずに身体を休めるというのも一つの手だがやらなくてはいけないことは二、三存在する
「向こうに行った後は自分達が担当するルートを明利が索敵できるように事前準備をしておくつもりです、結構距離がありますから時間がかかるかと」
「あ、先生、今回の宿泊先って山の上ですけど、警察から山までは歩き・・・ですか?」
「いや、今回は護衛車両とは別に向こうが車を手配してくれている、移動の足は心配しなくていいぞ」
その言葉に明利は安堵し静希と陽太はハイタッチする
流石に山の頂上付近まで荷物を持って行軍するのは避けたい、余計な疲労をため込む必要もない
今回はやたらと待遇がいいなと思いながら静希達は大きく歓喜する




