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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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功労者

「何か参考とかないのか?こうそれっぽいの」


「参考?・・・そうね・・・例えば火の神様の名前で火之迦具土神の迦具っていうのは輝くっていう意味があるらしいわ、輝く火の神っていう意味になるわけね、それみたいにあんたの槍に意味を持たせるならちゃんと調べなきゃいけないかもね」


鏡花が持ち前の知識を陽太に伝えると頭をひねっていた陽太はより一層強く悩み始めたのか頭を抱えて唸り始めてしまう


考えるという行動自体が得意でない陽太にとって頭脳労働ほど向かない仕事はない


「おい馬鹿ども、私たちの仕事は終わりだ、撤収するぞ」


「え?もういいんですか?」


警察の指示をしていた竹中と、何らかの対応が終わったのか城島が頭を掻きむしりながら戻ってくる


静希達の目的は人質をとっていた犯人の制圧、それを考えれば目的はすでに達していると言えるが、こうまであっさりしていると拍子抜けしてしまう


「後は大人の仕事だ、厄介事は全部向こうに押し付ける、とっとと帰るぞ、こんなところにいつまでもいたくはないだろう?」


城島が向ける視線の先には警官隊をしきりに撮影している報道陣がいる


作戦を決行した時よりも多くなっているその数に全員が嫌な顔をした


確かにこんな場所にいつまでもいたらあのカメラの矛先が自分たちに向かないとも限らない


妙な報道をされる前にさっさと帰った方がよさそうだった


城島自身、生徒をこれ以上カメラの前に晒すのは得策ではないと判断したのだろう、無駄話を切り上げさせるタイミングとしては最善かもわからない


「じゃあ先生、今度俺の槍の名前考えてくださいよ」


「槍?お前のあれは槍じゃなくて鎚のように見えたが?槍なんて大きさじゃなかっただろうに」


城島の言う通り陽太の使った槍はその大きさから槍のスケールを大きく超えたものだ


それこそ大きな丸太を持っていると認識した方が早いほどに


静希達はとっととその場を離れる為に身支度をして移動しようとするのだが通り道が報道陣で埋められてしまっている、あそこを通るにもカメラに映るのは必須のようだった


「どうしますか?強行突破なんてできないし・・・」


相手は一般人だ、能力を使って蹴散らすわけにもいかない


かといって無駄に能力を使わずに通ろうとしても質問攻めにあうのは目に見えている


「・・・面倒だな、飛ぶか」


城島の言葉に反応する前に荷物を持った静希達の体に異変が起こる


全員の身体が宙に浮く、いや空に向けて落下している


身体を包む独特の浮遊感と共に、徐々に速度が速くなり、回転しながら方向を変える不可思議な挙動に舌を噛みそうになりながらあわてていること数十秒、正常な重力に掴まれ地面に落下する静希達


落下したのは刑務所からかなり離れた位置にある歩道橋の上だった


「いってぇ・・・もうちょっと優しくできないんすか!?」


「なにを言うか、お前達をああいう輩に関わらせないのが最大限の優しさだ、あとは知らん」


確かに報道陣に捕まらなかったのは有り難いがもう少し生徒の肉体面に対する優しさがあってもいいのではないかと思ってしまう


だがそんなものは今さらというものなのだろう


きっちりと着地できたのは雪奈だけ、それ以外は全員頭や尻、背中から地面に落下したためにしきりに身体をさすっている


「とにかくさっさと帰るぞ、問題は解決したんだ」


荷物を持って駅に歩きだす城島に対して生徒達は大きくため息をついて立ち上がる


今までの校外実習に比べて後処理が随分と適当なような気がするのは気のせいだろうか


「はいはい・・・なんだか今回はすごい急だったな」


「事前に情報収集もなにもなかったからね、何泊かするのを覚悟してたんだけどな」


「でも早く解決したからそれなりに評価は高いんじゃないかな?」


「そうか?なんか現場を無茶苦茶にしたイメージしかないぞ?」


「私は何か物足りないな、あんまり活躍できなかったし」


「戦闘よりも潜入がメインだったからな、仕方ないだろう、それに誰も負傷者がいなくて何よりだ」


城島の後を追う静希達は口々に今回の実習について議論を交わすがその中でも最も多かったのが鏡花の愚痴だった


なにせ廃棄所から侵入させた上に後始末はほとんどというか全部鏡花任せだったのだ


不満もあれば愚痴も出るだろう


今回の一番の功労者と言っても過言ではない


そして二番目の功労者は明利だ


現場の状況をほぼ正確に把握し適切に現場に伝えられたその手腕は褒められてしかるべきである


明利の索敵がなければ状況を正しく把握することも、またどう対処していいかもわからないまま右往左往していたかもしれない


今回のような室内戦においては明利の能力は非常に有効に作用するというのがよくわかった


特に侵入や突入に関しては重要となる内部情報を知ることができるのだ、そういう意味では熊田の索敵も十分役に立ったが、彼の索敵は局地的なものであり広範囲にわたる行動には不向きである


そう考えると明利と熊田、この二人がそろっていると室内隠密行動においてはほぼ最高の人員がそろっていると思われる


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