信頼の種類
「それじゃお願いしようかしら、ヴァラファール、あんたも暇なら意見を頂戴よ」
「・・・はぁ・・・わかったから耳をつまむな」
浮遊しながらヴァラファールの耳を引っ張っているメフィを払いのけながら獅子の悪魔はゆっくりと身体を起こす
とりあえずと呟いてエドは近くにいる三人の人外を見比べる
「オルビアは・・・確かシズキが使っていた剣、なんだよね?」
「はい、私は剣であり騎士であり、マスターの所有物です」
誇らしげに自らの胸に手を置いてそう言い放つオルビア
忠誠
オルビアが静希に抱く唯一無二、絶対の心境ともいえる
「で、邪薙は・・・確かシズキを守っていたのかな?あの障壁で」
「そうだ、私はシズキを守ると誓った、これまでも、そしてこれからも」
座禅を組みながら料理中の静希を横目で見ながら僅かに息を漏らす
守護
邪薙が静希の傍らにいる存在意義であり、契約、そして彼自身がそうすると決めた事でもある
「メフィストフェレスは・・・シズキと契約しているんだろう?」
「えぇそうよ、ちなみに私がいちばん人外の中で付き合いが長いわ」
浮遊しながら得意げに笑うメフィ、その表情は自信と余裕に満ちている
道楽
メフィが静希と契約するきっかけでもある、面白いと思う感情
それに勝るものは彼女にはなく、面白いからこそ、見ていたいからこそメフィは静希とともにいる
彼女は自らの楽しみの為に行動している
今までそうだったようにきっとこれからもそうやって生きていくのだろう
「正直・・・甲乙つけがたいな・・・全員が別の意味で信頼されていると思うし、何よりシズキには一番も何もないんじゃないかい?」
「そうは言っても一番っていってほしいのが人情ってもんでしょう?まぁ人じゃないけどさ」
自分で言っていれば世話がないと僅かに呆れながらエドは全員を見比べる
その場にいる全員静希にとてもよく尽くしているだろう
そしてそれは静希も重々承知しているはずだ
だからこそ大体の我がままには目を瞑るしお互いの意見や行動も尊重する
「この中ではそこのオルビアとか言うのが一番信頼されているのではないか?」
悩むエドに変わりヴァラファールが人外の面々に対して自分の意見を述べると全員が僅かに反応する
「ほほう?してその心は?」
「・・・これは持論だが、一番信頼している者は一番近くにおいておく、そして何より奴と出会った時、いつも剣を身に着けていた・・・あの剣はお前なのだろう?ならば一番はオルビアではないかと思うが」
最も信頼できる人物を一番近くにおいておく
それはある意味自らが危険にさらされているという状況だからこそ成り立つ構図でもある
そしてそれは逆に言えばその人物は危険に巻き込んでも構わないということにもつながる
自らと運命を共にすることを当然として考える
それは信頼というのだろうか、それとも独りよがりというのだろうか
どちらにせよ他人の意見であっても一番であると評されたオルビアは僅かに嬉しそうに頬を緩めながらその場にたたずんでいる
表情を変えていないように努めているのだろうがその表情が頬笑みから変わることはなかった
「僕としてはちょっと違うかな、なんというか分野別で信頼の一位がそれぞれあるような気がするよ」
「分野別?」
エドの言葉にメフィは疑問符を飛ばす、それは他の人外も同じなようでエドの言葉に耳を傾けていた
「例えば今ヴァルが言ったけど、自分のそばにいてほしい存在、なくてはならない存在っていう意味ならオルビアが一位だと思う、それは僕も同意だ、でも他の二人にもそれぞれトップにたる部分があると思うんだ」
エドがなにを言いたいのか少しずつ分かり始めた人外達は特に口をはさむことなくエドの言葉を聞いている
こういうところは流石元研究者、人に話したり説明することは得意分野なのだろう
「まず邪薙、君は静希にとって『命を預けるに足る存在』何じゃないかと思う、前戦闘をした時、ヴァルの攻撃を避けようともせずに前に出たことがあっただろう?あれは君なら自分を守ってくれるっていう確信があったからじゃないかな?」
それは静希がイギリスの任務で攻撃されようとしていた部隊をかばうために攻撃に身を晒した時である
邪薙とメフィに頼んで障壁を張り、自らと部隊の人間を守らせた
それは並大抵の人間にできることではないとエドは思っていた
何せその攻撃は一発一発が悪魔の攻撃だったのだから
同じ契約者としてその意味が分からない程静希は愚かではないだろう
その評価に邪薙は満足しているのか鼻を鳴らしながら僅かに上機嫌になりながら座禅を続けている
表情は分かりにくいのに感情の機微は非常に分かりやすいというのもどうなのだろうか




