その槍の名を
「ちなみにこの槍に名前とか付けないのか?」
静希が何とはなしに言った言葉に陽太と鏡花は眼を見開く
「そうだな・・・忘れてたぜ・・・技名・・・何かテンションあがるじゃねえか!」
「確かに発動のスイッチとして名前があるのはいいかもしれないわね・・・こいつのモチベーション的にも」
陽太はただノリとかっこいいからという理由で付けそうだが鏡花の場合はしっかりとした理由がある
ある特定の技能を使う場合しっかりと定義付けされた固有名詞があると発動が容易になるというのはよくあることだ
名称と実際の行動を連動した状態で記憶するという意味で、名前というのは非常に重要な意味をなす
緊急時にあれだこれだと抽象的な事を言うよりはっきりと名前を告げる方がよっぽど有効的である
つまり、名前と槍のイメージを結びつけて発動をより容易にすることができるということだ
そしてそれは『槍』といった総称よりも固有名詞であれば相手への撹乱にもなる
「何かかっこいいのがいいな・・・あと叫びやすいの」
「叫ぶ必要ってあるのか?」
「必要だって!技名叫びながらブチ込むのってテンションあがんじゃん!そういうのかっこいいじゃん!」
同じ男として陽太のこの心理がわからないでもない
男子たるもの必ずどこかの年齢で必殺技に憧れるものなのだ
逆に女子である鏡花と明利はその心理を理解できないようだった
「叫ぶって・・・そんなの無駄なだけじゃないの?集中だって途切れそうよ」
「うん・・・何回かやったら対応されちゃいそうだよ?」
純粋な女子である鏡花と明利は叫ぶ必要性を理解できないようだ
そもそも名前をつけることは必要だが叫ぶ必要は確かにない
どちらかと言えばそれは男のロマン、一度でもいいからやってみたいという憧れに他ならない
「わかってない、わかってねえよお二人さん、大声で叫びながらぶちかまして相手を倒したら最高にかっこいいだろ?」
陽太の武器となった槍はそもそも人に対して使っていいような武器ではないような気もしたのだが、そこは置いておこう
そしてその心理が理解できるのだろうか雪奈と熊田はうんうんとうなずいている
「だとしたら本人の一番いい名前がいいと思うよ、陽は何てつけたいんだ?」
「あー・・・俺ネーミングセンスないからさ・・・鏡花、なんかねーの?」
唐突に名前を決めろと言われてもなにも思いつかない
特に陽太の使うのは槍、槍の名前でどんなものがいいのかなど想像もつかない
「そんなの伝説とかにある槍でいいんじゃないの?ほら必ず心臓を穿つ槍とか、千人長の槍とか」
鏡花の言っているのは英霊が使ったと言われる槍とキリストを刺したとされている槍
どちらも伝説級の代物だ
実物など見たこともない上にあるかどうかも分からない
「わかってねえな、そういう伝説とかはさておいてオリジナリティーが欲しいんだよ、確かに伝説級のはかっこいいけどさ、そこを超えるようなあふれる独創性が欲しいんだよ」
熱弁する陽太を見ながらまた面倒な事を言い出したなこいつと思いながら鏡花は悩み始める
そもそもにおいて鏡花だってネーミングセンスがあるとは言えない
自分の使う技や変換の効果に名前を付けたことがない上に、今まで何かに名をつけたことなんてなかった
「・・・静希、なんかない?」
「俺に振るなよ・・・槍・・・槍ねぇ・・・」
いくつか考えるのだがろくな名前は思いつかない
特にもともと有名な槍の名前がいくつもあるためにそっちの方にどうしても引っ張られてしまう
「あれだな、槍よりも使用目的とか特徴で考えるか」
「あー・・・炎とか破壊とかそっち系統ってことね」
元より槍のような外見をしていないのだからその方が考えやすい
陽太自身かっこいい名前をただ叫びたいという感じがあるのでそんなに悩むのもバカらしいと思ったのだ
「ちなみに陽太君、英語がいい?それとも日本語系がいい?」
「え?どういうこと?」
「だから、邪薙さんみたいな和風がいいか、メフィさんみたいな洋風な名前がいいか」
明利から出た予想外の意見に陽太は頭を抱えてしまう
名前というのは重要だ、良くも悪くもその名前によって陽太の槍の威力は変化するだろう
適当な名前を与えてその効果を下げられても困る、故にしっかりと考えなくてはいけないのだが、陽太は妙に悩んでいた
「それこそ和風になったら邪薙原山尊みたいなのになるかも・・・けど俺は日本人だし・・・英名の方が叫びやすいか・・・?でもなぁ・・・」
どうやら英名にするか和名にするかで悩んでいるようだった
変な事に悩む奴だと思ったが、確かに悩むのも必要かもしれない
静希達の能力の名前は他人によって与えられたものがほとんどだ
自分で考えることももちろんできるがそんな面倒な事をする能力者など数えるほど
そんな中で初めて自分の『技』に名前をつけるのだ、悩みもする




