そのナイフの価値
「ところで静希、おじさん達からは何か送られてきたのか?」
「あぁ、二日くらい前に荷物が届いたよ、見るか?」
静希はリビングから離れて箱を取り出してくる
その中にはいくつかの奇妙な物体が封入されていた
お香やら民芸品、中には銀でできていると思わしき十字架まで入っている
「何かいろいろ入ってんな・・・」
「たぶん各地のお土産をまとめて送ってきたんだろ?これなんてどう使うんだよ・・・」
静希は送られてきた荷物の中にある使用用途の分からない道具をいくつか取り出してみる
今まで見たことがない上に名前も書いてないから一体この道具が何なのかも判明しない
「まさかこれだけか?」
「いや、あと食料品と写真と、これが入ってた」
静希が取り出したのは美しい曲線を描き、煌びやかに装飾の施された短剣だった
明らかに日本製ではないそれは一体どこの国のものだろうか
金色の何かで作られた柄、その中央部分に赤い宝石が埋め込まれ、白銀に輝く肉厚の刃は確かな重量感とその存在感を握る手に与え続けている
「何かやたらごてごてしてるナイフだな・・・趣向品か?」
「少なくとも実用じゃないだろうな・・・飾り物かそれとも儀式用か・・・どっちにしろちょっと調べてもらうか、鏡花~」
鞘に納めてガールズトークを開催している三人の中の変換能力者鏡花に短剣を投げ渡す
突然短剣が投げられてきたことに驚きながら何とかキャッチすると鏡花は目を白黒させながらその剣を見る
「ちょっと危ないじゃない!てかなにこれ?」
「親からのプレゼントらしき物体、ちょっと調べてほしくてな、一体何でできてるのか、どういう構造なのか」
あぁそういうことねと呟いて鏡花は能力を発動する
自らの手の内にある短剣の構造を調べていくとその表情が見る見るうちに信じられないと言った物に変化していく
「静希、これ本当にご両親から送られてきたのよね?」
「そうだよ?段ボールの中に布にくるまって入ってた」
鏡花は鞘に収まった刃をその目に焼きつけながら全体の構造を隅々まで解析していく
時間がたてばたつほどにその表情は驚愕に染まっていく
「あり得ないわ・・・これ相当の値打ちものよ・・・」
「本当に?私が握った時はそれほど強い刃物には思えなかったけどな・・・」
刃物のスペシャリスト雪奈が横から短剣をつまんでまるで自分の身体の一部であるかのように軽快に操りだす
ナイフが送られてきた当日にどのような能力があるのか、どのように使うのが効率的かを知るために雪奈に能力を使って調べてもらったのだが、彼女はただのナイフ以上の価値を見出すことができなかったのだ
「これは貴重品に含まれるわね、柄は金、刃は銀、柄に埋め込まれてる宝石はルビー、その他装飾にダイヤ、サファイアなどなど、挙げればきりがないくらいに無駄に金がかかってる物で構築されてる、しかもそれらすべての純度がすごく高い・・・どこでこんなの見つけたんだか」
鏡花がそこまで言うからにはかなりの値打ちものだろう
扱うのが怖くなるが明らかにこのナイフは実用ではないことが判明した
そんな高価なものをわざわざ血で汚すことはない、それに何よりかなりの重さがあるせいで静希のトランプの中には入れられない
「二人ともどこでこんなもの見つけたんだろうね」
「装飾の形を見る限りアジア圏じゃないわね・・・もっと西、それこそイギリスのほうかもしれないわね」
「まぁあの二人がどこにいても不思議じゃないけどな」
再び鞘に納めて短剣を投げ返す、高価なものだとわかってもこの扱いは静希にとってたいしたものではないというのが分かっているからでもあるだろう
それに鏡花にとって貴金属などはそれほど羨むものでも欲しがるような物でもない
物欲があまりない鏡花からすれば興味のないものは石ころと同じだ
何せその気になれば全て自分で作ることができるのだから
「それじゃこいつは俺の部屋のインテリアになってもらうしかないな、少しもったいない気もするけど」
価値のあるものがあると言われたところで使うことがなければただの置物以下だ
ナイフという実用性の限られたものであればなおさら
いくら貴重な金属や高価なものを使用していてもそれが使い物にならなければ同じこと
「ねえシズキ、それならそのナイフ私に頂戴よ」
「は?頂戴って・・・こんなもんどうするんだ?」
突然のメフィの申し出に静希は困惑する
何百年を通り越して存在しているこの悪魔が物欲などがあるとも思えない
なのにこのナイフを欲しがるというのはまたなんとも不可思議だ
「いいじゃない、女の子は綺麗なものを欲しがるものよ?」
「別にいいけど、これ俺のトランプの中には入らないぞ、重いし」
静希の体感でこのナイフは五百グラムを軽く超えている
いくらメフィの体重がないと言っても重量を越えている物は入れることはできない
「ならキョーカ、シズキのトランプの中に入るように微調整してよ、すぐできるでしょ?」
「できるけど・・・どれを削るの?柄?刃?それとも装飾?」
「柄の内部を空洞にしてほしいの、外部の装飾はそのままがいいわね、それでも足りなければ刃の内部も空洞にしていいわ」
メフィの案に鏡花は渋々ながらいう通りに短剣に変換の能力をかけていく
短剣の柄が僅かに変形したかと思うと内部に詰まっていた金だけが分離し、少し軽くなった短剣が出来上がる
一日四ページ書き始めてから一話当たりの物語の長さ調整が難しいことに今さら気づきました
今までは適当に描いていたら大体百ページ前後に収まっていたのですが・・・
本当に話を書くのって難しいです
これからもお楽しみいただければ幸いです




