策と電話
静希は走っていた
まず第一に逃げる為、だが襲いかかるのは電流、速度でかなうはずもない
だから静希は杭が落下してきた時点ですでに動いていた
もっとも動いたのは静希ではなくフィアだ
ようやく電撃による麻痺から回復したフィアは能力を応用して静希に向けてその体を伸ばす
伸びてきた身体を足場に静希は上空に跳躍する
屋上全体が電撃に包まれる中、静希は戦慄する
上空に飛ぶ事さえも読んでいたのかテオドールの手の内には一本の杭が握られ静希に向けて狙いを定めている
これで終わったとテオドールが確信し能力を発動、手の内に電気が発生すると同時に彼の目の前の空間が爆発した
何が起こったのかもわからずに爆発に巻き込まれたテオドール、直撃はしていなかったが衝撃によって大きく吹き飛ばされる
爆発の衝撃によるダメージも大きいが何より爆音により三半規管が麻痺し身体が思うように動かない
テオドールが先ほどまで立っていた場所の数歩先には静希のトランプが一枚
水素の入ったスペードシリーズのトランプだった
だが今までの爆発に比べると非常に弱く、しかも限定された爆発しかしていない
全ては静希の作戦通りだった
静希がメフィに頼んだのは消滅の能力
屋上の空間に存在する空気をかなり消滅させ続け、酸素を急激に減らし続けた
空気が消滅することでその場に風が流れ込むが断続的に続けられる消滅に、肺に送られる酸素は急激に低下する
テオドールに対処法などないが、静希は自分の手札の中の酸素を定期的に口元に放出するだけで何の問題もなくなる
テオドールが足元に対して奥の手を使ったのは少々驚いたが、回避という行動のおかげですぐに上空に意識を向けさせることができた
酸欠と上空への警戒で床への注意が散漫になったところにトランプを設置
後は能力を発動する瞬間に水素を解き放つだけ
もっとも酸素を急激に減らしている状態では爆発力も通常よりかなり弱いものになったが、むしろ好都合だった
地面に着地し、衝撃と爆音で感覚と三半規管がマヒした状態で倒れ込んだままのテオドールの顔面を何度か蹴り昏倒させる
一撃で気絶させられなかったことに関しては少々申し訳ない気もしたがむしろ殺さなかっただけ有り難いと思ってほしいものだ
「ったく・・・余計な手間掛けさせやがって・・・」
悪態をつきながら静希はトランプの中からワイヤーを取り出してテオドールを厳重に拘束していく
少なくとも発電の能力では逃れられないように両手両足を縛り身動きを取れないようにした状態で転がしておく
能力を解除して自分の近くに駆け寄ってくる小さな使い魔を肩に乗せて軽く撫でてやると気持ちよさそうに、そして嬉しそうに静希に身体をすりよせてくる
「さてと・・・まずは・・・報告だな」
静希は携帯を取り出して電話をかける
最初に掛けたのは雪奈、きっと自分のことを心配しているだろうから早く安心させてやらなくては
数回のコールの後に雪奈は大声を上げながら電話に出てくる
『静!?無事!?怪我はない!?』
あまりにも大きな声でまくしたてる雪奈に驚き少し携帯から耳を遠ざけてため息をつく
「無事だよ、怪我もない、一応これから先生に報告するから切るぞ」
『え!?ちょっと待ってよ静!今そっち行くから!』
静希が切る前に雪奈の方から通話を遮断してきた、恐らく荷物を持ってここにダッシュでやってくるだろう
心配されているというのは嬉しいのだが刃物を持った状態で全力疾走すると一般人からの視線が痛い、少しは自重してほしいのだが彼女の性格上そうもいかないのだ
次に掛けたのは静希の担任城島
こちらも数回のコールの後に回線を開く
『五十嵐、無事か?』
「はい、一応終わりました、犯人は拘束してあります、今どこです?」
『お前の姿が見えた、後十秒程で着く』
その言葉通りに約十秒後どこからか跳躍してきた城島が屋上に現れる
重力を操ることができると言うだけあって縦横無尽に移動できるというのは非常に便利だ、恐らく学校からここまで能力を使って移動してきたのだろう
「お疲れ様です、こいつが犯人のテオドール・・・なんだっけ」
一度言われた程度では覚えられない奇妙な名前だったのは覚えているのだが外国人の名前はどうも覚えにくい
フルネームを忘れた静希を放っておいて城島は転がっているテオドールを蹴りとばし仰向けにさせる
「この顔・・・どこかで見た顔だな・・・どこだったか・・・」
城島は携帯で写真を撮りながら辺りの様子を確認する
能力者が戦った後にしては被害の少ない状態に、ある意味安堵しているようだった
それも当然かもしれない、静希が悪魔の力を利用すれば屋上どころかこの建物自体が吹き飛びかねない
そういう意味では派手な力を使わなかった静希を褒めるべきだろう




