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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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利己的な理由

生かした理由に一つだけ心当たりがある


はっきり言ってそれはあまりにもバカげた理由だ


だがそれでもないよりはましだろう


静希はテオドールに顔を近づけた


「まぁ、お前を生かして捕らえて情報を引き出すってのが第一だったけど・・・生かすってのとは違うからな、何よりお前の好みの回答じゃないだろ?」


結局情報は得られなかったし、何よりそんなことは誰でも考える、むしろ殺しておいた方が全ての責任をなすりつけることができる分、幾分か楽だったかもしれない


そうしなかった理由、生かしておいた理由


静希は少し視線を外してため息交じりに笑う


「生かした理由は・・・そうだな、恩を売るため・・・ってのはどうだ?」


「・・・恩?」


静希の言葉は重く、そして鋭く辺りに響く


その声は幼馴染の姉貴分と対話していた声とは全く違う、どす黒く濁った声だった


「そう、俺はお前の命を助けてやった、殺さないでおいてやった、言わば命の恩人・・・違うか?」


「・・・確かにそう取れなくもないな」


「お前に、ひいてはお前の所属しているグループに恩を売ってコネを作る、それがお前を生かした理由だ、不服か?」


その理由は酷く俗物的で、利己的だ


命を奪いたくないだとか、人殺しになりたくないだとかの拒絶から来る理由ではなく、どうしたいからという欲求からくるもの


人が本来持つものでもあり飾り気などない本心からの言葉だった、綺麗事などなくそこには濁った欲があるだけ


「もっといえばお前を利用するためだな、恩のある俺に情報を流したり、ちょっと調べ物してくれたり、いろいろと工面してくれれば俺としては助かる訳だ」


「解放された後で俺がお前の言うことを聞くと思うか?」


「聞くさ、きっちりと、どっちが上かをはっきりさせる必要はあるだろうけどな」


テオドールには見えていないが静希は本当に嬉しそうな、いや楽しそうな笑みを浮かべる


城島の今までの対応を見てわかったのは、相手によってはとことん強気で対応した方がいいという事


今回の場合もまさにそれだ、不用意に下手に出れば調子に乗られる、ならばとことん強く出てこちらの方が立場が上であるということを知らしめたほうがいい


「考えても見ろよ、お前が俺を殺そうとした理由、なんだったっけ?」


「依頼された・・・と言うことではないな」


「あぁ違う、もっと根本的な事だ」


「・・・お前が悪魔の契約者だった・・・からか?」


その通りだよと言ってのけて静希は縛られたままのテオドールの周囲をゆっくりと歩く


そして軽く笑いながらテオドールの後ろに立つ


トランプの中からメフィを取り出して何も喋らないように合図しながらその場に待機させてまたテオドールの前へと移動する


「お前は俺を殺そうと全力を尽くした・・・けど殺せなかった、ただの能力者としての俺に倒された・・・手加減されて、手の内も明かせず、悪魔も引き出せず・・・俺の能力もわかってないんじゃないか?」


「・・・あの動物は悪魔じゃないのか?」


「あぁあれ?あれはただのペットだよ、奇形種のな、可愛いだろ?悪魔はあんなもんじゃない、むしろあれを悪魔と勘違いしてたのか?おめでたいな」


笑いながらその場に座る静希とは対照的にテオドールは僅かに口元が歪んでいるように見える


さすがにここまで言われては能力者としてのプライドが傷ついたのだろうか


事実テオドールは静希の能力がわかっていなかった


武器を用意していたということはそれほど強い能力ではないことはわかっている


途中まではある程度判明しかけていた


放たれた杭を空中ではじいたり、電流流れるワイヤーを手で掴まずに引っ張っていたり


この二つから至近距離あるいは中距離の念動力かとも思っていた


だが最後に起こった自分の呼吸が苦しくなった異常と爆発の原理が説明できない


呼吸を困難にするのだけなら空間固定で説明がつくかとも思ったが爆発が厄介だった


今まで無属性、空間や力場生成だと思っていた理論が一気に瓦解した


悔しいがテオドールは静希の能力をまったく理解できていなかった


当然だ、何せ静希だけが能力を使っていた訳ではないのだから


静希とメフィと邪薙、三人の能力が同時に使用されていたあの状況で三人の能力を正確に理解するのは困難を極める


なにせテオドールは目の前にいる静希にしか注意が向いていなかったのだから


「お前に・・・いや、お前達に俺は殺せない・・・」


メフィに合図をしてテオドールの首を少しずつ締め上げる


前から声がしていたというのに突然後ろから首を絞められ始めたことでテオドールは困惑したが自分の首を絞めているのが誰かの手であることを瞬時に理解し、能力を発動してその手に電流を流す


だが首にかかる力は全く衰えない


人に流せば確実に気絶するどころか死んでもおかしくない程の電流を流しているのにもかかわらずその首を絞める力は弱まるどころかどんどん強くなっていく


何故能力が効かないのか


自分の首を絞めているのは確かに誰かの手のはず、なのになぜ効かないのか


呼吸できないことで思考が鈍っていく中テオドールは懸命に息をしようと試みるが強く締め付けるその手がそれを許さない


静希に言われたのは息ができない程度に軽く首を絞めておけばいいということだけだ


だがメフィ自身、静希を殺そうとしたテオドールに僅かながらも怒りを感じていた


だからこそ少しでも八つ当たりすることができて嬉しいというのもある


少しだけ強く締める首から声にならない何かの鳴き声のようなうめきが漏れる中静希はテオドールの耳に口を近づける


「お前が何をしようと、お前達が何をしようと俺は殺せない・・・何十人来ようと、何百人来ようと、もしもう一度舐めた真似しやがったら正面から組織ごと捻り潰してやる」


ギリギリと強まる力は静希がメフィの指に触れることで弱くなっていく


ようやく呼吸できたところでテオドールの肺に、脳に、全身に酸素が供給され始める


「従順な対応をしてくれれば、俺だってそんなことはしなくて済む・・・こんなことは俺だってしたくないんだ・・・俺のお願い、少しくらいは聞いてくれるだろう?なぁテオドール?」


