殺す理由、生かす理由
そこまでを理解したことで静希もようやく察することができる
このテオドールと言う男はトカゲの尻尾になることを許容したのではなく何とかしてでも生き残って逃げることを考えているのだ
ここでなにを話したところで自分だって何も知らないのだから調べようはない
ならばここで下手に隠し事をするよりも正直に話した方が余計な手間も増えないということだろう
ある意味プロの姿と言う訳だ
「どのような形であれ、向こうへの圧力にはなるが・・・また面倒な事になりそうだな・・・」
テオドールの態度を適切に理解している城島は額に手を当てて悩み始めてしまう
どのような背後があるにせよテオドールが静希の命を狙ったのは事実
現場にはいくつもの武器の証拠もあり、痕跡もある
死者がいないため未遂で終わったにしても犯罪を犯したことに変わりはない
だがそれは今この場所に限った話だ
最悪向こうから掛けられた圧力によって何のお咎めもなしに帰国させられる可能性だってある
外交だけならまだしも能力関係の犯罪はそれだけデリケートなのだ
かといってこのまま放置しても何も始まらない
大元から原因を断ちたいところではあるが、依頼主が誰かわかっていない状態では全くと言っていいほど手出しができない
城島が悩んでいると静希に妙案が浮かぶ
城島の服の裾を引き耳元で囁く
静希が告げた内容に驚愕をあらわにした後どうしたものかと強く悩んでしまう
教師としては止めるべきだが、最も安全かつ平穏に終えることができるかもしれない策だ
ただ条件がいくつかある
「テオドール、一つ確認するが、お前はイギリスの各首脳を一つの場所に集められるか?特に今回の首謀者であると思われる人間全員を」
「・・・可能だ、その中に一人俺の友人がいる、会議に混ぜてもらうか、ちょっとした話し合いくらいならすぐに都合が付くだろう」
テオドールの言葉に静希は内心ガッツポーズする
これで条件の一つはクリアされた、あとはもう一つ、こっちは城島が確認してくれれば即座に可能だ、もちろんいくつか準備はしなくてはならないが
「テオドール、お前の滞在期間はどれくらいだ?」
静希が声を出すとテオドールはなんだ居たのかと呟いてから思い出すように頭を揺らし始める
「確か一週間程度だ、その間に仕留める予定だったんだがな・・・」
予定が狂うのは好きじゃないんだがと付け加えてため息を漏らすその姿はあまり焦っているようには思えない
少なくともこの状況になっても焦っているようすはなかった
「一つ聞きたい、イガラシ・・・何故俺を殺さなかった?」
城島がその場から離れ携帯でいくつか確認を始めている中テオドールが姿の見えない静希に向けて問いを投げかける
それは先ほどまでのひょうひょうとした口調ではなく、どこか真剣なものだった
「逆に聞かせろよ、何で俺がお前を殺さなくちゃいけないんだ?」
「自分の命を狙った奴だ、自衛行動じゃ殺す理由にはならないか?」
「ならないね、そんな理由で殺してたまるか」
少なくとも静希は突然通行人から殺されかけても相手を殺そうとは思わない
そこはやはり日本と海外の意識の違いか、殺されるくらいなら殺すというある種の強迫観念でもあるのか、銃があるかないかでその土地の人間の考えは大きく変わるのだろう
以前メフィと戦った時のような『殺さなくては殺される』という強い恐怖も今回はなかった
今回テオドール相手にそれほど強力な攻撃手段を使わなかったのもそのためである
「殺さない理由はおいておこう・・・ならなぜ俺を生かした?こんなまわりくどいことしなくても、どうとでもできただろう」
テオドールは少し奇妙な言い回しをしてきた
殺さない理由と生かした理由は同じではないのか
静希にとってはどちらも同じであるように思えたがテオドールにとっては恐らく違うものなのだろう
そう考えてみると、静希がテオドールを殺さなかった理由は簡単に言えば『理由がなかった』からだ、理由もなく人は殺せない
では逆に生かした理由はなんだろう
この人間を生かした訳
殺しておいた方が安全ではある、生かしておけば命をまた狙われるかもしれない
今回の静希の策が失敗すれば先ほどのような殺意渦巻く生活が始まってしまう
この男は危険だ
静希は直感からそう感じていた
実力や行動ではない、実際に戦って実際に会話して、目の前にいるこの男を静希の第六感とでもいう器官が危険信号を出している
そしてそれは恐らく正しいだろう
ならば何故自分はこの男を生かしたのだろうか
殺す理由がない?
殺したあとが面倒だから?
そんなありそうでないような理由では納得できない何かがこの男にはあるのだろう
この男を生かした理由、そして生かすだけの価値を見出す為に静希は思考し始める
長年使い続けたパソコンがかなりヤバい状況に
もしかしたら二、三週間の間に新しく買い代えるかもしれないのですが、その際予約投稿になるかもしれません、どうかご容赦ください
休むという考えは毛ほどもありません
これからもお楽しみいただければ幸いです




