呼び出した理由
ちょうどその頃、蒸し暑さから僅かに逃れられる場所、空調の利いた成田空港にはある人物がやってきていた
何人かの連れと話しながら手元にあるメモを取り出して頭を掻き毟る
高い身長をした彼はメモに書かれた住所を見ながらいくらか思考を重ねるがどうにも日本語を読むのに苦労していた
「すいません、この住所、行くには、どう・・・すれば、良い?」
近くにいた係員に片言交じりの日本語で声をかけて書かれたメモを見せると係員は慣れたもので乗る電車と降りる駅などを告げていく
近くにいた連れに少し単独行動することを告げて彼は大きな荷物を二つほど持って歩き出す
建物から出ると同時に予想以上の熱気と湿気にohと声を漏らして躊躇うがここまで来て退くことなどできず熱気の中を突っ切るように速足で駅まで向かった
「そういや、今週末だっけ?二学期最初の校外実習」
場所は戻って喜吉学園一年B組
熱気漂うクラスの中で飄々と会話を続ける陽太は鏡花からやや強めの恨めしそうな視線を受けているが全く気付いていないようだった
九月に入ってまず行われる校外実習
静希達の班の夏休み中の実習が八月後半だった為か随分とペースが早いようにも感じてしまう
「今回はさすがにまともな内容だといいな・・・護衛とか・・・警備とか」
「そうだね、今まで危ない内容ばっかりだったし」
今まで静希達が行った校外実習は害獣討伐(エルフと悪魔との戦闘あり)、エルフの村への遠征(神格の鎮静化)、奇形種討伐(完全奇形+奇形種と戦闘)、刑務所奪還(武器所有の囚人の制圧)、ダム解体などである
この中で危なくない内容はダムの解体だけというはちゃめちゃラインナップである
もう少し能力を使わずとも解決できるような内容を引き当てたいのだが、どうにも誰かの運が悪いのか危ない内容ばかりを引き当てている
静希に至ってはそこに悪魔召喚事件やら暗殺などが含まれる
恐らくこの班で運がないのは静希なのだろうなと鏡花は確信しているが自分も運がいいとは言えないためにあまり妙なことは言えないのだ
「そういや校外実習もそうだけど、静希、そろそろあんたの誕生日でしょ?」
「おぉ、明後日だな、ようやく十六っていってもあんまり恩恵ないけど」
歳が上がってもやれることもできる事もあまり増えない静希達にとって誕生日と言うのは特にこれと言って盛り上がるようなことではない
誰かが祝ってくれるということが有り難いだけである
「んじゃお前んちでまたパーっとやるか、どうせまだ実習内容は発表されないだろ?」
「そうね、たぶん前日か、前々日くらいでしょ?ちゃんと祝えるわね」
「楽しみにしてるよ」
軽く汗をぬぐいながらカラカラと笑っていると担任教師城島が相変わらず長く鬱陶しそうな前髪を垂らして入ってくる
いい加減髪切ったらどうだと言いたくなるが彼女の頑固さはかなりのものだ
恐らくは改善するつもりはないだろう
暑さのせいもあってか教鞭を振るう教師もなかなかに辛そうな表情をする中時間は経過する
その日の授業を終え、帰りのHRとなり連絡事項を告げる中、思い出したように城島が口を開く
「終わったら五十嵐と響は職員室に来るように、連絡は以上だ、解散」
城島の言葉に生徒全員が静希と陽太を見てまた何かやらかしたんじゃないかと野次にも似た軽口を飛ばしてくるが二人してほっとけと反論し覚えのない呼び出しに首をかしげていた
「なに?あんたら何かやったの?」
「いや、特に何も・・・陽太は?」
「全く記憶にございません」
「そのいい方だと逆に怪しいよ?」
まるで政治家のような言い訳だがいつまでも城島を待たせる訳にもいかない
先に帰ってもらうように告げて二人は職員室に向かっていた
職員室に入ると同時に二人を包み込む冷気に僅かに癒されながら城島のいるところまでやってくると書類を書いていた城島が二人を確認して顔を向ける
「来たか、とりあえず要件から話そう、まず五十嵐、先日のテオドールの件に関して、公的ではないが向こうから謝罪の旨を記した書類が届いた、お前に渡しておく」
渡された紙には英語がびっしりと書かれ何かいくつかの署名がのせられているのが分かる
だが英語の成績がある程度あったとしてもここまで大量の英語を目にするとさすがに目がくらむ
「・・・日本語訳版はないんですか?」
「甘ったれるな・・・と言いたいが、ある程度要約すると、実行を促した犯人はこちらでも捜索する、こちらの監督不行き届きのせいでそちらに多大な迷惑をかけたことをお詫びする、と言うことだ、その署名はテオドールの集めた議員の名前だろうな」
なるほどと呟いて静希はまじまじと書類を眺める
まさか極秘裏とはいえ謝罪文が送られてくるとは予想外だった
しかも城島を経由しているあたり、ある程度の人間は知っていると考えてもいいからだろう
もしかしたら体のいい外交のカードにされたのかと思いながらも静希は書類をカバンの中にしまう
