金の紋様
「これで重量はギリギリセーフのはずよ、試してみて」
はいよと受け取ってトランプの中に収納してみると何とか入れることができる
重量はギリギリ五百グラムに届かない程度にはおさまったらしい
「メフィ、これで満足か?」
「えぇ満足よ、残った金は好きにしていいわよ」
メフィは上機嫌になりながらまたソファに陣取ってテレビを見る作業に戻ってしまった
メフィの入るべきスペードのクイーンの中に豪華な短剣を入れ、その場に残されたただの金が無造作にその場に転がっているのを眺める
「どうするこれ?それほど量もないし・・・」
「アクセサリーでも作る?それとも全員の仮面に取り込んでおく?」
「あぁそりゃいいな、何かマーク作ろうぜ、シンボルマーク」
「刺繍みたいにするのもいいかもね、皆一緒か、ばらばらでもきれいかも」
「いいなぁ・・・鏡花ちゃん、やっぱ私にも仮面作ってよぅ・・・」
雪奈がうらやむ中鏡花は全員分の仮面に平等に金を付着させていく
均等に分配された金は薄く伸びながら仮面に馴染み徐々に伸びて金色のラインを作っていく
そして金のラインが引かれた時点で金の浸食は止まった
「で?どんなのにするの?全員一緒か、それともバラバラか」
「とりあえずバラバラでいいんじゃないか?一応考えがあるのも居るみたいだし」
どうやら四人の中で陽太と明利はすでに構想が出来上がっているようでうんうんと頷きながらなにやら白紙の紙にいくつか絵を描き始めている
出来あがったところで鏡花がその二つを見てみる、静希も横からのぞきこむと思わず目を疑った
明利の方は非常に丁寧に記された、恐らくは植物の蔓をモチーフにした美しい曲線と花弁をイメージしたアクセントのある紋様
ただの学生が描いたにしてはなかなか上手くかけている
だが一方の陽太のデザインが酷い
元より絵などが得意な方ではないにしろ、何が書いてあるのかが分からないのだ
「静希、長年の付き合いで見抜きなさい、これは一体何か」
「俺に振るなよ、何だこれ・・・犬?それとも狼か何かか?」
流石の静希もこれには首をかしげてしまう、それは鏡花も同様だった
自分に芸術のセンスがないのはわかりきっているがこの前衛的すぎる絵は酷いということはわかる
もしかしたら世紀の傑作かもしれないのだが理解するのはその道のプロでも難しいのではないかという印象を受ける
「雪姉、これわかる?」
「ん?なんじゃらほい」
同じ前衛としてもしかしたら似たような美的センスを持っているかもしれない雪奈に一縷の望みを託したのだが、渡された紙を見て彼女は首をかしげる
「これは・・・すごく・・・あれだね・・・なんというか、懐かしさを覚える絵だね、幼き日を思い出させる」
雪奈のこの評価をどうやら褒めていると感じたのか陽太は胸を張って誇らしげにしているがどうやら褒められていないことに気付いていないようだ
そう、幼き日を思い出させる
幼少時に絵を描いた人間であれば必ず通る道、何を描いているのかは分からないが、何かを描きたかったのだなという事だけは伝わる正体不明の絵
小さな子供が描く絵に似たそれは鏡花の下に返却され彼女の頭を悩ませる種となっていた
とりあえず明利の注文をこなし明利の仮面に込められた金を植物をモチーフとしたエンブレムに変えていく
仮面の固定具部分を覆うように出来あがった蔓の紋様に明利は満足したらしく嬉しそうに微笑んで感謝の意を述べた
さて問題はここからである
「えーっと・・・じゃあ陽太、一応聞いておくわ、これは一体何?」
「よくぞ聞いてくれました、これは鬼だ、炎の鬼だ」
その返答に思わず静希と雪奈が紙を覗きこむが、この落書き、もとい絵を何処をどう見たら鬼になるのだろうか
恐らくは自分の能力の姿を参考にしているのだろうがそれにしてもこれは酷い
「あぁ・・・んと・・・これをそのままいれていいわけ?」
「いや、カッコよく改変してくれ、鏡花のセンスに任せる」
また無茶なリクエストをしたものだなと静希達が同情の視線を向ける中鏡花は頭を抱えながら目の前の紙と向き合っていた
この落書きをどのようにしてセンスあふれる構図にするかが問題だ
自分が手がけた仮面に張り出される以上半端なものはつくれない、そんなことをしたら創作者としての恥だ
鏡花は繰り返される思考の末に陽太の仮面に付けられた金を変換していく
少しずつ動き形を変えていくそれは先ほどの明利の蔓とは全く違う曲線と趣向を持ったものだった
まるで書道で使う筆のように荒々しく、それでいて繊細な線で表現されたそれは、まるで炎をかたどっているような猛々しさと儚さを表現していた
明利が植物をモチーフにしたものなら陽太は炎をモチーフに描かれたものだろう
よくもあの稚拙な絵からこのようなものが生まれたものだと静希と雪奈は心の底から感心するばかりだった




