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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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見えてくる背景

「こいつは何故お前を狙ってきたんだ?」


「どっかのお偉いさんの秘書から頼まれたとか言ってました、たぶんイギリス関係じゃないかと思うんですけど・・・詳細は分かりません」


静希自身わからないことが多い今の状況において主犯を生かしてとらえることができたというのは非常に大きな収穫だ


何せ彼を拷問、もとい尋問すればある程度の背景を理解できるのだから


「このまま委員会に引き渡してもいいが・・・一応いくつか確認しなくてはな」


「静!大丈夫!?」


城島が拘束されている男に手をかけようとした瞬間に屋上に続いている扉から勢いよく雪奈が飛び込んでくる


買い物袋やカバンも一緒に全力疾走してきたのかかなり息を荒くしている


静希の姿を見るや否や近付いてあちこち傷がないかを確認しだしていた、どうやら相当心配だったらしい


「雪姉落ち着いて、俺は無事だよ、怪我ひとつないよ」


「ホントに?良かったぁ・・・」


荷物を全部その場に落としてへたり込む雪奈、こういう雪奈を見るのはけっこう新鮮かもしれない


危険にさらされることが多い静希、というか能力者ではあるが、対人に対しての真剣な戦闘経験の少ない事がかなり心配を加速させていたらしい


「とりあえずこいつ起こそうと思うんだけど、雪姉手伝ってくれる?」


「へ?いいけど・・・ほほうこいつか、静を殺そうとしたバカ野郎は」


その手に刀を持ちながらその表情は見る見るうちに怒りに染まっていく


感情の起伏が激しいのはよいのだがいちいち反応していては身が持たない、テオドールの上半身を起こして雪奈の近くに運ぶ


城島があらかじめテオドールの視線を封じるように目隠しした状態にしてから雪奈はその体を足で支えて背中にあるつぼを確認しながら二人に視線を向けて確認をとる


「んじゃ起こすよ・・・ほい」


雪奈の使う気絶者のみに有効なツボ押し


激痛により強制的に意識を覚醒させるその技に、先ほどまで意識を喪失していたテオドールも例外なく意識を取りもどす


もちろん激痛という特典付きだ


「あ・・・うぅ・・・」


「起きたか・・・さて話を聞かせてもらおう」


目隠しをされているせいで何処にいるのか何をされたのかもわからない状態でテオドールは歯がみする


もしかしたら舌を噛んで自殺でもするかと思ったがその様子はなかった、ただ自分がヘマをしたということに対しての悔しさだけがあるようだ


「まずお前は何者だ?」


「・・・テオドール・ビンデバルド・・・」


自分が拘束され尋問されているという状況を正しく理解したのかテオドールは抵抗なく受け答えを始める


下手な回答をすれば自分がどのような目にあわされるかを理解しているところをみるとある程度の修羅場はくぐっているようだった


「・・・その名前、間違いがなければ欧州の非合法組織の幹部の名だったと記憶しているが?」


「・・・相違ない」


城島の言葉に静希は疑問符をいくつか飛ばす


欧州と言うことはヨーロッパ圏だというのはわかるのだが、非合法組織の幹部、そう言われても正直ピンとこない


つまりは日本で言うとヤクザ、海外で言うならマフィアやギャングのようなものだろうかとイメージを膨らませるのだが、何故そんなところの幹部が静希を暗殺に来たのかが分からない


「お前ほどの男が何故こんな真似を?たかが学生如きを殺すなら下っ端でもよいのではないか?」


城島の質問に静希も同意する


万が一失敗した時を考慮してこういった鉄砲玉のような行動は下っ端やトカゲのしっぽとできるような組織に対してそれほど影響力のない人間がやると相場が決まっている


幹部と言うからにはそれなりに地位と役割があるだろうに、何故このような事をしたのかが分からない


「・・・理由は二つ・・・一つは相手が悪魔の契約者であると聞かされていた、下の連中では相手にならない、確実性をとるために俺が動いた・・・もう一つは、個人的な依頼だったからとしかいえん」


すらすらと答えるテオドールにこの言葉が嘘ではないかと言う疑問を抱き城島に視線を送るが、彼女は視線に気付くと無言で首を振る


静希よりも長い間人と関わってきた城島はある程度人の嘘などを見抜くことができるようだった


だがそれにしてもなぜこうまで抵抗なくばらすのか


「依頼主は?どこかの秘書と言う話だったが?」


「その通りだ、顔も見せずに政府の勅命の入った依頼書を持ってきた、そうなると俺達は断ることができん」


非合法組織なのにもかかわらず政府の要請を断ることができないとはどういうことだろうか


城島に視線を送ると軽くため息をついて携帯に文章を打ち始める


そこにはテオドールが属している組織は裏で政府と繋がっており互いに不干渉を貫き、時には協力し合う関係であるという内容が記されていた


つまり政府が組織の行動を無視する代わりに、政府の人間は非合法な方法で得た利益などを得るという仕組みらしい


腐った政治体系と言えばそこまでだが必要悪と言われるとまた妙なものである


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