「あ・・・わ・・・わか・・・った・・・」


「そうかそうか、それはよかった、これで少しは余計な手間が少なくなったよ」


静希が満面の笑みを浮かべながら音もなく合図をすると首にかかっていた力は解かれ呼吸困難な状態から解放されたテオドールは荒く息をし始める


正直こういった力を行使した脅しのような真似はしたくないのだが自分の命が狙われているのでは手段は選んでいられない


元から断つにはある程度強行策に出ないといけない時もあるのだ


害虫駆除然り、面倒事然り、強い手札を使うときは多少厄介な手順が必要なのだ


「五十嵐、許可が取れたぞ」


電話をかけていた城島が戻ってそう告げる、これですべての条件はクリアされたも同然だ


後はいくつか用意するものがあるだけである


ただ一つ問題がある


「先生、今回のは俺だけってわけにはいかないですかね?」


「いかんな、建前は実習に組み込む訳だから少なくとも班で行動してもらうぞ」


ですよねとがっくりしながら静希は携帯片手に通話を始める


最も厄介な相手であり最も面倒な我らが班長清水鏡花


彼女の説得は骨が折れるだろう


それもこれも全ては地面にいるこのテオドールのせいだと思うと僅かに殺意がわいてくる


もう二、三発蹴りとばしておけばよかったと後悔しながら電話の向こうから聞こえてきた声に僅かに尻込みしながら説得を開始する静希だった




約一週間後、テオドールは正規の手続きを踏んで帰国していた


そして友人に事情を説明し、政府の勅命を発行できるような実力者を集めさせた


表向きはある案件に対しての議論と言うことになっているがその場にテオドールの姿を確認した議員達は何やら不穏な空気を直に感じ取っていた


「皆さんお集まり頂き感謝します、ここで我が友テオドールから一つ皆さんに見ていただきたいものがあるということです、テオドール」


名を呼ばれ準備を始めるとスクリーンが降りてくると同時に部屋が急に暗くなり始める


投影の準備が整うとテオドールは咳払いしてこの場に集まった議員に視線を向ける


「この中に、私の所属する組織に政府の勅命としてある人物の暗殺を依頼した者がいると思われます」


突然始まった訳のわからない内容の言葉にその場にいた政府要人達は一体何の話だと僅かにざわめき始める


静粛にと声が轟く中テオドールはさらに続ける


「結果として、私はその任務に失敗、しかも情けをかけられ生かされたばかりかこうして無事帰国することもできた・・・そしてその暗殺対象から皆さん・・・正確には私に暗殺を依頼した人物にメッセージが届いています」


機械を操作してその中にあるディスクを入れるとスクリーンにある風景が映される


そこはどうやらダムらしい、辺りには多くの木々とそれを縫うようにしておかれている重機、そこが建設現場であることを示していた


『あれ?もう始まってる?』


『始まってるわよ、さっさとしなさいっての』


突然聞こえ出した日本語に戸惑いながらも、字幕が用意されているために内容は理解できた


そしてそれ以上に驚いたのはその声が非常に幼かったのだ、少なくとも大人の出すような声ではない


『えー、テオドールからあらかたの事情はお聞きになったと思われます、初めまして今回暗殺されかけました五十嵐静希と申します、この度は貴方達のどなたかの勝手な都合で殺されかけたことを非常に遺憾に思います』


丁寧な言葉とその声音に隠された怒りの感情にその場にいた何人かが気付いていた


現れた人物がただの日本の学生で、そして何より幼く、笑っているのが特徴的だった


だがそれを実際に見たはずのテオドールの表情はとても良いとは思えない


そしてこのような子供にテオドールがしてやられたとも思えなかった


『つきましては、貴方達にいくつか要求したいことがあります、まず二度と俺を殺そうとしないこと、そしてこれからは丁重な対応をお願いすること、この事を口外しないこと、以上の三点です』


一体何を言っているのかこの学生は、まったく、しょうがありませんなと口々に呟く政治家の面々をその場で見ているかのように静希は僅かに口角を上に傾ける


『と言っても汚い政治家のことです、口で言ったところで全く意味がないと思いました、そこで一つデモンストレーションを用意させていただきました』


映像の中の静希は数歩移動してカメラを移動させる


映し出されたのはダム、しかも彼らはどうやらダムの内部かまたは下流部にいるらしい、そびえ立つ巨大な灰色の壁がその存在感を強く主張している


『貴方達が俺を殺す理由にもなった・・・悪魔の力を今ここで見せてあげようと思います、そして敵に回すか、恩を売るか、どちらかを選んでいただければと思います』


画面中央に映っている石の壁、そして静希が指を鳴らすとカメラの外側から巨大な何かが射出された


無音で放たれた光る何かが壁にぶつかった瞬間、先ほどまで僅かに流れていた風の音や水の音が一切なくなり、次の瞬間轟音より少し早く強烈な衝撃が加わったのだろう、カメラが揺れて転倒する



誤字報告をいただいたので複数投稿


せめてあと一日遅ければちょうどいいところで話が切れたのに、ものすごく中途半端なところで話が終わってしまった



誤字め・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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