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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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屋上の能力者

路地裏の壁を利用して一気に上へと駆け上がる静希を見ながら雪奈も行動を開始していた


まずは自分の近くに静希がまだいると思わせる


何度か荷物を向こうに投げた後少しだけ顔を出して二、三口を動かすしぐさだけをする


今も見ているかは分からないが何もしないよりかはましだ、自分にできることがほとんどない以上、できることをするしかないのだ


「静・・・気をつけてね」


聞こえていないはずの雪奈の声に応えるかのように静希はフィアを操る


一気にビルの最上階まで駆け上がり狙撃手のいるであろう方角に疾走する


高速で移動しながら、静希が予想した建物の屋上に狙撃手らしき人物がいるのを肉眼で確認した


狙撃手はまだ気が付いていないようだった


通りを飛び越え近くのビルを足場にして狙撃手の直上に躍り出る


寝そべるような形で雪奈のいる方向に長身の銃を向けるその男


スーツ姿に黒い髪、角度的に人相まではわからなかった


直上に躍り出たことで、さすがに接近する静希達に気がついたのか、狙撃手は懐から拳銃を取り出して現れた巨大な獣にまたがる静希に銃口を向ける


静希とてただ狙わせるわけではない


フィアを左右に反復するように高速で移動させて狙いを絞らせないように接近しオルビアを振るい、その手に持っていた拳銃を叩き落とす


「諦めて降参しろ、何でおれを狙う?」


フィアにまたがったまま静希はスーツの男に切先を向ける


サングラスを付けた男は黒い髪をオールバックにしている


その顔立ちはアジア系の人種ではないことがうかがえる、オルビアのおかげで言葉は通じるだろうが一体どこから送り込まれたのかが不明瞭だ


「くっそ・・・だからやりたくなかったんだ・・・」


「質問に答えろ、なぜ俺を狙う?どこの回しものだ?」


悪態をついて煙草に火をつける男はまるで追い詰められているという自覚がないようだった


すぐに使える武器を失っている状態にもかかわらずその立ち居振る舞いはまったく動揺を感じていないようにも思える


すでに彼は立ち上がっていて、地面に置いてある狙撃銃をとるとも思えない


何より少し気崩したスーツと僅かに浮かべる笑みが奇妙な不気味さを演出する


「質問に答えよう、俺はある人物からお前の暗殺を依頼された、方法は自由、報酬はかなりのものだったよ」


「誰から依頼された?俺の素性をどの程度知らされている?」


誰かから頼まれ自分を殺そうとしている外国人


明らかにイギリスがあやしいが、もしかしたら別のところから情報が漏れたかもしれない以上、楽観視はできない


静希の情報をどの程度持っているかで犯人の予測ができる


正しい情報を持っていればいるほど、誤った情報があればある程その情報源は特定しやすい


「どっかのお偉いさんの秘書から、お前さんの身辺情報と連れている奇妙な生き物について・・・かねぇ」


静希は目の前の男を睨みながらゆっくりと接近する


フィアにまたがったまま目の前の男に殺意を向け続け周囲の警戒を強めていく


「随分とぺらぺらとしゃべるんだな・・・一応名前も聞いておこうか」


「テオドール、テオドール・ビンデバルド、親しげにテオって呼んでくれてもいいぜ?それにさぁ・・・」


テオドールと名乗った男は軽薄そうに笑い二、三回紫煙をまき散らして火も消さずに煙草を地面に捨てる


その笑みが明らかに何かの確信を持っている事を静希も気付いていた


「これから死ぬ奴になに言ったって問題ないだろ?」


テオドールの身体から、いや正確には服の中から何本もの鉄の杭が射出される


警戒を強めていた静希はフィアを操り、難なく回避をするのだが回避した先にテオドールが回り込んでいる


速い


静希が抱いた最初の感想がそれだった


苦し紛れに振るったオルビアの剣を、すれすれでかわして放たれる拳が静希に直撃する瞬間に、フィアがその体を大きく揺らし静希の身体を自分の背から振り落とす


地面に転がりながらも拳を避けることに成功した静希は体勢を整えて再びテオドールに切先を向ける


「逃げるなよ、下手に避けると痛い思いするぞ?」


「ひと思いにってことか?お生憎様だ、こちとら死ぬ気ゼロなんで」


目の前のテオドールに意識を集中しながらも先ほどの現象を正しく理解しようと思考をフル回転させる


突然服の中から射出された鉄の杭、そして人間とは思えない程の速度で移動してきた身体能力


杭を飛ばす、高速で移動する


この二つが矛盾しない一つの能力だとすれば念動力と考えるのが自然だ


だがそれならば何故わざわざ拳で攻撃してきたのだろうか


杭の残弾が無くなったから仕方なく拳で攻撃したということも考えられるだろうか?


