普通の内容
「そういえば今回の宿泊先ってどうなってるんだ?まさか拘置所とか言わないよな?」
今回の目的地が留置所であるために嫌な予感が満ち満ちているが鏡花はさすがにそれは無いわよと苦笑いする
「今回の宿泊先はルート上にある民宿、学校関係者はそこに寝泊まりすることになってるわ、担当が変わる休憩所のすぐ近くよ」
地図上に付けられた印と書きこまれた宿の名前を見て静希はとりあえずパソコンで検索をかけることにした
検索されて出てきた結果はどこにでもあるような民宿、山の幸を堪能でき温泉なども出ているらしく、口コミもそれほど悪くない
どうやらルート上にある山はキャンプや釣りなどのアウトドア、加えて時期によっては美しい紅葉などが楽しめる為に多くの観光客が利用するらしい
その宿の評判の理由の中に猪鍋や熊鍋などといった特殊な肉を使った料理が振る舞われることがあるらしい
規模をみると民宿というよりもはや旅館のそれに近いかもしれない
「金曜日から出発して、土曜日と日曜日に搬送か?」
「そうよ、金曜日はひとまず警察署の方に顔見せ、その後に装備と状況を確認した後民宿へ移動って流れみたい」
今までの全て自由行動というのに反して警察が絡んでいるという事もあってある程度行動が決められてしまっているらしい
もっともある程度状況を理解できるためにその方が有り難くもある
朝から移動を開始して九時くらいには警察署、それから一時間ほど顔見せと装備確認をしてから民宿へ移動、恐らく民宿に到着するのは昼過ぎになるだろう
一日目は移動と自分達の回るルートの事前確認くらいで終わりそうだ
二日目から搬送を開始、ルートを見る限り警察署から休憩所近くの民宿まで車で一時間から二時間ほどかかるコース、そして休憩所から留置所まで同じく一時間から二時間
一日三回ということは実習中は移動し続けなければいけないということになる
静希達が歩く訳ではなく車の中で待機するということになるが
「車移動ばっかりかぁ・・・酔い止め持っていかなきゃ」
「明利からすりゃ今回はちぃと少しきついかもな、つか一日中車の中ってわけじゃないんだろ?ときどき休憩とかできねえの?」
乗り物に酔いやすい明利からすればこの実習は苦行がほとんどの時間を占めることになる
特に今までは移動は目的地に向かうための手段だったが、今回は移動が目的となっている
どうしても長時間車に乗ることは避けられない
「えっと・・・向こうが休憩所に車で私達は待機で、私たちが拘置所に向かう時に警察の方は本庁に戻って対象者を移送開始・・・私達も移送終了時点ですぐに休憩所へ・・・だからほぼ移動し続けることになるわね」
行動開始は九時、そして午前に一回午後に二回、なるほど朝から夕方までずっと動き続けることになる訳だ
その事実を知って明利はうなだれるが自分のせいでスケジュールをずらす訳にもいかない何よりも体調管理は自分の専売特許でもあるのだ、多少の無理を通すこともできないようでは回復要員としての役割さえこなせなくなる
「で、俺らは今回何に警戒するべきだ?移送者か?それともテロリストか?」
「どちらかといえば後者かしら・・・今回は移送者を逃さないって意味合いもあるけど、守るっていう前提があるんだから、外部からの接触を警戒しておいた方がいいわね」
護衛と銘打っている以上何かから守るのは当然、問題がその何かが分からないことである
まだ護衛対象者が政治家などであればある程度の予想もできたのだろうが移送者は犯罪を犯した人物多数と能力者二人
はっきり言ってこれらにまったく共通点もないし彼らが犯した犯罪もほとんどが軽犯罪ばかりで、重要な何かがあるとは思えない
先入観を持っている訳ではないが、内容が窃盗だったり万引きだったり暴行だったり詐欺だったりでは今までのような面倒事に発展するとも思えない
能力者の二人もいたって普通
小学生の方は学校外、電車の中で居眠りをしている際に誤って能力を暴発、そのせいで更生施設に移送されることが決定しているのだが一時的な措置として留置所に
中学生の方は学区内での喧嘩で同級生相手に怪我を負わせた
だがそれほど強力な能力ではないのか被害者も普通の人間が負わせられる程度の傷だったという
どちらにせよ能力を使用しての事件なので一応更生施設に向かうために一時的に拘置所に置かれることになったようだ
小学生ほどの歳であれば寝ている時に見た夢のせいで能力を誤って使ってしまうことも珍しくないし、多感な中学生であれば多少頭に来ることであれば本気で喧嘩してしまう事もある
あまりにも能力者として普通の事態であるため、どちらもそれほど重要性があるとも思えなかった
「今までがあれだったから変に勘ぐっちゃうのもわかるけど、さすがに今回は変な事にはならないんじゃないかしら?」
「そうか?俺としては嫌な予感ビンビンだぞ、あからさまに普通だと逆に怪しいよな」
火曜サスペンスの見過ぎか、それとも探偵ものでもよく見るのか、陽太からすればこの普通で何の怪しくもない実習は何かがあると睨んでいるようだ
一番怪しい人物が実は犯人ではないという妙な様式美にのっとって、怪しくないと思っていた人物が実は犯人という感性のもとに動いているのかもしれない
理解できなくはないがそこまで行くと曲解が過ぎるのではないかと苦笑してしまう
「でもここまで普通なら大丈夫なんじゃないかな?」
「んん・・・先生は何か言ってた?ここに注意しろとか、これは怪しいなとか」
「特に何も、良かったなとだけ」
城島も静希達が今まで行ってきた実習内容に対して不憫程度には思っていたのだろうか、さすがに教師として見過ごせなかったのか哀れに思ったのか
どちらにせよよかったなと言われた以上城島の知る限りは妙な思惑や策略などは無いと思ってもいいかもしれない




