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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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静希と明利

その後男子陣の入浴後、全員で話し合い見張りの順番を決定した


二十二時~二十三時は明利


二十三時~零時は静希


零時~一時は雪奈


一時~二時は熊田


二時~三時は陽太


三時~四時は鏡花となった


明利以外の五人は破壊されたフェンスのところまで行き、異常がないように見張る、明利は身体を休めながら異常があれば全員を起こす


あらかじめ縁側に全員の靴を出しておき、窓を開ければ即座に出ていけるようにもした


そして時間帯以外は全員睡眠をとるように促した


それに従って全員目を閉じ布団で横になっている


静希が横になって目をつむっていると身体が軽くゆすられる


「静希君・・・」


「時間か・・・」


「・・・うん」


小声で話す明利は申し訳なさそうな顔をしていた、まだ自分が見張りをやるといいだしそうな顔だった


Tシャツの上から制服を羽織り、静希は縁側に向かう


あたりは月で照らされ、先ほどまでと打って変わって周囲を明朗に映しだしていた


「しっかり休んでおけよ、明日はフルで動くんだ、休んでおかないと身体もたないぞ」


「・・・うん」


靴を履いて静希は走る


破壊されたフェンスのところまでは数分でたどり着いた


近くの廃材に腰をおろして山の方を見る


月に照らされた木々は風に揺られて村の静けさを強調しているようにざわめいた


都会では聞けない音だ


そしてこの月明かりも静希にとってはとても新鮮だった


ライトをつけなくても辺りが見回せるというのは、街灯の少ないこの村では月が出ている時しかあり得ない


月の光がここまで強いものだとは思わなかった


普段は街の光にかき消されてしまうほど弱い光、月だけではなく、星も、住んでいた場所とは違いすぎる


見上げるだけで落ちてきそうなほどに点在する星、水の中に砂金を落とした時のように輝いている、金よりもはるかに淡く美しい光を放っている


星を見ながら見張りをしている間に、携帯のアラームが鳴る


どうやら一時間経ったようだ


不思議なもので非日常における時間は日常よりも早く感じる


だからこそ非日常は貴重に思われるのかもしれない


腰をあげて村長の家に戻ると、縁側には明利が腰をかけて月と星を眺めていた


「起きてたのか」


「あ・・・おかえり」


「寝てろって言っただろ」


「うん・・・ごめんなさい」


少し申し訳なさそうに、そして嬉しそうに明利はほほ笑んだ


「寝れないのか?」


「・・・うん」


「そうか・・・」


静希はそれ以上何もいわずに縁側に腰を下ろした


「静希君は・・・」


「ん?」


「怖くないの?」


明利の声は震えていた


初の実戦、そして初の夜、恐怖を覚えるのには十分だろう


今まで訓練はあっても、本当に命をかけたやり取りなどなかったのだから


「・・・お前は怖いのか?」


小さく手を握り、小さな肩を震わして声を絞り出していた


「さっき、雪奈さんが怪我をした時、怖かった」


目標が村に侵入した際に雪奈が負傷した、あの時は迅速かつ非常に適切な判断と処置をできていたが、平静を取り戻したことでその時の恐怖が襲いかかってきたのだろう


実戦において、誰かが傷つくということを明利は自覚した、自覚し、恐れた


「私は・・・怖いよ・・・誰かが怪我をするのが怖い・・・静希君が・・・怪我をするかもしれないのが怖い・・・」


自分ではなく、誰かが怪我をすることが、明利はそういった


自分を二の次にして、誰かの平穏を願える明利は、どれほど優しく、そして臆病であるか


静希はそれを良くわかっていた


「私は、皆を・・・守れない・・・」


誰かを守りたいと思っていても、守る力が明利にはない


索敵で誰かを助けることはできる、治癒で誰かを救うことはできる


だが、明利は誰かを守れない


襲いかかる脅威から、誰かを守る力が明利にはない


だから怖い、決意や意志ではどうしようもない、襲いかかる者に対してどうすることもできない無力感


明利に襲いかかる物は他でもなく明利自身が生み出しているもの


静希は一瞬言葉を詰まらせた


何と言おうものか、考えた


何といっても明利は恐怖するだろう


実戦である以上、怪我をしないということは絶対にあり得ない


それでも気休めで誰も怪我などしないというべきか


否、そんな言葉は言うべきではない


「明利、お前はさっき、雪姉を治しただろ?」


静希も、明利と同じ、守る力を持たない


「お前は索敵もできる、傷を治すこともできる、確かにそれじゃ誰かを守ることはできないかもしれない」


収納を駆使して、あらゆる工夫をして対抗できるだけの手段を講じることはできる、だが誰かを守るための力ではない


「でもお前のその力は守ることはできなくても、誰かのためになる力だ」


静希とは違う、誰かのための力


「俺は今までお前の力に助けられてきたし、きっとこれからも助けられる」


「・・・」


自分に自信のない明利は無力を悔いる、悔いてもどうにもならないから、恐怖する


誰かが傷つくかもしれない、もしかしたら死んでしまうかもしれない


「たぶん明日も、俺は怪我をするだろうし、皆少なからず怪我をすると思う」


「・・・!」


その場面を想像したのだろう、明利は服の裾を強く握って唇をかむ


「だから、もし俺達が怪我をしたら、お前が治してくれ」


「・・・っ」


明利が息をのむのが聞こえた


明利の頭に添えられた静希の手が、ゆっくりその頭を撫でていく


「できないかも・・・しれないよ?」


「できるかどうかを今考えても意味ないよ、結果を作るのは原因と過程だ」


やるかやらないか、その場で全力を出せるかどうか


静希は確信している、明利はいざという場では百%を超える実力を発揮できると


明利はうつむいて静希になでられるままになっていた


「なあ明利、俺の力じゃ誰も守れないし、誰も助けられない、だからお前に頼むんだ」


静希の力では、誰かを傷つけることはできても、守ることはできない


それは今までこの能力と一緒にいた静希の正直な気持ちだった


明利の正面に立って、明利の肩を掴んで顔を近づける


「明利、俺を助けてくれ、危なくなったら、怪我をしたら、お前が俺を助けてくれ、お前にはそれができる、大丈夫だ」


「・・・!」


明利は泣きそうな顔をしていた


大丈夫


その言葉は明利に静希が何度も言った言葉だった


そして静希が自分に言い聞かせている言葉でもあった


「もう寝よう、明日は早いぞ?」


「・・・うん」


撫でられた頭と、掴まれた肩に触れながら、明利はほほ笑んだ


「おら雪姉起きろ!交代だ」


「うぇう!?もぉこうたい・・・?」


雪奈を叩き起こす静希の背中を見ながら、明利はほほ笑む


「ありがとう、静希君」


明利の言葉は静希には届かなかったが、それでも十分だった


明利は自信を持って言う


「静希君は、私が助けるよ」


月に照らされた明利は、儚げにほほ笑む


それは誰に言うでもなく自分に向けた誓いのようだった


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