「せんせー、俺はなんで呼ばれたんすか?」
要件がないのではと思いながらダラダラしていた陽太を見て城島はもう一枚書類を取り出して陽太に渡す
それを覗き見ると何やらいくつかの判子や署名の書かれた書状がある
静希は以前にもその書状に似た物を見たことがあった
「先日の刑務所制圧に際し、響陽太、お前の称号が決定した」
「・・・はい?」
陽太は素っ頓狂な声を上げるとその書類を注視する
余計な文章を読んでいるために結論に達するのがだいぶ遅くなっているが静希がみると最後の項目に『攻城兵器』と記されている
「攻城兵器って・・・また随分物騒な」
「攻城兵器・・・?・・・それ褒められてるのか?」
少なくとも強大な破壊力を持っている事だけは理解できる
なるほど、あの門を一撃のもとに破壊したことが正当に評価されたのだろう
恐らくはあの場にいた警官隊やマスコミの力にもよるだろうが、他人からの正当な評価を受けての称号だ、そういう意味ではあの実習で最もわかりやすい形で行動したのは陽太に他ならない
「よもや落ちこぼれ扱いされていたお前達二人が真っ先に称号獲得とは・・・何と言うか・・・複雑な気分だよ」
「え?二人ってことは静希も称号もらってんすか?」
そう言えば陽太に称号をもらったことを告げていなかったなと思いだしながら静希はファイルの中から陽太の貰った書類と似た物を見せる
陽太のがすべて日本語で構成されているのに対し静希の書類にはいくつか英語が混じっている
「お前は『ジョーカー』で俺は『攻城兵器』か・・・なんだよ一番乗りじゃなかったのか」
「だとしても二学期・・・いや夏休みの実習で称号を得られただけで十分すぎる、特にお前達二人はな」
二人は能力の測定値的に言えば劣等生に当たる
弱すぎる能力と、能力を制御しきれない能力者
不安定かつ予想外の点が多いためにただの測定では測りきれない部分がある
実習において実力が発揮されるのは優秀である証拠なのだが、目の前にしてみるとどうしてもそんな気がしない
メリハリと言えばそこまでだが、どうにもこの二人はスイッチのオンオフが激しすぎる
「要件はそれだけだ、響の場合公言しても問題ないが、五十嵐は引き続き称号のことは秘めておけ」
わかりましたと二人が職員室から出ると陽太は身体を僅かに震わせながら拳を握っていた
「よっしゃああああ!」
おおきく拳を振り上げて喜びをあらわにすると歓喜の声が廊下中に響き渡る
かなり嬉しいのか何度も何度もガッツポーズを繰り返し喜びを全身で表現している
今までずっと落ちこぼれとしてけなされていた陽太からすれば他人から正当に評価されるというのはなによりもうれしいことだ
「やかましい!」
「ぎゃば!」
大声を聞かれて城島に殴られさえしなければ気持ち良い気分でその場を去れただろうに、陽太はこういうところが詰めが甘いと言える
静希と陽太が職員室に向かった後明利と鏡花は帰り支度を進めていた
「明利はこのまま帰るの?」
「どうしようかな、校門で静希君を待ってようかと思ってるんだけど、鏡花さんは?」
私はバカと特訓よと告げてカバンを肩にかける
教室を出て下駄箱のところで靴を履き替えていると明利から僅かにシャンプーの匂いがすることに気付いた
「そう言えば明利ってまだ静希と一緒にランニングしてるの?」
「うん、朝静希君の家に行ってから走ってるよ、でもなんで?」
「いや、この暑いのに随分と頑張ると思って・・・やっぱ静希と長く一緒にいたいから?」
ゲスな笑みを浮かべる鏡花に対しそんなんじゃないよと動揺し顔を僅かに赤くながら否定しているのだが全く説得力がない
何と言うかつくづく嘘のつけない性格をしている
こんなにもいい子が好意を向けているというのに平然としている静希はいつか天罰でも下るのではないかと思えるほどだ
二人が校門前まで差し掛かり、明利は外へ、鏡花は演習場へと向かおうとすると何やら校門付近で守衛が外人と会話しているのが見受けられる
何やら口論、とまではいかないが少々声をおおきくしながら会話している
「何かしら?外国人なんて珍しいわね」
「どうしたんだろ?お客さんかな?」
興味本位で近付くと守衛がほとほと困った様子だった
相手は片言ながら日本語を話そうとしているのだが僅かに興奮しているのか
すぐに流暢な英語が飛び出してくる
そのせいでなにを言いたいのか非常に要領を掴みにくい
言葉が通じないというのは非常にストレスになるのか、それともこの日本の気候に慣れていないのか、外人男性は僅かに顔を赤くしながらそれでも必死に何かを伝えようとしている
誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿
新しいパソコンが微妙に修正終了してないから非常に使いにくい
慣れるのに少し時間が必要ですね
これからもお楽しみいただければ幸いです




