アドバンテージ
「・・・さすがにガキと思って甘く見過ぎたか」
テオドールは自分のスーツの上着を脱ぎながらサングラスをとる
その視線の下には鋭い三白眼、見る人が見れば恐怖と畏怖を覚えるだろう
だが静希は全く怯まない
「なんだ、案外目つき悪いな、もっとつぶらな瞳してるのかと思ってたよ」
「・・・お前こそ、もう少し大人しいかと思ったら随分と気性が荒いな」
「性格が悪いって言ってくれよ、そっちの方が好みだ」
互いに互いをけなし合いながらその距離を正確に測っている
静希はまず相手に接近されないように攻撃しなくてはならない
相手の攻撃が至近距離による電撃とわかった以上テオドールに触れられることさえ許されない
触れた瞬間スタンガンのように電流を流される、そうなれば静希に対抗手段はない
何とか遠距離からテオドールを攻略しなくてはならない
対してテオドールは鉄の杭を使ってでもいいから牽制をしながらも静希に接近すればよい
一度でも距離をゼロにすれば静希を気絶させられるのだ
手の内をさらしたのは痛手だが、それでもまだテオドールが圧倒的に優位
何せ静希は自分の手の内を見せないことを前提に戦闘している
相手が敵だとわかっているのに手の内をさらすバカはいない、いかに自分の能力を晒さずに相手を倒すか
静希は幾重にも思考を重ねながらテオドールの一挙一動を観察する
スーツを脱いだ下には何本も鉄の杭が用意されている
ベルトにも似た装飾に何本もの杭が装着され、鈍く光っているのが確認できる
それを見て静希は僅かに眉間にしわを寄せる
露骨な誘導と牽制
わざわざスーツを脱いで自分の遠距離攻撃の残弾などを示す意味はない
ああして攻撃手段があるということを示すことで逃げ場はないぞと言っている
つまり、接近戦を誘っている
内心ため息をつきながら静希はオルビアを構える
フィアはまだ動けない、予想以上に流された電流が強かったようだ
おおきく息をついて静希は決心する
誘導に乗ってやることにした
呼吸とタイミングを整えて一直線にテオドールに向けて切りかかる
毎晩の雪奈とオルビアの特訓によって静希の剣術のレベルはそれなりなどと言うものとは一線を画すほどに向上している
それでも師である二人には到底及ばない
だが武器を持たない素手の相手には十分すぎる実力である
フィアがいなくなったおかげか、テオドールは高速でのオーバーアクションの回避を使わなくなっていた
テオドールの能力は至近距離の発電
体内に発電し筋肉を電気により刺激、強制的に動かすことで通常よりも速く、そして強く身体を動かしているのだ
だがもちろんそれは諸刃の剣でもある
無理矢理動かすということはそれだけ身体に負荷がかかっているということだ
何より攻撃時に高速で動かなかったということは、その場からの緊急回避程度にしか体内発電を操れないということでもある
加えて相手は素手
それにもかかわらず接近戦を誘ってきたということはそれだけ自分の体術に自信があったか、またはまだ秘策があると考えていいだろう
誤算があるとすればそれは静希の剣術だ
見た目では相当大きく重いであろうオルビアを普段は両手で操るものの、時には片手で軽々と振るって見せる
オルビアに重さがないということを知らないテオドールとしては静希の筋力が予想以上に高いか、または身体能力強化系の能力だと誤認しているのだ
静希が横一文字の軌道で振るった剣を上体を後ろにそらすことで避けるテオドールは、そのまま右手を突きだした
だが静希の身体には届いていない
当然だ、静希の持つオルビアの剣から逃れるために、それだけ離れているのだから
だがその手の中には鉄の杭が握られている
僅かな発電と共に鉄の杭が高速で射出される
鉄の杭を視認した段階で避ける為に身体を逸らしていた静希は飛んでくる杭をギリギリでかわす
髪の毛が何本か杭に巻き込まれて焦げた臭いを漂わせるが幸いにも負傷はない
この飛んでくる杭、簡単に説明すればレールガンと同じ原理なのだろう
電磁誘導により物体を加速させて打ち出す技術、兵器などにも利用されている
発電量が少ないためか、それともただ単に操作が下手なのかそれほどの速度は出ていない
全力で陽太が投擲した程度の速度だ
だがそれでも十分に攻撃力がある
ボールなどが当たるのとは訳が違う、鋭く尖った鉄の杭、当たれば間違いなく重症を負うだろう
僅かに体勢を崩した両者は一度距離をとって互いの様子を見定める
接近戦を行いながらも遠距離武器を多用するテオドール、それに対して接近戦用武器オルビアのみを使う静希
形勢はどちらに傾いているとも言い難い
ただ言えるのは手の内を明かしていない静希の方がアドバンテージがあるということだ




