待望の実習内容
翌日、静希達は学業を終え、HRを終えた後、少しだけ残ることになっていた
それは静希達一班だけの話ではなく、このクラス全員のことだった
つまりは今度の校外実習の内容発表である
二学期に移り変わり二年生の支援が受けられなくなるということで一年生にはより一層前準備と心構えが必要とされるのである
「今回は何と戦わされるんだろうな」
「せめて討伐や殲滅じゃなくてもうちょっと平和な内容がいいな」
「そうだね、今までで戦わなくてもよかったことってあまりないし」
幼馴染三人組の会話はどうにも期待二割諦め八割といったようで、もはや自分達が面倒事に巻き込まれ戦うことを余儀なくされることも容認してしまっているかのようだった
事実、今まで行った実習で戦闘を行わなかったのはダムの解体くらいである
それ以外は完全に戦闘オンリーだったり戦闘メインの物ばかり、はっきり言って一年生が行うにしては危険度が高すぎる
静希達一班の中で純粋に戦闘を行えるのは陽太と鏡花のみ
静希は元より支援型、明利に至っては戦闘などほとんどできないに等しい
なのにこれほどハードな内容を組まれるというのは少々納得がいかないという考えもありながら、もうしょうがないよねと諦めてしまっている自分がいるのも確かだ
そんなことを三人が心の中でひっそりと考えている中教室の扉が開き実習内容を知らされてきた各班班長と担任教師城島がクラス内に入ってくる
「えー、各班班長に渡した資料をよく確認すること、今回から二年生の補助は無い、そのことを良く考えた上で行動すること、以上解散」
教師らしい言葉をいくつか述べたうえで城島はさっさと退室していく
そんな中鏡花は自らの班員達に資料を運んでくる
「鏡花、どうだった?」
「今度は一体何と戦わされるんだ?」
もはや戦うことが前提になってしまっている男性陣を前に鏡花は満面の笑みを浮かべる
それは今までの諦めが込められたものではなく確信を持って言える程に嬉しさ満点の笑顔だった
「喜びなさい諸君、今回の私達の任務は、護衛よ」
鏡花の言葉に数瞬遅れて三人は置かれた資料を食い入るように見つめる
そこには実習区分『護衛』としっかりと明記されていた
「お・・・おぉぉぉ・・・ついに・・・俺らがついに・・・」
「長かった・・・始まりの実習から約半年・・・本当に長かった」
「うん・・・今回は戦わなくてもいいかもね」
あまりの予想外な状況に静希達は僅かに涙もこぼしながら喜びを体現する
だがまぁ護衛とはいえ実習は実習、全力で当たらなければ高評価は得られない
「とにかく一度静希の家でブリーフィングしましょ、いいでしょ?」
「あぁ、そうだな、とりあえず家行くか」
一班全員は荷物をまとめて静希の家に行くことにする
一瞬雪奈たちに声をかける事を考えてしまったのだが今回から二年生はいない
自分達ですべて行わなくてはならない
そう考えると一人一人にかかる重圧も変化する
六人が四人に変わるだけ、傍から見ればそう思えるかもしれないがこの班においてその二人の重要性は非常に高いものだった
前衛をこなす雪奈と索敵と中衛支援を行える熊田
この二人がいないだけで班の総合戦闘力は四割~六割削られると言っても過言ではないだろう
静希の家にやってきた全員、そして鏡花は先生から配られた資料を全員に見えるようにテーブルの上に広げる
テーブルの上には資料と紅茶、そして茶菓子が振る舞われていた
「今回の実習内容、護衛っていってたけど、詳細は?誰の護衛なんだ?」
「誰、っていうのは的確じゃないかも、私達が護衛するのは護送車の護衛よ」
鏡花が示した資料にはいくつかの人物の名前と写真、そして詳細と時間が記されている
そしてもう一つの資料をめくるとそこにはルートの記された地図がある
その地図の出発点は警察庁本部、そして到着点は拘置所
「あ・・・護衛ってそういう感じ?」
「今回私達は、警察庁から拘置所へ移送される搬送作業を護衛します、と言ってもルートすべてじゃなくて途中の山の頂上付近にある休憩所から引き継ぐ形になるけど」
今回の実習はどうやら警察と合同で行われるらしい
以前の実習で警察と共同で刑務所の事件を解決したのが原因だろうか
妙に国家機関に関わることが増えてきている気がしてならない
鏡花が地図に記されたルートに印をつける
赤いルートと青いルート、その二つを結ぶのがある山を越える途中にある休憩所だ、どうやらここを境に護衛が変わるようだ
「赤いルート、警察本部から休憩所までは警官隊と収容監督者、休憩所から収容所までは私達と収容監督者が護衛を行うことになるわ」
「収容監督者って?」
「ようはこの実習の最高責任者ってところ、なんでも軍部から派遣されてるんだって」
ただの警察だけでは万が一に対応できないと思われているのか、それとも能力が必要であると思われるような事態があるというのか
どちらにせよ相手が何かやらかした人物である以上注意は必要だろう
「当日にスケジュールは?一度に何人も移送するのか?」
「いいえ、移送は一日三回、それを二日間行うことになるわ」
「護衛の配列は?」
「前後に護衛車両が用意されてる、私達もそれに乗ることになるわね」
「移送される人物のパターンは?」
「ちょ・・・いきなりそんな質問しないでよ、私もまだ把握しきれてないんだから」
まくしたてるように質問する静希に鏡花は狼狽しながらもいくつかの資料を眺めて確認を始める
今回が初の一年だけの実習だ、下手なミスをする訳にはいかないと静希もある意味張りきっているようだった
「えと・・・これが搬送される人物のスケジュール表、それと護送車と護衛車両のデータ、移送者個人の情報はある程度しかないけど一応教えてくれたわ」