否、自身の身体を高速で移動させることができるだけの出力を持った能力ならばわざわざ拳で攻撃する意味はない、念動力自体で攻撃すればいいだけだ


では城島のように重力を操る能力はあり得るだろうか


否、射出された杭はみた限り等速で射出され、重力に従って落下しているように見えた、重力による操作と加速が行われたとは思えない


フィアが静希の近くに駆け寄りテオドールに向けて威嚇し続けている


能力の解析は後回しにしてまずは確実に相手の武装を取りあげることを考えることにした


どんな能力にしろ武器に頼るということはそれだけ自分の能力が劣っていると公言するか、その武器や道具がなければ能力の応用ができないと言っているような物


まずは相手の手札を減らす為に徹底的に武装を破壊していくのが定石である


静希はゆっくりフィアの身体の影に隠れながら先ほどたたき落とした拳銃を拾い、容易く分解する


銃器の扱い、特に分解と整備と組み立ては何度もやらされた工程である、この程度は造作もなかった


武器をそのまま利用するということも考えた


事実このまま銃を使用すれば静希は圧倒的に優位に立てるだろう


だが相手があれだけ素早く動けるとなると拳銃を奪われるという可能性だってある


そうなるともし追い詰めても形勢を逆転されかねない


自分が使いなれた武器で、戦いなれた方法で追い詰めるのが一番勝率が高いのだ


「随分慎重なんだな、話に聞いてたのとはちょっと違う印象だ」


「へぇ、一体どんな印象受けてたのか気になるな」


目の前で余裕そうな笑みを浮かべているテオドールには焦りも緊張もないように見える


恐らくは相当の経験を積んだ能力者だ


できるならばしっかりと対応を考えた上で数人で襲いかかりたいところだが、テオドールが何者かと通じている以上、手の内は晒したくない


何より相手がどれほどの事を知っていようとも、それが事実とは限らない


特に以前任務でイギリスに行った時、静希の能力を正確に認識しているのはただの一人もいなかった、そして悪魔の契約者であるとわかった時も静希は能力を見せていない


つまりこの状況において能力が不明なのは互いに同じ、こちらは少しだけ手の内がばれているようだが、最初からあまり使うつもりがない以上あまり意味がない


逆に無駄に警戒してくれているのだ、それを利用しない手はない


静希が銃を分解すると同時にテオドールは足元に突き刺さる鉄の杭を何本か回収する


残弾の回収


単にそれだけの理由とは思えなかった


「もうちょっとおしゃべりしたいけど、お前としてはどうなんだ?スケジュールは崩したくないタイプか?」


「そうでもねえさ、時間はたっぷりある、喋っててもいいぜ?お前としては情報が少しでも欲しいだろうしな」


会話をすることで相手の情報を少しでも得ようとしている静希の思惑はあっさりと見破られてしまう


どうにもやりにくい


心理戦を得意とするわけではないが、相手の方が思考速度のレベルが一つか二つほど上だ


それだけ経験を積んだ能力者であることがうかがえる


相手の出方次第というところでもあるが、恐らくはテオドールの能力は出力の大きさで競うタイプではなく小手先の技術で切り抜けるようなものであると思われる


いうなれば静希と同じタイプだ


フィアを盾に遠距離からの攻撃をしてもいいが、それだとテオドールの姿も必然的に静希の視界から外れることになる


速度のある相手に対してその姿を視界からはずすのは得策とは言えない


狙撃銃を分解せずにビルの上から落とし、目に見える相手の武装をすべて使用不可にした時点で静希はオルビアを構える


すぐそばにはフィアが威嚇を繰り返している


静希の思惑を測りかねているのかテオドールは手の中で鉄の杭をくるくると回転させながら手遊びしている


一回、二回、三回と鉄の杭が回転したかと思えばその場から消え静希に向けて高速で射出された


対して静希は射出されたと目で確認してすぐに避けることなく前に走り出した


回避しない、その行動にテオドールは僅かに目を見開いた


それもそのはず、彼の放った杭は寸分違わず静希の眉間へ向けて放たれているのだ


だが鉄の杭が静希にあたることはない


静希の危険を察知して邪薙が障壁を展開していた


その身体の数十センチ手前で見えない壁に弾かれた杭は回転しながら宙を舞い、地面に落下する


それと同時にその手に持った剣がテオドールめがけて振り下ろされていた


命中する


その確信とは裏腹にオルビアの剣は空を切った


今そこにいたはずのテオドールはその姿を消した、いや、静希はその目で捉えていた


剣が命中するその数瞬前にテオドールは左に跳躍、華麗に回避したのだ


視線の端にその姿をとらえている、高速で水平に跳躍した先ほどの姿とはうって変わり、その着地の姿は華麗とは言えないもので、何度か転がるようにして身体の動きを止めていた


恐らくテオドールもかなり必死に避けたのか、僅かに体勢を崩していた


しかも屋上ギリギリ、フェンス付近まで移動している


どうやって移動したのか、どういう能力なのか、まだ分からない


だがその隙を見逃す静希ではない


「フィア!」


意志を名前に込めて叫ぶとフィアが高速でテオドールに向けて襲いかかる


テオドールは体勢を崩している状況から再度高速で移動する、だが無理な体勢で移動したせいか今度は高速で跳躍した後に何度か地面を転がった


何度か転がるのを確認する少し前に静希も走り出す


誤字報告が五件たまったので複数投稿


書きたい話が頭の中でぐるぐると回っているのが現状です、でも並行投稿できるほど速筆でもない、どうしたものか


これからもお楽しみいただければ幸いです

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