鏡花が選んで表に出したのは個人のタイムスケジュールの記された紙と車両データだった
どれも学生にもわかりやすいように注釈が付けられている、非常に丁寧な仕事だ
だが陽太がタイムスケジュールを見た際にあることに気付く
「なぁ、三日目の午前と午後の最初って何で一人ずつしか移送してないんだ?効率悪くないか?」
指をさして示すその時間、午前に一回、午後に二回行われる移送の中で三日目の午前中のと午後の一回目の移送者はそれぞれ一人しか居ない
他の移送時間には数名同時に移動しているというのに一人だけというのは違和感を覚えるのも当然の状況と言えるだろう
「あぁ、その二人に関しては妥当な判断らしいわ、その二人、能力者だから」
鏡花の言葉に全員の表情が硬くなる
能力者を拘置所に移送ということは、少なくともここに記されている二人は能力を悪用、あるいは制御が上手くいかずに暴発させた人物ということになる
恐らくは後者だろう
何せ一人は小学生、一人は中学生だ
子供とはいえ能力を保持している事に変わりはない、能力者を複数同じ空間においておくことがどれほどの意味を持つか無能力者にも理解できるのだろう
「前後に護送車が配置されるってことは、俺らを二つに分けるべきなんだろうな」
「そうね、どうする?また私と陽太で組むの?」
今まで班を分割する際に鏡花と陽太はほとんど同じ組になってきた
能力の相性的な意味でもそうだが最近では性格的な相性でも鏡花が陽太を制しつつある
「いや、今回は分け方を変える」
だがそれは今までの場合だ
前衛が二人居た今までと違い今回は戦力が少ない
お互いの戦い方などが十分に把握できている今戦力を均等に分けようとすると、今までの分け方では少々問題があるのだ
「まず戦力確認だ、俺らの中で純粋に戦闘が行える人数は二人、陽太と鏡花だ、この二人は分ける」
「あら、ようやくバカから解放されたわ」
「おぉ、ようやく鬼教官から解放されたか」
「「あぁん?」」
お前達は打ち合わせでもしているのかと言いたくなるほどにシンクロした発言に静希はある意味感動すら覚えながらも話を先に進めることにする
「とにかく、お前らは別だ、俺と陽太、鏡花と明利で組むことにする、男女別ペアだな」
「この分け方は最初の二対二以来だね」
鏡花と出会って最初に戦った二対二模擬戦、その時以来の組みわけだ
懐かしさもありながら鏡花は自分の脳裏に未だ焼きついている静希の邪笑を思い出して僅かに身を震わせる
「一応聞いておくけど、この組みわけの理由を教えてくれる?」
「陽太と明利の能力の相性が悪いっていうのと、明利だといざって時に陽太を上手くコントロールできないっていうのもある、ほっとくとこいつどこまでも突っ走るからな、護衛って時点で護衛対象から離れられないんだし、こいつをちゃんと抑えられる奴じゃないと厳しい」
護衛とはその人物を守ることでもあり、危険を排除するという目的でもある
できる限り離れてはいけない状況で陽太が能力任せにどこかに行ってしまえば戦力が激減してしまう
そういう時に明利が強気に陽太を止められるとは思えない
「もう一つは鏡花と明利のコンビネーションに期待してるってところかな」
「私達の?」
二人を指さして頷くと静希は紅茶の入ったティーカップを傾ける
どちらかといえば理由としてはこちらの方が大きいと言ってもよかった
「鏡花の能力は防御面で優れてるし、明利の能力は索敵面で優れてる、あらかじめ搬送ルートにマーキング済みの種蒔いとけばいきなりの襲撃でも対応できるだろ?」
護衛において優先されるのは攻撃よりも防御である
攻撃面に優れた陽太よりも防御面に優れた鏡花に索敵担当の明利を付けることで安全性と即時対応性を上げようということだ
何より鏡花の能力はいい意味でも悪い意味でも目立つ、それ故に異常も察知しやすい
「それじゃあ、私と明利が前の車両、静希と陽太が後ろの車両ってことね?」
「そうだな、後ろからの強襲なら多少反応遅れても陽太が対処できるしそれでいいんじゃね?」
明利の索敵範囲と対応速度的に前に明利を配置しできる限り異常を早く感知して対応する、もし仮に後ろから誰かが追ってきて攻撃してもこちらも移動し続けている以上ある程度の猶予はある
その猶予があれば陽太が迎撃に出れば十分間に合うレベルの話だ
そして後方車両に乗った二人が遅れてもフィアと陽太の走行速度ならすぐに追いつける
「でも純粋に戦闘できるっていっても、あんただって少しは戦えるでしょ?私達の方ちょっと弱くなってるんじゃない?明利は全然戦闘向きじゃないし」
「それは仕方ないだろ、前衛一人、中衛二人、後衛一人じゃどうしたって戦力均等は難しい・・・俺らだけの戦闘能力だったらこれがベターだと思うぞ」
俺らだけというのは人外達に頼らない状況での静希達の戦闘能力の話である
もし仮に人外に頼った場合、静希の総合戦闘能力が頭二つ分ほど飛び抜ける形で一位に躍り出る
だが基本校外実習時には人外達にはそれ相応の理由がなくては関与を避けてもらっている
以前のザリガニ戦で邪薙に防壁を張ってもらったのが本当にぎりぎりのラインだ
できるなら実習は自分達の力だけで行いたいというのが本音なのだ
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千件を超えてから伸びが悪くなってきた気がします
目新しさを用意しないと人気が出ないというのは難しいなぁ
これからも試行錯誤を重ねていこうと思います
これからもお楽しみいただければ幸いでs




